暑くないのに汗が出る!健康な人の汗と病気が疑われる汗

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暑くもないのに汗をかいてしまうという症状はありませんか? 多くの場合は特に問題ないのですが、時折重篤な病気が隠れている場合があります。ここでは汗が出るメカニズムや汗をかく要因、そして、病気が疑われる汗について解説します。

そもそも汗はどうして出るのか

暑くなると汗をかきます。汗をかくと、汗が気化するときに熱を奪い、身体の体温が下がります。この汗をかく機序は、脳からの命令でコントロールされています。どのようにコントロールされているのでしょうか。

エクリン腺

まずは汗を出す汗腺を分類しましょう。汗腺には大きく分けて2種類があります。1種類目がエクリン腺です。エクリン汗腺は身体全体に分布している汗腺です。このエクリン腺から分泌される汗は漿液性で、無色透明無味無臭の汗です。ほとんどが皮膚に直接開口しています。

アポクリン腺

2種類目の汗腺がアポクリン腺です。アポクリン腺は身体の限られた部分にあり、特に脇の下に多く分布しています。アポクリン腺は毛根部に開口しているという特徴があります。アポクリン腺から分泌される汗は白く濁っていて、脂質やタンパク質などの匂いの元となる物質が多く含まれています。

神経系の働き

汗の調節をしているのが神経系です。特に自律神経系によってコントロールされています。脳が汗をかくよう命令を出すと、脳から脊髄、そして交感神経を通って命令が伝えられます。なお、交感神経による刺激は全身の様々な場所に作用しますが、神経から末梢組織へ情報を伝達する物質は基本的にはノルアドレナリンです。しかし汗腺に対する刺激だけは例外で、神経から汗腺へはアセチルコリンを利用して情報が伝達されています。

そのため、アセチルコリンを阻害するような種々の薬剤を使用すると、汗が出にくくなるという副作用が出てくるのです。

健康な人にも当てはまる汗をかく要因

では、汗をかく命令はどのような場合に出てくるのでしょうか。状況に応じて分類していきましょう。

温熱性発汗

脳が暑い、体温を下げなければならないと感じたときに起こる発汗です。また運動をしたときの発汗もこの温熱性発汗に分類されます。

手のひらや足の裏を除く全身から持続的に発汗してきます。とくにエクリン腺からの汗が多くなります。暑いときに激しい運動をすると、1時間に2リットル以上の発汗があることもあります。大まかに100mlの汗が蒸発すると体温が1度低下すると言われています。

精神的発汗

人前に出て緊張したときなど、ストレスがかかったときに出てくる汗です。主に脳の前頭葉や辺縁系と呼ばれる場所が刺激することで発汗が起こります。手に汗をかく、冷や汗をかくといった汗の出方がこれに当たります。精神的な刺激によって出てきますから、精神性発汗と呼ばれているのです。

汗腺としてはエクリン腺、アポクリン腺の両方からの発汗があります。部位としては脇や手のひら、足の裏など局所から出てきます。

額の発汗は代謝が上がった脳を冷やすために出てくると言われています。一方で脇の発汗は逃避するために筋肉を使う準備として脇の太い血管を通る血液を冷やして全身の体温を下げるために発汗が起こると言われています。手のひらや足の裏の発汗は、滑らずに木の枝をつかんで逃げる猿の名残であるという説があります。

味覚性発汗

辛いものや酸っぱいものを食べたときに出てくる汗です。味覚の刺激によって反射的に分泌され、食事を終えるとともに汗が止まります。主にエクリン腺による分泌で、特に額や鼻などからの分泌が増えてきます。

この発汗は理由ははっきりと決まってはいませんが、辛さによる刺激を口腔内の温度上昇と脳が勘違いして冷却しようとしているという説があります。

暑くないのに汗が出るのは病気の可能性も?

暑くなくても精神的、味覚的に発汗することはありますが、そのような刺激がないのに病気のせいで汗が出る場合があります。汗が出る病気を紹介します。

甲状腺機能亢進症

甲状腺は喉のところにある分泌腺のことで、甲状腺ホルモンというホルモンを分泌します。甲状腺ホルモンは交感神経系を刺激し、身体の活力の源となるホルモンです。

この甲状腺が何らかの原因で機能が亢進し、甲状腺ホルモンが必要以上に多くなってしまう状態を甲状腺機能亢進症と言います。

甲状腺機能亢進症が起こると交感神経系が活性化される影響で動悸や息切れ、イライラ、頻脈などが起こってきます。またそれに伴って暑がりとなり、寒いのに汗をかくと言った症状が起こってきます。

甲状腺機能亢進症は妊娠に伴って一過性に起こってくる場合もあります。

更年期障害

更年期障害は一般に45歳から55歳頃の女性に起こってくる症状です。閉経に向けてホルモンバランスが乱れ、様々な不調や不快な症状が起こってくる時期を指します。一般に症状は個人差が大きくなります。

更年期症状が起こってくる理由は、エストロゲンというホルモンの分泌不良によります。加齢によって卵巣機能が衰えてくると分泌が減少してきます。すると、卵巣に対してエストロゲンを分泌するように命令する脳の下垂体が、エストロゲンを分泌するように命令を強く出すようになります。しかしそれでもエストロゲンがなかなか出ないことから脳が混乱し、それが自律神経に伝わることで様々な症状が出てくると言われています。

症状の特徴はホットフラッシュと呼ばれる突然の顔のほてりやのぼせ、イライラ、不眠、動悸等です。またそれに加えて汗が出てくるのも特徴です。

エストロゲンを補充する治療などがあります。

悪性リンパ腫

悪性リンパ腫はリンパ球が腫瘍化し、全身に広がる病気を言います。ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に大きく分類されます。

悪性リンパ腫の症状は様々ありますが、その中でも寝汗などの症状はB症状といわれます。リンパ球が腫瘍性に増殖し、リンパ球から様々な化学物質が放出され、その物質の影響で様々な症状が出てきます。

脳の命令によらず汗腺が直接刺激されて汗が分泌されるようになりますから、激しい寝汗となります。盗汗とも呼ばれ、寝具が濡れてしまうほどの汗の量になるのが特徴です。

多汗症

上記の様な病気がないのに汗が多く出てしまう場合、多汗症の可能性があります。多汗症と言っても汗をかく部位や原因は異なりますので、鑑別をしなければなりません。

多汗症の中には、全身に汗をかく全身性多汗症と、手のひらや足の裏など局所的に大量の汗をかく局所性多汗症があります。全身性多汗症の場合には前述のような種々の病気が潜んでいる可能性があります。

一方で局所性多汗症の場合には精神的な緊張や末梢神経の損傷等が挙げられます。とくに左右対称に見られる場合には神経疾患が原因の場合が多いとされています。

また、多汗症自体には何らかの疾患によって引き起こされる続発性多汗症と、原因が分からず多汗症となる原発性多汗症に分類されます。

多汗症の治療には様々なものがあります。外用薬や内服薬、漢方薬などの治療のほか、ボツリヌスの注射が行われます。また、手掌多汗症で汗の量が非常に多い場合は手術で交感神経を焼くことで交感神経系の活動を抑えて症状を改善させる治療も行われます。こうした治療はペインクリニックや胸部外科の専門となりますので、お困りの場合は受診されるといいでしょう。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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