山薬は「山芋」が原料?!漢方における効能と日常的な活用法
山薬(サンヤク)というと耳慣れない人が殆どだと思いますが、「山芋」や「長芋」であれば大抵の方は馴染みがあるはずです。すり下ろしたり、刻んだりして食卓に並ぶことも多い食材ですが、実は生薬として用いられている薬効食材でもあります。今回はその山薬に注目し、漢方薬での効能と、漢方の智恵を生かして日常的に取り入れる方法をご紹介します。
目次
山薬とは??
芋類はじゃがいもやサツマイモのように火を通して食べることが多いですが、「山芋」や「長芋」は主に生で食べられている珍しい種類の芋類です。山芋や長芋はすり下ろしたり、刻んで海苔と一緒に食べたりなど、主に生食が好まれていますが、炒め物や蒸し物など幅広く応用できるので人気食材となっています。
成分にジアスターゼという消化酵素を含み、消化にも良い食材として古くから親しまれてきました。ネバネバ食材の一つでもあり、精力がつくため「山のうなぎ」とも呼ばれるほど。
そんな長芋、山芋は漢方の世界では生薬の「山薬(サンヤク)」として活用されています。ヤマノイモ科のヤマノイモまたはナガイモの皮を除いた根茎を乾燥させたものが「山薬」と呼ばれる生薬になります。さまざまな漢方薬に配合され、強壮作用、滋養作用などの薬効をもっています。
山薬の効能効果
山薬の原料となるヤマノイモやナガイモには、でんぷんの分解酵素である「ジアスターゼ」が豊富に含まれ、大根の3倍量にも及びます。さらには活性酸素を除去する作用のあるカタラーゼも含有しています。また、元気をつける、精をつける食材としても人気のある食材でもあります。
生薬の山薬は苦味も辛味もない「平」の薬性をもちます。効能には滋養強壮作用、緊張を緩める作用などがあり、下痢を止める止瀉作用、鎮咳作用もあります。「脾」を養い、胃腸の機能を高める作用も持つため、胃腸が虚弱な方に使われることの多い生薬です。
山薬はさまざまな目的で漢方薬に配合されており、次のような治療に役立てられています。
- 胃腸の症状(慢性胃炎、食欲不振、胃腸虚弱)
- 腰痛
- 下痢
- 咳
- 排尿困難、性欲減退
- 疲労、体力低下
- 糖尿病
山薬を含有する漢方薬
山薬は滋養強壮、胃腸虚弱などの改善を目的にさまざまな漢方薬に配合されています。全てを紹介するのは難しいため、主な代表的な漢方薬を紹介していきます。
八味地黄丸(はちみじおうがん)
高齢者の夜間頻尿や排尿困難、腰痛などに使われることが多い漢方薬ですが、女性の更年期障害や不妊などに用いられることもあります。「腎陽虚」を改善する作用があり、陽が不足していて冷えている状態を改善します。山薬は八味地黄丸に含まれる地黄と一緒に腎の精や陰を養います。溜まった水分の巡りを促すだけでなく、附子を含むため温める作用にも優れた漢方薬です。
牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)
八味地黄丸に牛膝、車前子という生薬を加えた処方のため、八味地黄丸と同じ適応ですが、特に水分代謝や陽気のめぐりが悪いときに用いられます。陽気の不足により冷えて体内の水分が滞りやすいために起こりがちなむくみや腰痛、しびれを改善する効果があり、主に高齢者に用いられます。山薬は腎精の不足を補う意味があり、長期の疾患や老化により衰えた腎の機能を高める効果があります。
啓脾湯(けいひとう)
小児や病後の下痢、食欲不振のある時に用いられる漢方薬です。やせて、顔色が悪く、下痢の傾向がある人に適しています。山薬には胃腸と同じ機能をもつ「脾」の機能を高める効果があり、脾気を養い食欲不振を改善します。胃腸がもともと弱いタイプの人が食べ過ぎた場合にも対応する漢方薬です。
薬膳食材として山芋を取り入れよう!
山芋は漢方薬に配合される生薬としてだけではなく、薬膳の世界でも活用されています。山芋は「平/甘/脾・肺・腎」の四気五味・帰経をもち、脾と腎の虚弱を補います。また、肺を潤す作用もあるので、空気の乾燥する秋冬、風邪をひいて喉が痛いときに摂ると良い食材です。胃腸を元気にして刺激も少ないので、病中病後の回復食にも適しています。
なお、胃の働きを助ける消化酵素であるジアスターゼ(アミラーゼ)は加熱により失活する性質があるため、胃に対する作用を期待するならば生食がおすすめです。火を入れても、滋養、補気作用など期待できるので毎日のメニューに気軽に取り入れてみましょう。
山芋のパワーを取り入れて健康で元気な体を手に入れよう!
私たちの身近に存在する山芋、長芋は、実は漢方においても重要な役割を持っていることが分かって頂けたかと思います。山芋、長芋から作られる「山薬」には胃腸の機能を高めて、老化や精力にも関わる腎の機能を高める作用もあります。「山の薬」と書かれるように、まさに山のお薬のような存在です。ぜひ、普段の食生活にも取り入れて山芋のパワーにあやかりましょう。