菌血症との違いは?敗血症になりやすい人、死亡リスクの高い人

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敗血症は細菌やウイルスなどによる感染症がきっかけで、全身が過剰反応を起こして生命に危険が及ぶ病気です。頻脈や頻呼吸を呈して、主に肝臓や腎臓など主要な臓器機能が急激に低下します。

ここでは敗血症の特徴や、なりやすい人、死亡リスクの高い人について詳しく見ていきましょう。

敗血症の定義と診断基準

従来、敗血症とは「細菌ないし細菌が産生した毒素が身体の血中に侵入して、全身的な反応、臓器障害などを引き起こしている状態」と定義されていました。しかし、現在の主流的な考え方では、血液中に細菌がいるかどうかはあまり関係がないと考えられています。

1992年の段階では、敗血症とは、SIRS(Systemic Inflammatory Response Syndrome、全身性炎症反応症候群)に感染所見が加わったものと考えられるようになりました。

SIRSとは、侵襲に対して免疫担当細胞から産生された炎症性サイトカイン優位となった状態が存在して、発熱や頻脈、頻呼吸、白血球増多などの全身的な炎症反応があり、好中球や凝固系が活性化されている状態であると考えられてきました。

2001年には、欧米の専門家によって敗血症の定義が「感染に起因する全身症状を伴った症候」と改訂されて、一定の診断基準が提示されましたが、診断基準の項目数が多く、十分な科学的根拠が示されていなかったために広く普及しませんでした。

そのような背景の中、欧米の集中治療医学会の専門家がタスクフォースを作って、新たな基準を策定することになり、2016年に敗血症、および敗血症性ショックの定義と診断基準が示されることになりました。

特に、敗血症は、感染に対する異常な宿主生体反応によって起こる生命を脅かすような臓器障害のある状態と定義されました。

また、敗血症の診断基準としては、感染症が疑われて、SOFA(Sequential Organ Failure Assessment)のスコア点数が2点以上増加したものと考えられています。

現代では、敗血症は細菌感染が契機になって過剰な全身反応が起こり、これらに伴って重要な臓器の障害が引き起こされることを言います。

敗血症性ショックの定義と診断基準

敗血症性ショックの定義は、敗血症の部分集合であり、実質的に死亡率を上昇させる重度の循環・細胞・代謝の異常を呈する状態であると考えられています。

敗血症性ショックについては、従来は「十分な輸液にもかかわらず持続する低血圧を伴う敗血症」と定義されていましたが、「十分な輸液」、「低血圧」の意味が不明確であり、その具体的な指標についての数々の議論が実施されてきました。

敗血症性ショックに関する診断基準は、敗血症の状態であり、かつ十分な輸液負荷を実施しているのにも関わらず、平均動脈圧が65mmHg以上を維持するためにカテコラミンなどの血管作動薬を必要として、かつ血清乳酸値が2mmol/Lを超えるものと規定されています。

これらの定義で幅広いコンセンサスが得られ、さらに、実際の症例を重ねた検証でもその正当性が確認されたことから、この基準が敗血症性ショックの診断のために汎用されることになりました。

敗血症によって危険なレベルの低血圧などのショック状態が引き起こされる場合を「敗血症性ショック」と呼称していて、敗血症性ショックでは一般的に内臓に十分な血液が供給されずに内臓全体が機能不全に陥って生命を脅かす状態であると考えられます。

敗血症と菌血症の違い

敗血症が、「感染を原因として全身性に炎症が起きている状態」と定義される一方で、菌血症は「細菌が血液中に存在すること自体」を指しています。

菌血症では通常、症状はみられませんが、時に特定の臓器に細菌が増殖して、細菌性髄膜炎や感染性心内膜炎などの重篤な感染症を引き起こす場合があります。

菌血症は、血流中に細菌が存在する状態であり、菌血症から感染症や敗血症、またはその両方に至ることがあると考えられています。

一方、敗血症は菌血症やそれ以外の感染症によって重篤な全身性の反応が誘発される状態であり、代表的な症状としては、発熱、心拍数の上昇、呼吸数の増加、白血球の増加などに伴って腎臓、心臓、肺など多くの主要な臓器にも多大な影響を与えて、全身機能が低下します。

敗血症になりやすい人

敗血症を発症しやすい方は、主に高齢者であり、特に免疫機能が脆弱な状態である高齢の糖尿病患者、がん患者などは敗血症の発症リスクが高く、治療期間も長期化して死亡率も高くなることが判明しています。

慢性的に自己免疫力が低下している、あるいは糖尿病やがんなど基礎疾患を有している65歳以上の高齢者では特に敗血症は起こりやすいと考えられています。

また、免疫システムがまだ完成していない1歳未満の乳幼児や感染症などの病気に対して適切な治療を受けていない若年者の場合にも、感染症から敗血症になる可能性があります。

敗血症による死亡リスクが高い人

続いて敗血症による死亡リスクが高い人の特徴について見てみましょう。

高齢者

敗血症は、感染に対する制御不能な宿主反応に起因した生命を脅かす多臓器障害であると考えられていて、一般的に高齢者は感染症に対する感受性が高いことが知られており、局所の感染が全身性に波及する敗血症に陥りやすいことが報告されています。

高齢者が敗血症によって死亡しやすい原因のひとつとして、加齢に伴う免疫機能の低下(免疫老化)が着目されており、獲得免疫において重要であるT細胞は、加齢による機能低下が顕著であることが知られています。

敗血症は高齢者の病気とも言われていて、高齢者は軽度の侵襲を契機に致命的な病態に移 行して、免疫機能が脆弱化することで全身状態が悪化します。

特に基礎疾患を有する高齢者では、局所の感染が全身に波及して敗血症に陥りやすく、重症敗血症患者の約70%は65歳以上の高齢者が占めていると指摘されています。

糖尿病患者

糖尿病は、感染症の増悪因子のひとつとして認識されています。

例えば、新型コロナウイルスによる感染症の場合でも、糖尿病を基礎疾患として持っている方は重症化リスクの範疇に入っていますが、一般的に各種感染症に対しても、糖尿病の罹患者は状態が重症化する危険度が高いと考えられています。

糖尿病では、敗血症や重症な細菌感染を認めた際に、「S100A8」という自己免疫を調節する分子を体内で十分に合成して作り出すことができないことが影響して、通常よりも死亡率が上昇することが判明しています。

がん患者

がん患者の多くは、普段から化学療法などの影響によって免疫機能が健常者よりも低下しています。

化学療法は、良くも悪くも体内で最も早く増殖する細胞に影響を及ぼして、抗がん剤ががん細胞を殺すだけでなく、体内において細菌やウイルスなどの病原体と戦う役割を果たしている白血球成分も障害する作用があります。

そのため、がんに罹患している方の場合には、正常の人なら防御できる病原体に容易に感染して敗血症に陥りやすくなると言われています。

まとめ

これまで、敗血症と菌血症との違い、敗血症になりやすい人や死亡リスクの高い人の特徴などを中心に解説してきました。

敗血症自体での死亡率は約1割程度と言われていますが、敗血症に伴って血圧が保てずに血圧を上げる昇圧剤の投与が必要な敗血症性ショックの場合には、死亡率は40%程度にまで上昇するなど命に係わる恐ろしい状態に陥ることもあります。

重症感染症などに伴って時間とともに敗血症は進行しますので、早期に発症に気づくことで、それ以上の全身状態の悪化を防ぐことが可能となります。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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