三叉神経痛の治療法は?治療効果と合併症について

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三叉神経痛は顔面に非常に強い痛みを伴う病気です。痛み止めもなかなか効かず、つらい思いをされる患者さんが多くいます。ここではそんな三叉神経痛の治療法について解説します。

三叉神経痛の治療法の選択

三叉神経痛は、特発性三叉神経痛と二次性三叉神経痛に分かれます。

二次性三叉神経痛は、脳腫瘍や脳動脈瘤など、種々の脳の病気や血管の病気によって三叉神経が伝える感覚の伝達路に刺激が与えられることでおこってくる三叉神経痛です。

この二次性三叉神経痛の場合は、種々の原因に応じた治療を行う事で症状が改善してくることが多くなります。例えば腫瘍が原因であれば、腫瘍を摘出することで神経の圧迫が解除されて痛みが治まります。

一方で、特発性三叉神経痛はそれらの他の病気が原因となっているものではない三叉神経痛を言います。ほとんどの場合は、三叉神経の根元で血管によって神経が圧迫されることで痛みが起こっています。

しかし、実際には血管が関与していない場合もありますし、血管の圧迫だけが原因であるわけではない場合もあるため、単純に治療法が決まるわけではありません。

そのため、三叉神経痛がある場合は原因の詳細の検索とともに、先ずは低侵襲な薬物療法から開始する事がほとんどです。薬物療法によく反応する場合はそのまま薬物療法で経過を見ていくことになります。

薬物療法で治療効果が得られないと判断された場合は、神経ブロックや手術、放射線療法に進んでいくことになります。もちろん、そのときにも詳細な検査と綿密な検討がなされることになります。

三叉神経痛の治療方法

では実際に三叉神経痛の治療法にはどのようなものがあるのでしょうか。具体的にみていきましょう。

薬物治療

三叉神経痛の場合には一般的な痛み止めは効果がありません。というのは、一般的な痛み止めというのは痛み刺激が神経に伝わりにくくする効果をもっています。例えば、怪我をしたら怪我をした部分から「痛い」という情報が神経に伝わらないようにすることで、痛みを感じにくくするのです。

しかし、三叉神経痛は神経が圧迫されている事によっておこってくる痛みですから、神経自体が痛みを感知します。そのため、痛みのセンサーからの情報を伝わりにくくしても、効果を得られないのです。

また、医療用の麻薬も三叉神経痛には効果が不十分です。医療用の麻薬は脳の痛みを感じる部分に作用して、痛みに対して鈍感にさせるのですが、三叉神経痛の痛みは非常に強く鋭い痛みですから、痛みを感じにくくさせるだけでは不十分となってしまいます。もし、三叉神経痛でおこってくる程の痛みを抑えるだけ麻薬の量を増量してしまうと、吐き気や消化管の運動低下、呼吸抑制など副作用の方が強く出てきてしまうのです。

そのため、三叉神経痛の場合には特別な治療薬を使用します。

よく使用されるのが、カルバマゼピンという薬剤です。テグレトールという商品名で処方される薬剤です。この薬剤は元々抗てんかん薬に分類される薬で、てんかんの発作を抑えるために使用されます。

てんかんというのは元々、脳の中で異常に神経細胞が興奮することで意識障害が起こったり、体が無意識に動いてしまったりする病気です。カルバマゼピンは神経細胞の興奮を抑制することでそれらの症状を抑えます。

三叉神経痛の場合は神経が痛みを伝達しますから、神経細胞の作用を弱めることで痛みの伝達を弱めることができます。この作用を期待して、カルバマゼピンをよく使用するのです。軽い圧迫による三叉神経痛の場合は、非常に効果的となります。

ただし、カルバマゼピンを使用すると神経細胞の活動が低下しますから、眠気、ふらつきの症状が起こりやすいという欠点があります。また、アレルギーなどで使用できない場合もありますので、そのような場合にはバルプロ酸ナトリウムやフェニトインといった薬を使用する事があります。

また、神経というのは傷害されたときも痛みを感じますが、神経の線維がダメージを受けた後に修復される時にも痛みを感じます。このような、神経が修復される時の痛みに対応したプレガバリン(商品名:リリカ)という薬剤を使用する事もあります。

プレガバリンは神経の修復に伴う痛みを抑えることがメインの役割になりますので、後述の手術の後に残った痛みなどに効果的な場合が多くなります。

漢方薬

前述のように、三叉神経痛の際にはまずカルバマゼピンが使用されます。しかし、カルバマゼピンを使用しても効果が薄い場合には増量を検討されますが、増量すると副作用が増加してしまう事が多く、調整に難渋することも少なくありません。

そのようなときに、漢方薬を併用することで鎮痛効果を高めることができる事が多いとされ、使用されることが多くなっています。漢方薬は単剤では鎮痛効果はあまりありませんが、併用によってカルバマゼピンの作用を助け、カルバマゼピンを減量したり、カルバマゼピンの鎮痛効果を高めたりすることができるのです。

また、神経ブロックにも漢方を併用するケースが増えています。

具体的な処方は医師の裁量によるところが多いのですが、例えば小柴胡湯(しょうさいことう) と桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)併用したり、柴苓湯(さいれいとう)を使用したりすると効果があったという報告があります。

漢方の処方は、体の状態や体質に合わせて体質を改善することで症状を緩和するという考え方が基本になります。漢方専門の医師でなければなかなか判断が難しいことも多いので、症状に困っている場合には漢方専門医に相談するのも一つの方法でしょう。

ブロック療法

神経ブロック療法は、神経伝達を遮断することで痛みを抑える方法です。多くの神経痛で使用されますが、三叉神経痛でも使用されます。

神経伝達を遮断する方法としては、局所麻酔薬を使用する方法や、熱を加えて神経を麻痺させる方法、アルコールによって神経を変性させる方法などが使用されます。ただ、いきなり熱を加えたり神経を変性させてしまったりすると、効果が無かったり副作用が強く出てしまった際に非常に困りますから、先ずは局所麻酔薬で効果を見て、効果が十分と感じられた際に効果が持続するように熱を加えたりアルコール処理をしたりします。

手術にくらべると簡便で、侵襲が少ないという長所があります。

しかし一方で、短所もあります。まずは神経を麻痺させますから、顔面の感覚が低下してしまいます。また、しびれの症状を感じる事もあります。続いて、局所麻酔を使用した場合には1日程度で効果が切れてしまいますし、熱による変性をさせたとしても2年ぐらいで効果が切れてしまうことが多くなります。そのため、定期的に処置を受けなければならないことも多くなるのです。

ですので、薬物治療で効果が無い場合にまず神経ブロックを試し、神経ブロックが効果不十分だったり頻回にブロックが必要だったりする場合に手術を行う、というように中間的な治療法として考えている医師も多くいます。

放射線治療

放射線治療は、ガンマ線という放射線を使用して神経を変性させ、痛みの伝達をブロックする治療法です。もともと脳腫瘍などに対して使われていた治療法ですが、三叉神経痛に対しても2015年に保険適応となり、使用されるようになった治療法です。

放射線というと被曝のイメージもあると思いますが、一か所に集中させて放射線を照射しますから、体への負担はあまりないとされています。また、痛みを自覚することなく施術を受けることができます。

一方で、神経が変性しますから顔面の感覚障害が起こったり、神経の回復に伴って症状が再発したりする場合があります。

手術

手術療法は、原因がはっきりしている場合には非常に効果的な治療です。特に血管が圧迫していることが明らかな場合は、血管の位置を移動させて神経を圧迫しないようにすることで痛みが劇的に改善します。

また、血管の圧迫が関与していない場合でも、三叉神経周囲の組織を除去し、三叉神経がねじれたり屈曲したりといった刺激が加わらないようにすることで症状を抑えることができます。

頭の手術ではありますが、傷口は約5cmで、そこから頭蓋骨に穴を空けて顕微鏡で神経や血管を確認しながら手術を行います。施設にもよりますが、10日間ほどの入院となります。

三叉神経痛に対する手術の治療効果と合併症

三叉神経痛の手術治療は非常に有効で、術後3年での疼痛の改善率は約85%、完全な無痛治癒率は80%という報告があります。

とはいえ、全ての三叉神経痛で痛みの改善がみられた訳ではありません。報告によると、痛みが発作性の強い痛みで、カルバマゼピンが有効で、明かな血管の圧迫がある場合には手術後痛みが消失する可能性は約9割にも達した一方で、いずれもみられない場合には4%しか痛みが消失しなかったと言われています。

術前には詳細な問診に加えて、MRIによる検討を行うことで手術による効果がじゅうぶんに認められるかが検討されます。この検討で手術の効果があまり期待できない場合には他の治療法が選択されます。

手術による合併症についても触れておきましょう。

手術を行った場合、一定の確率で合併症が起こりえます。三叉神経痛の手術の場合は、張力の低下、複視(ものが二重に見える)、顔面のしびれなどの神経症状が起こることが多くあります。また、傷の感染や髄液が漏れることによる症状も起こってくることがあります。

そのため、リスクと効果を天秤にかけて最終的に治療法を決定することになります。三叉神経痛でお悩みの方は、脳神経科でしっかりと相談してください。

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