逆流しやすい人とは?逆流性食道炎の症状と胃の形の違い

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逆流性食道炎は日本人に少ない病気でしたが、食生活の変化などによって近年患者数が増加しています。

成人の約15%前後が罹患していると推定されており、特に中高年や高齢者に多く発症し、適切な治療を受けない場合は胸やけ症状などが持続することで日常生活に少なからず支障をきたすようになります。

ここでは逆流性食道炎を取り上げ、原因と症状、なりやすい人について解説します。

逆流性食道炎の原因

逆流性食道炎では、強い酸性の胃液や、胃で消化される段階の食べ物が食道に逆流して炎症を引き起こすことによって胸やけや胸痛などの症状が生じます。

胃粘膜から分泌される胃酸の主成分は塩酸であり、食道には防御機構がないために胃酸や胃の内容物が食道に逆流することで容易に食道粘膜に炎症を引き起こします。

胃自体は胃酸に対する防御機構があり、健常な人でも多少の胃酸逆流を認めることはありますが、逆流する時間が短いために大きな問題になることはありません。

食道に関しても正常な場合には、胃液や胃の内容物が逆流しないように、食道と胃の境目に存在する下部食道括約筋が逆流防止の役割を担っています。

下部食道括約筋の機能低下

下部食道括約筋は食べ物がその部分を通過するとき以外は胃の入り口を締めて胃の内容物が食道に逆流しないように機能しています。しかし、この筋肉が何かしらの原因で緩んでしまうと胃から食道への逆流が起きるようになります。

下部食道括約筋の機能が低下すると胃酸が逆流を起こして食道に炎症が広がります。さらに、食道の蠕動運動が悪くなることで胃の内容物が一時的に逆流した際に迅速に胃に送ることが困難となり、食道にさらに炎症が広がります。

逆流性食道炎につながるさまざまな要因

逆流性食道炎は、加齢・食事の内容・肥満・姿勢などによって、食道を逆流から守る仕組みが弱まるか、胃酸が増えすぎることで胃液が逆流するために起こります。

逆流性食道炎のその他の原因として、脂肪分や蛋白質の多い食事内容を食べ過ぎることで胃酸が過剰に増加する、あるいは薬の副作用なども考えられています。

逆流性食道炎の症状

逆流性食道炎の症状は非常に多岐に渡ることが知られており、無症状な方もいる一方で胸焼けや胸痛、もしくは咽頭違和感などを自覚する場合もあります。

胸やけの症状は胸が焼けるように感じる、胃液などが食道に逆流して食後に胸やみぞおちのあたりが痛む、あるいは胸が締め付けられるような痛みを覚える、などさまざまです。

また、酸っぱい液体が口まで上がってきてゲップがでることもあれば、逆流した胃酸によってのどや口腔内に炎症が起こることによって喉を痛めることも考えられます。

症状が悪化すると食べ物が飲み込みづらくなる、声が枯れる、口内炎が多発する、あるいは逆流した胃液が気管支を直接刺激して咳や喘息が引き起こされる場合もあります。

逆流性食道炎の代表的な症状である胸のつかえ感やのどの違和感などは、食道がんでも認められる症状ですし、重症の逆流性食道炎は食道の悪性腫瘍が発生しやすいとされていますので注意が必要です。

逆流性食道炎になりやすい人とは

次に紹介する逆流性食道炎のリスク要因に該当する人は、逆流性食道炎になりやすい人といえるでしょう。

ストレス

一般的に、日々のストレスが胃炎や胃潰瘍と関連性があることは周知の事実ですが、実は逆流性食道炎とストレスにも密接な関係があります。

普段から胃酸分泌は自律神経の機能によって調整されており、過剰なストレスがかかることで自律神経障害が引き起こされると胃酸の分泌量や胃酸分泌の時期が変動し、こうしたことも逆流性食道炎の発生に少なからず影響を与えると考えられています。

常日頃から過大なストレスを溜め込みすぎないようにして、ストレスがかかった際には趣味や好きなことを行ってストレスを発散させるようにしましょう。

肥満

逆流性食道炎になりやすい背景である下部食道括約筋が緩む原因は、加齢のみならず食べ過ぎや早食いなどによる胃部内圧の上昇、あるいは肥満体形や衣服による締め付けなどに伴う腹圧上昇などが挙げられます。

肥満体型の人は普段から脂肪分や炭酸飲料を大量に摂取していることが多い傾向が見受けられます。特に脂肪の多い食べ物の摂り過ぎは、下部食道括約筋が緩むトリガーとなるので注意が必要です。

晩御飯などを食べてすぐに寝る習慣を持っている人も注意が必要です。食後は胃酸がもっとも多く分泌されるタイミングですので食べてすぐ寝てしまうと胃酸の逆流が起こりやすくなり逆流性食道炎になりやすいと考えられます。

飲酒

アルコールは胃酸の分泌を促すと言われているため、普段の生活において多量に飲酒すると食道と胃の境目が緩むと同時に大量の胃酸が逆流しやすくなります。

特に空腹時に飲酒すると、胃の粘膜を刺激しやすいことが指摘されています。飲む前に枝豆や豆腐など比較的脂質が少なく、食道や胃などの消化管への負担が少ない食べ物をあらかじめ摂取してから飲酒するように心がけましょう。

アルコール度数の強いお酒は胃の粘膜を直接的に荒らしますし、お酒の中でも特にビールや発泡酒に含まれる炭酸ガスは胃内部の内圧を高めて胃酸の逆流を起こしやすいと考えられていますので、たしなむ程度にとどめましょう。

喫煙

たばこは胃酸の分泌量を増加させる以外にも下部食道括約筋を緩める作用があると考えられています。喫煙習慣のある人は逆流性食道炎を発症しやすいといわれています。

実際に、禁煙治療を受けた人を対象に胃酸の逆流に関して調査した結果として、禁煙に成功した人の約半分弱は逆流症状が軽減したと伝えられています。

さらに、喫煙そのものが逆流性食道炎のみならず、食道がんなどを含むさまざまな病気のリスクファクターとなっているため、どうしても禁煙が難しいという人は禁煙外来などを活用することをおすすめします。

その他

ストレス、肥満、飲酒、喫煙以外にも、例えば背骨が曲がりもともと前屈み体型になりやすい方、仕事の都合などで長時間前屈みの姿勢をとる傾向が多い人の場合には、胃が圧迫されて腹圧が過剰に上昇することで胃酸が逆流しやすくなると考えられています。

また、最近では一時的な逆流に伴う粘膜の炎症によって、食道の過敏性を高めて知覚過敏状態に陥ることで逆流性食道炎を発症させる可能性も示唆されています。

他にも、普段から熱い飲み物や食事、あるいは刺激が強い嗜好物を摂取する人、野菜や果物を日常的に食べない人も逆流性食道炎に罹患しやすいといわれています。

逆流しやすいタイプは?胃の形による違い

胃の形はいくつかのタイプに分類することができ、それぞれ機能に特徴があります。また、起こりやすいトラブルも異なっています。

欧米人に多い牛角胃(ぎゅうかくい)

牛角胃は、牛の角の形に似ており横長ですっきりとした形が特徴であり、横胃と呼ばれることもあります。

欧米人に多い形の胃であり、すっきりとした形をしているため、胃で消化した食べ物が十二指腸へスムーズに排出されます。

牛角胃は、内蔵や内臓脂肪によって胃の中央部が下から押し上げられるために、このような形になっていて、特に内臓脂肪の多い人に見られる形で、十二指腸潰瘍になる傾向が高いともいわれています。

胃の中に流れてきた食べ物が消化された後に十二指腸へ排出されやすい牛角胃は、胃もたれしにくいのも特徴です。

胃もたれしにくく消化がスムーズに行われるため、満腹感を得にくい傾向があり、食べ過ぎてしまう人が多いです。

日本人に多い鉤状胃(こうじょうい)

鉤状胃は、縦長でつり針のように曲がった形をしていて、日本人に多い胃の形です。

胃の中央部下の湾曲した部分が、出口である幽門部より低い位置にあるため食べ物がたまりやすいです。

胃が上手く機能している時には、十二指腸へ消化した食べ物を送り出せますが、ストレスや疲れなどがたまり胃の動きが悪くなると、食べ物がスムーズに十二指腸に流れず胃もたれの原因になります。

胃の動きを助けるような働きかけをすることで、胃もたれが改善するケースが多いです。

もともと胃の中央部下の湾曲した部分に、食べ物が溜まりやすい形である鉤状胃は、胃の働きが悪くなるとその影響を受けやすいです。

長期にわたり胃もたれを感じている場合は、自律神経のバランスが崩れている恐れがあり、自律神経の乱れによる粘膜の血流低下で胃酸の過剰分泌などが起こると、胃の粘膜が次第に破壊されてしまいます。

そのためストレスによる胃もたれが多い場合は、胃潰瘍になりやすいといわれています。

胃は、自律神経の働きによってコントロールされている器官であるため、ストレスや疲れによって自律神経が乱れてしまうと胃の働きも悪くなってしまいます。

肥満の影響を受ける瀑状胃(ばくじょうい)

日本人の10人に2~3人の割合で、瀑状胃の方が存在しますが、生まれつき瀑状胃というのは稀であり、多くの場合は、肥満によって瀑状胃になってしまいます。

内臓脂肪が増えることで、胃の下部が押し上げられて瀑状胃の形になります。

瀑状胃は、胃の上部が大きく膨らんでおり「く」の字を逆にしたような、折れ曲がりの強い形が特徴です。

折れ曲がりが強い形をしているため、食道から入ってきた食べ物が胃の中で流れにくく胃の上部に食べ物が残ることがあります。

胃の上部に食べ物が残るため、胃酸が出やすい傾向にありますし、食道へ胃酸が逆流して、胃もたれや胸やけといった、酸逆流症がでやすい胃の形です。

多くの方は、胃もたれや胸やけの市販薬を飲んで症状を抑えようとしますが、瀑状胃の場合は薬が効きにくいです。

瀑状胃では酸逆流症を起こしている根本的な原因は胃酸ではなく、胃の上部に食べ物が滞留することによるものです。

胃もたれや胸やけの症状が、薬でも治らない場合は瀑状胃である可能性があります。

まとめ

逆流性食道炎とはどのような病気なのか、逆流性食道炎の原因と症状、逆流性食道炎になりやすい人の特徴などを中心に解説してきました。

逆流性食道炎は食道に胃酸などが逆流して主に胸焼け症状を引き起こす病気であり、近年のライフスタイルの変化によって患者数は増加傾向であるといわれています。治療しないで放置していると日常生活に制限が生じて生活の質の低下にもつながります。

適切に治療することで健常時のレベルまで回復することも知られていますので、気になる症状がある人は早めに医療機関を受診しましょう。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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