憩室炎の痛みの特徴は?なりやすい人の傾向と治療法

便秘がちな人は腹痛にみまわれる機会も多くなります。また、便秘に伴って腸管内圧が高くなると、消化管壁に憩室できることがあります。特に左下腹部の痛みなどをきっかけに検査をすると、憩室炎が見つかることがあります。
ここでは憩室炎を取り上げ、なりやすい人の傾向や治療法について解説します。
憩室と憩室炎

憩室とは、消化管壁の一部が外側に突出し、嚢状(袋状の形)になった状態を指します。
憩室は食道、胃、十二指腸、小腸、大腸のいずれの部位にもできますが、大腸にできることがもっとも多いです。
特に、大腸憩室は、1個だけではなく複数個できる場合が多く、そのほとんどは後天的に出現して、大腸の壁の強さと腸管内圧のバランスが崩れることでできると考えられています。
憩室炎は、この憩室に炎症が起こる病気です。無症状であることが多く、その時点では治療の必要はありませんが、便が詰まるなどして炎症が起こると憩室炎となります。
なお、憩室は大腸の右側と左側にできる場合があり、憩室炎のリスクが高まるのはどちらの部位か、明確なことは分かっていませんが、大腸の左側に発生した憩室炎は合併症を伴いやすく、重症化しやすいといわれています。
憩室炎を発症するメカニズム
近年、高齢化や食生活の変化によって便秘の頻度が高まっています。糞便を送り出すための腸管運動が亢進すると腸管内圧が高くなり、圧に耐えられなくなった腸管壁の一部が、外側に膨らむことで憩室や憩室炎が発生しやすくなります。
憩室炎ができやすい場所
憩室の4分の3が右側の大腸に生じるといわれています。また、加齢によって進展して、左側の結腸での憩室が増加するとされています。
憩室炎は左下腹部の痛みなどをきっかけに疑われることが多く、身体所見、血液検査、画像検査の結果をもとに診断につながります。
憩室炎になりやすい人の傾向
憩室炎は、通常40歳以上の人で多く発症します。
憩室炎は、どの年代でも重症化する可能性がありますが、高齢者で最も重症化し、特にコルチコステロイドなどの免疫系を抑制する薬を服用している場合には、感染のリスクも上昇するため、重篤な状態に陥る場合があります。
HIVに感染した人とがんの化学療法を受けている人では、憩室炎の発生リスクが高くなります。
50歳以上の人では、憩室炎は女性により多くみられる一方で、50歳未満の人では、憩室炎は男性により多くみられます。
特に、40歳以上の中高年者の大腸に憩室があることが多く、特に食物繊維の摂取が不足している人にできやすいといわれています。
憩室炎の発症リスクを高める因子としては喫煙や肥満が指摘されており、喫煙者や肥満の方々は、憩室炎の発症リスクが上昇するとともに、憩室炎に伴う様々な合併症にかかるリスクも高くなることが知られています。
痛みに特徴はある?憩室炎の症状

憩室炎の主な症状は左下腹部痛、腹部の圧痛、発熱、嘔気、嘔吐、下痢などが挙げられます。
病状が悪化すれば、瘻孔に伴う尿路感染症(膀胱との間に瘻を形成した場合)や腹膜炎などがみられることもあります。
大半の大腸憩室は無症状で臨床上は問題になりませんが、憩室に炎症を起こして憩室炎を発症する、あるいは憩室から出血した際(憩室出血)には早急な治療が必要となります。
近年、大腸憩室炎や大腸憩室出血は増加傾向にあり、再発率も多く、特に憩室出血では1年以内に再度憩室出血を起こす確率が30%程度といわれています。
憩室炎の検査方法
憩室炎では、血液検査で白血球などの炎症反応に関連した数値の増加を認め、腹部CT画像検査では、炎症をきたしている憩室周囲の壁が肥厚する、あるいは周囲脂肪織が混濁するなど炎症所見が見られます。
炎症が非常に強く穿孔をきたしている場合は、本来では認められない空気成分が存在することもありますし、膿瘍形成を伴っている場合は、球状の膿の塊がCTなど精密画像検査で確認されます。
特に、憩室炎に似た病気との鑑別や、憩室炎で起こりやすい合併症を診断するためには画像検査が重要であり、CT検査または超音波検査が行われることが一般的です。
また、大腸がんなど、他の重大な消化管疾患がないことを確認するために、憩室炎が治癒したタイミングで大腸内視鏡検査を行うこともあります。
憩室炎の治療
憩室炎の症状が軽度の場合は、安静だけで治療できることがあります。
重度の場合は入院してもらった上で、抗菌薬を静脈から点滴投与する以外にも、時に手術が必要になるケースもあります。
憩室炎の治療は、基本的には膿瘍・穿孔など合併症がみられるかによって異なります。
主な治療方法には抗菌薬投与、腸管安静、外科手術などがあり、治療の経過を確認しながら治療法を決定していきます。
膿瘍・穿孔を伴わない憩室炎では、抗菌薬を投与しながら腸管の安静を保つことで症状が軽快することを期待します。
高熱や血液検査で高い炎症反応がみられる場合には、いったん入院したうえで食事制限をして腸管を安静に保ち、水分や栄養補給のための点滴を行うことが一般的です。これらの症状がみられず腹痛が自制内である場合は、外来で治療が可能なこともあります。
一部の患者さんは治療後も改善がみられず膿瘍が出現し、膿瘍を伴う憩室炎に準じた治療が必要になることもありますし、治療後も再発を繰り返す場合、腸管狭窄、瘻孔といった症状がみられる場合などは、大腸を切除する手術が必要になる場合があります。
膿瘍・穿孔を伴う憩室炎の治療
膿瘍・穿孔に伴い、広範囲に腹膜炎がみられる場合(汎発性腹膜炎)には危険な状態であるため、大腸や周囲臓器を切除する緊急手術が必要になります。
膿瘍が小さく腹膜炎の範囲が限られている場合は、抗菌薬やドレナージ治療(カテーテルなどを用いて膿などを体外に排出する治療)で対応できることもありますが、そのような治療を行っても症状が改善しない場合は大腸を切除する手術が必要です。
まとめ
憩室とは消化管の一部分が小さな風船の袋のような状態になることで、ほとんどが大腸(結腸)に発生します。
憩室があっても大半の方は無症状のままで日常生活を送ることができますが、憩室に糞便が溜まった状態で長時間が経つと、内部で細菌が増殖し、憩室に炎症が生じて、憩室炎を発症することがあります。
憩室炎の主な症状は、腹痛や発熱、下痢症状などが考えられます。
炎症の強さによっては、腸管穿孔(腸管に穴が空くこと)を引き起こしたり、膿瘍を形成したりすることもあり、注意深く経過を観察する必要があります。
憩室炎の代表的な治療としては、絶食による腸管安静が基本となり、絶食を行う場合は、水分や栄養が不足するため、基本的には、入院の上で点滴での治療を行います。また、点滴治療に加えて抗菌薬投与を行うことで、細菌の増殖を抑えます。
ほとんどの場合には、抗菌薬の投与で症状が軽快しますが、穿孔や膿瘍を形成している場合は、外科的手術や膿瘍ドレナージといった集中治療が追加で必要となることもあります。
適切な治療を行って症状が改善したとしても、憩室炎は非常に再発しやすい疾患とされています。
ほとんどの場合は、無症状のまま経過することが多く、必要以上に恐れる必要はありませんが、治療歴のある方は、腹痛や血便が出現した際には、速やかに消化器内科など専門医療機関を受診して、相談してください。
今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。