尿に蛋白が出る原因は?考えられる疾患と病気ではない場合

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健康な人の尿にはごく微量なたんぱく質が含まれますが、一定量以上のたんぱく質が排泄されることをタンパク尿と呼んでいます。

通常、腎臓は老廃物を含んだ血液を濾過し、尿を作る働きがあり、身体にとって必要なたんぱく質は再吸収されて血液に戻りますが、腎臓や尿管など泌尿器の機能に異常があると、たんぱく質が再吸収されずに尿中に排泄されてしまうことがあります。

タンパク尿の原因になる疾患にはどのようなものがあるのか見てみましょう。

病気が原因ではない蛋白尿

病的なものとは別に、一時的に尿たんぱくが陽性になる生理的たんぱく尿があります。

これは肉など過剰に摂取して腎臓の働きが追いつかないほどのタンパク質が一時的に血液中にあるときや、激しい運動後など体内でたんぱく質が過剰に生成されることが原因でみられるものです。

検尿で尿蛋白が陽性だと指摘されても疾患によるものとは言い切れません。若い方では多くの方が一過性蛋白尿と言って、病院で再検査を行うと陰性という結果になります。

一過性蛋白尿は脱水やストレス、激しい運動、風邪などでの発熱が原因で発症します。

また、男性は尿検査の前日の夜に射精をすると尿中に精液が混入して偽陽性と判定される場合がありますし、女性では尿中に経血が混入して擬陽性と判断される場合があります。

どちらの場合でも再検査すれば陰性と判定されるため、特別な治療などは不要です。

また、長い時間立った状態でいると起立性蛋白尿を認めますが、寝転がっていると認めないという場合もあり、痩せた若年者に多いです。

起立性蛋白尿の可能性が高い場合には、検査前日に排尿してから寝て、次の日の朝一番に尿を採取して検査を行い、早朝尿にて蛋白尿ではなければ起立性蛋白尿だと考えられるため特別な治療は不要です。

尿に蛋白が出る疾患

尿に蛋白が出る疾患はいくつもあります。代表的なものを見てみましょう。

慢性腎臓病(CKD)

腎臓は腰部辺りに位置するソラマメのような形をしている重量がおよそ150g程度の組織構造物で左右に1対ずつあります。機能としては、血液をろ過して体内の不要な水分や老廃物を尿として体外へ排出する役割を担っています。

腎臓は様々な生体機能を有している重要な代物であり、血圧を調整する、あるいはナトリウムやカリウム、カルシウムやマグネシウムなどの主要なミネラルバランスを維持する、そして赤血球を作るエリスロポエチンと呼ばれるホルモンを分泌するなどの役割があります。

また、腎臓では健康な骨代謝を保つために必要とされているビタミンDの活性化機構に関与して骨を正常に機能させるうえで貢献していることも周知されています。

一般的には、年齢を重ねれば重ねるほど腎機能は自然と低下することから、高齢になるほど慢性腎臓病の発症リスクが高くなり、並行して肥満や高血圧、糖尿病、脂質異常症などの病気を合併することで慢性腎臓病を引き起こすと考えられています。

慢性腎臓病の原因は多岐にわたり、加齢や生活習慣病のみならずネフローゼ症候群などの腎疾患、膠原病、各種感染症、遺伝性異常、また腎臓で代謝される可能性のある薬剤など複雑に関連して腎機能は低下します。

慢性腎臓病は、腎臓の機能が健常レベルの60%以下に低下する、あるいは尿中にタンパク質が漏出されるなどの異常所見が概ね3か月以上継続した場合に診断に結び付きます。

腎臓病は自覚症状が出たときには病状が進行していることが多いので、尿検査で病気を早期に発見することが大切です。

最近は、肥満や高血圧・糖尿病などの生活習慣病で早期から尿蛋白が出現する慢性腎臓病という病態が動脈硬化や血管障害の危険因子として重要であることが注目されています。

ネフローゼ症候群

ネフローゼ症候群は、腎糸球体係蹄障害による大量の尿蛋白漏出とそれに伴う低アルブミン血症を特徴とする症候群です。

アルブミンは本来血管内に水を引き込み、血流を維持する大事な役割を持っていますが、その血液中のアルブミン濃度が下がることで低タンパク血症になり、全身の浮腫や様々な症状が発生する疾患です。

低タンパク血症自体は、腎不全や感染症、心筋梗塞や脳梗塞のような血栓症を合併する危険性があると認識されています。

血中アルブミン濃度が下がると、血管外へ水分が漏れて溜まってしまうことにより、下半身や顔面部などを中心として肺、心臓、腹部のスペースにも水が溜まります。

糸球体とは小さな穴が網目状に空いている微細な血管でできた組織で、ふるいのような役割を持っていることが知られており、本来であれば穴を通過できないアルブミンが、糸球体の炎症によって穴を通過してしまい、尿となって排泄されます。

ネフローゼ症候群の代表的な症状は、全身の浮腫、タンパク尿(尿の泡立ち)、低タンパク血症、易感染性、凝固能亢進などが挙げられます。

基本的には、自覚症状が乏しく、健康診断の尿検査で発覚することもありますが、浮腫症状そのものは下腿前面部を10秒ほど押してへこみが持続するほどの浮腫が出現すると言われています。

また、尿の泡立ちが必ずしもタンパク尿を意味しているとは限りませんが、タンパク尿は尿の泡立ちがみられることが多いと指摘されています。

糖尿病性腎症

糖尿病性腎症は糖尿病の合併症です。

現在は、糖尿病性腎症が原因で透析を受けることになった人が、全透析患者のうち4割以上と最も多い割合を占めています。

糖尿病性腎症の場合、急に尿が出なくなるのではなく、段階を経て病気が進行するため、できるだけ早期に発見し、適切な治療をすることが重要です。

糖尿病性腎症の発症要因は、糖尿病で血糖値の高い状態が長期間続くことで、全身の動脈硬化が進行し始め、毛細血管の塊である腎臓の糸球体でも細かな血管が壊れ、網の目が破れたり詰まったりして老廃物をろ過することができなくなるためとされています。

糖尿病性腎症の第2期(早期腎症期)では、ごく微量のタンパク質(微量アルブミン)が漏れ出てきますが、適切な治療によってタンパク質が漏れ出ない状態に戻すことができます。

腎症が進行するともう少したくさんのタンパク質が尿に出てくるようになり、ここまで進行すると、次第に血圧も上昇し、高血圧によって血管が傷つけられて、さらに腎臓の状態を悪化させるという悪循環に陥ってしまいます。

糖尿病性腎症の第1期、第2期では自覚症状はほとんどないため、尿検査をしないと正確に判断できません。

第3期では、むくみ・息切れ・胸苦しさ・食欲不振・満腹感などの自覚症状があり、第4期・第5期では、顔色が悪い・易労感・嘔気あるいは嘔吐・筋肉の強直・つりやすい・筋肉や骨に痛みがある・手のしびれや痛み・腹痛と発熱などの自覚症状があります。

第3期以降では、進行を遅らせることはできても、良い状態に戻すことはできないため、第2期の段階までで糖尿病性腎症を発見する必要があるといえます。

慢性糸球体腎炎

蛋白尿は、泌尿器や腎臓機能にトラブルが起きて尿に過剰なタンパク質が排出される状態です。

健康な方でも尿中にタンパク質がわずかに含まれていますが、基準値よりも超えてタンパク質が出てしまうと蛋白尿の状態となります。

慢性糸球体腎炎とは、腎臓の中の糸球体という、血液から尿を作る部分に持続的に炎症を生じている病態を指します。

慢性糸球体腎炎は糸球体に炎症を生じる疾患の総称です。

その中には、IgA腎症、膜性腎症などが含まれます。

主に、血尿や蛋白尿を生じ、持続することで次第に腎機能が低下していきます。多くの慢性糸球体腎炎では蛋白尿が多いほど腎不全に至りやすいことが知られています。

蛋白尿が多い場合や、活動期の糸球体障害を疑わせるような血尿が認められるときには積極的な治療の必要があります。

腎臓に針を刺して組織の一部を採取する腎生検と呼ばれる組織学的検査を施行し、各々の疾患に対する治療を検討していきます。

まとめ

腎臓は一度増悪すると改善することはありませんが、タンパク尿に適切に対応すれば残存する腎臓の機能を守れます。

蛋白尿を引き起こす原因はさまざまですが、基本的には薬物治療や運動、食事の見直しが重要です。

特に、食事内容としては塩分を控えて、一定期間ごとにチェックしつつ、タンパク質や果物、野菜を適切に摂取しましょう。

心配であれば、腎臓内科など専門医療機関を受診してください。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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