冷え性との違いは?低体温症の治し方と救急対応のポイント
寒い時期になると低体温症として救急車で運ばれる人の数が増加します。また低体温症とまではいかなくとも、冷え性や体温の低下による体の不調に悩まされている方は多いことでしょう。
ここでは低体温症を取り上げ、どのようなものなのか、そしてどのように対処すれば良いのかについて解説します。
目次
体温を高く保つことはなぜ必要?
人は他の哺乳類と同じように、体温を一定にして生活をする恒温動物です。では、なぜ体温を一定に維持しているのでしょうか。
酵素と体温の関係
哺乳類だけではなく、すべての生物は体の中で化学反応を引き起こすことで生きています。この化学反応を助けているのが酵素です。酵素は様々な物質を合成したり、分解したりするために常に働いています。
酵素の特徴として、どのような酵素でも至適温というものが決まっているということがあります。つまり、特定の温度の時に最も酵素の能力(これを酵素活性と言います)が最大限発揮されるという特徴があるのです。
人をはじめとした哺乳類が持っている酵素の多くは、だいたい37度で酵素活性が最大になります。そのため、人は努力して体温を37度前後に保つことで酵素活性を最大化し、生物としての活動を最大限発揮できるようにしているのです。
なお、人の酵素の中でも免疫に関する酵素はやや高めの温度の時に活性が最大化するという特徴があります。そのため、細菌やウイルスが体内に入ってくると人は体温を上げることで免疫に関する酵素の活性を最大化し、細菌やウイルスを排除しやすくします。これが発熱です。
体温を一定に保てなくなる場合
このような体温を調節する機能を請け負う場所は体温中枢と呼ばれ、脳幹部という脳の中心部にあります。体温中枢の命令で体のさまざまな体温を調節する機能が活動し、体温を一定に保とうとするのです。
この体温中枢の調子がおかしくなってしまった場合や、体温中枢の命令が体のさまざまな部位に届かない場合、あるいは体のさまざまな部位が十分に動かない場合や、体温を維持するのに不十分な活動しかできない場合に体温が異常となってしまいます。
体温が高すぎる状態を高体温症、体温が低すぎる状態を低体温症といい、いずれの場合も体のさまざまな機能が低下してしまう異常事態です。
この記事で取り扱う低体温症は、定義として体の中枢温が35℃を下回った時のことをいいます。
低体温の原因
低体温の原因は、主に二つの要件が重なることによって引き起こされます。
1つ目は、外気温が低いことです。
2つ目は、体温を維持する機能が不十分となってしまう状態です。例えば、四肢末梢の血管がうまく収縮できない場合が挙げられます。
飲酒
具体的には飲酒をしたときなどが典型的な例です。飲酒をすると、体温中枢が軽度の麻痺を起こしてしまい、体温を上げる指示を十分に出せない場合があります。また、飲酒をすると手足の血管を広げる作用があるため、寒くて血管を収縮させようとしても十分に収縮させられないこともあります。
筋肉量が少ない
体温を上げるための他の生体活動として、筋肉の収縮が挙げられます。体温中枢が体温を上げようという命令が筋肉に伝わると、筋肉を動かすことで熱を産生するようになります。しかし筋肉量が少ないと十分に体温を上げられず、低体温症になってしまうのです。
もともと痩せている人は筋肉量が少なく、体温を上げる機能が低下していますから容易に低体温になってしまいます。また痩せている人は脂肪による保温効果が少ないですから、そのような面からも低体温になりやすいといえるでしょう。
心臓の機能が低下する
そしてもしも低体温症になっても放置して、どんどん体温が低下して重症化すると、体の様々な機能が低下してしまいます。
例えば、心臓であればだんだんと心臓の活動が低下してきます。脈拍数は低下し、血圧も低下してきます。また、脈拍数の低下に伴って心臓の動きも悪くなり、特に体温が下がってしまうと不整脈が出現し、心停止に至ります。
血液の異常
他に顕著に低体温の影響が見られるのは血液です。血液を固まらせる成分というのは体温が低下すると異常に活動しはじめてしまい、体の中で血液が固まったり、逆に固まった血液を溶かそうとして溶かす成分が増えすぎてしまった結果血液が固まりにくくなってしまったりします。
また、血液は普段、pHが弱アルカリの7.35~7.45と非常に狭い範囲でコントロールされています。しかし体温が低下するとこの維持も困難となり、急激に酸性に傾いてしまいます。酸性に傾くと組織での酸素の取り込みが悪くなったり、さまざまな臓器の活動が悪くなったりと、全身の状態が一気に悪くなってしまうのです。
このように、低体温は心臓への影響に加えて、凝固機能異常と血液の酸性化という重篤な状態を引き起こしてしまうため、命に関わるのです。
普段から慢性的に低体温となっている人は、低体温だからといってこのような症状が出てくる訳ではありませんが、それでも一定以上体温が下がってしまうと体の中でさまざまな不都合が生じてしまう可能性があります。
低体温症の救急対応
では、低体温症と思われる場合はどのように治せば良いのでしょうか。基本的には「暖めるだけ」なのですが、それも重篤化すると難しくなってしまいます。
軽症の場合は暖かい場所に移動して体を温める
明らかに四肢末梢が冷たくても、意識がしっかりしていて体も自分の意志で動かせるような場合は、暖かい場所に移動して体を温めましょう。
気温を暖かくした上で毛布を羽織るなどして保温に努めます。温かいものを飲むのも良いでしょう。
もし衣服が濡れているのであれば、乾燥に伴って気化熱を奪い、体温がさらに下がってしまいますから濡れている衣服は脱がせます。
中等症以上では速やかに救急車を呼ぶ
意識状態の低下が見られたり、自分自身で体が動かせなかったりした場合には中等症以上の低体温といえます。また、脈を測ってみて脈が遅かったり、不整だったりする場合も危険な状態と考えられますので、すぐに対処が必要です。
このような場合、外表面から暖めるだけでは十分に加温することができません。皮膚表面の血管が非常に強く収縮しており血流があまりありませんから、そこを暖めても血液がなかなか温まらず中心部の体温が上がりません。
また、血流が悪い場所を無理に暖めるとその場所が低温火傷を起こしてしまう場合があるため、注意が必要です。
中等症以上の低体温の場合は速やかに救急車を呼びましょう。
救急車が来るまでにすること
救急車が来るまでは、不十分とはいえできる限りの加温をするべきです。先ずは濡れた着衣があるのであればすぐに脱がせましょう。
可能であれば電気毛布などで加温します。このとき、高い温度で加温してしまうと低温火傷になってしまいますから、暖めてあげる程度の加温にとどめます。
病院で行われる治療
病院ではさまざまなアプローチで体温を上げようとします。
まず、外表面を暖めるために温風式加温装置を利用します。温風を体外に循環させることで低温火傷を防ぎながら加温します。
鼻から胃まで管をとおし、温かい水を入れてから吸い出すことを繰り返すことで、胃の中から暖める治療も行われます。同じように、膀胱に管を通して膀胱を温める治療も行われます。
これでも体温がなかなか上昇しない場合や、血圧が低くて不安定な場合などは簡易な人工心肺装置を利用します。足の付け根などの太い血管に管を入れ、血液を体外に吸引した後温めて、血管に再度血液を戻すことで温かい血液を循環させて体温を回復させます。
このようにさまざまな体温回復治療を行いますが、実際にはここまでの低体温を来した場合は臓器合併症が起こっているため、救命は容易ではありません。
低体温症は何よりも予防することが重要です。寒い日にはしっかり保温して、アルコールの取り過ぎや、必要のない外出は避けるようにしましょう。
低体温症と冷え性の違い
よく体温が低いという人がいますが、そのほとんどは冷え性といえます。
冷え性は、手足の末端が冷たくなってしまい、それにより不快な症状が起こるのはもちろん、指の末端の血流が悪くなってしまって色が悪くなってしまったり、しもやけになったりする状態をいいます。
このとき、体表の温度をはかる非接触式の体温計で体温を測ると低めに出ることがありますが、鼓膜や腋窩で測る体温計で測ると、そんなに低い体温ではないことが多いです。
実は冷え性というのは、体温を維持しようとする体の機能がしっかり働いている証拠ともいえるのです。
体の中心部の体温を保つ働き
先ほど、体温を維持するために脳の体温中枢から体温を維持するように命令を出すと解説しましたが、これによってまず起こってくるのが末梢血管の収縮です。
そもそも血液は体中に酸素や栄養素を届けるために循環しているものですが、それと同時に血液自体が温度を持っており、体中に熱を届ける役割も果たしています。
しかし、血液が体表に多く流れてしまうとそれだけ外気温にさらされてしまい、すぐに冷えてしまいます。冷えた血液が血流によって心臓、そして脳へと伝わってしまうと体の中心部も冷えてしまいます。
そのため、外気温が低下したことを察知すると、体温中枢は体表面の血管を収縮させ、あまり血液を流さないようにします。これにより、体温の低下を抑えるというわけです。
この血管収縮によって血流が悪くなるのが極端となって血流が低下したり、血流の低下はさほどでもなく温度があまり下がっていないにもかかわらず敏感に温度が低下したと感じてしまったりする場合に、冷え性の症状が出てきます。
このような反応が起こることによって、手足は冷たくなりますが、体の中心部の体温は保たれますから、冷え性の症状があっても低体温にはなっていないことがほとんどです。
つまり、冷え性は体が体温を守るために起こっている反応を示している症状といえます。逆に低体温になってしまう場合、体が正常な状態を保てなくなってしまっているため、非常に危険な状態といえます。
慢性的な低体温
冷え性が増えているといわれていますが、実際に体温が下がってしまっている人も多いようで、様々な問題を引き起こします。
60年ほど前には平熱を調査すると平均して36.8度と回答されていたようですが、最近の調査では36度台前半が平均となる調査が多く、平均体温が低下しているのではないかといわれているのです。
原因はさまざまありますが、エアコンの普及で体温を維持する機能が低下しているとか、歩く機会が減ったため熱の産生が抑えられているとかの理由が示唆されています。
体温が下がってしまうと血流が悪くなり、体の機能が低下してさまざまな症状が出現してきます。
低体温によるさまざまな症状
例えば筋肉の血流量が低下しますから肩こりや腰の痛みを来したり、腸管の機能が悪くなって下痢や便秘を起こしたりします。その他にも眼精疲労、むくみ、易疲労感(疲れやすさ)、睡眠不足、月経不順など、さまざまな体の不調の原因となるのです。
慢性的な低体温はまだ病気としては一般的に認知がされていませんが、今後問題となってくる可能性が高い領域といえるでしょう。
低体温の体質を改善する方法
低体温の状態が体に悪いことはお分かりいただけたと思いますが、では低体温を改善させるにはどのような方法があるのでしょうか。簡単にできるものもありますので、ぜひ実践してみてください。
入浴で温まる
最も分かりやすく、単純な方法として、入浴して温まるという方法があります。シャワーではなく、湯船にしっかり浸かって体を温めます。
時間がなかったり掃除が面倒であったりなどの理由で、シャワーで済ませたいと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、入浴は非常に簡単に体温を上げる方法です。38度から40度ぐらいのぬるめのお湯に、10分から20分程度、少し長めにゆっくり浸かることで、体を芯から温めることができます。
1日1回10分ほど湯船に浸かることで、体温が約1度上昇すると言われます。単純に温まるというだけではなく、湯船に浸かることで下半身に水圧がかかり、静脈やリンパ液が押し上げられ、心臓に戻ってくる血液の量が増えることによって、全身の血行が良くなると考えられます。むくみも改善しますので、肩までしっかり浸かる入浴の仕方がおすすめです。
白湯を飲んで胃腸を温める
入浴が体の表面から温める方法だとすれば、体の内側から温める方法として考えられるのが、暖かいものを飲んで胃腸を温める方法です。特に寝起きは胃腸が休んでいて、冷えている可能性が高いですから、そのような時間帯に白湯を飲むことで、胃腸などの内臓を温めることによって血の巡りをよくします。
この方法でも、内臓の温度が1度程度上がると言われています。飲み方にもポイントがあって、飲む時間帯は朝ごはんを食べる30分くらい前がいいです。また飲み方も、一度にごくっと飲んでしまうのではなく、ゆっくりと10分から20分ぐらい時間をかけて飲むようにしましょう。
スクワットで筋肉をつける
体に熱を加えるのだけではなく、熱を作るための筋肉を増やすというのも、冷え性対策には有効です。筋肉が増えると熱を効率的に産生できるようになり、体温を下がりにくくすることができます。
スクワットは下半身の大きな筋肉を連動させる運動で、大腿骨と背骨をつなぐ大腰筋なども使われます。筋肉量が増えれば筋肉が生み出す熱が増え、また日常生活における活動量も増えるでしょう。
1日の体温を上げるという意味では、朝方に運動をすると効果的です。スクワットがしんどいという方は、朝にウォーキングを30分程度行うことも効果的です。朝に体を動かすことで熱を産生し、1日の体温を高めにキープすることができます。
腹巻や湯たんぽを活用する
せっかく体温を上げても、冷えてしまっては意味がありません。体を冷やさないように腹巻や湯たんぽなどを使用するというのも一つの方法です。
起きている時には、厚着をするなどして体温調節をしますが、特にお腹が冷えてしまうと体温が急激に下がってしまいます。そのため、腹巻をすることで、内臓が冷えないようにすることにより、体全体が冷えるのを防ぐことができます。
また、寝る時に足先が冷える方は湯たんぽを使用するとよいでしょう。
漢方薬を活用する
冷え性に対してよく漢方薬が使用されますが、低体温に対しても有効と考えられます。というのも、漢方薬の領域では、体温が低い状態は冷え性と同じく陽気が不足していると考えられているからです。陽気不足の体質を改善することで血液の流れを良くし、低体温が改善すると考えられています。
陽気不足を改善する漢方薬としては、朝鮮人参や附子(ぶし)、黄耆(おうぎ)などが含まれた漢方薬が使用されます。
具体的には十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、婦宝当帰膠(ふほうとうきこう)、参茸補血丸(さんじょうほけつがん)、海馬補腎丸(かいまほじんがん)、八味丸(はちみがん)などがあたります。また、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は体全体の活気を取り戻す役割を担いますから、活気がなく低体温の場合によく使われ、胃腸の不調にも使われます。
こうした漢方薬の活用に加え、体を常に温めることを意識し、暖かい衣類を着る、温かいものを食べる、といった対策をするとよいでしょう。