肋骨を押すと痛い原因は?肋軟骨炎の原因と症状の特徴
胸の痛みというと心臓の痛みや肺の痛みではないかと思い、心配になると思います。しかし、胸の痛みのなかでも押さえると痛いという場合には、肋軟骨炎による症状であることが多いです。ここでは胸の痛みの原因になる肋軟骨炎について解説します。
肋軟骨の場所と役割
まず、肋軟骨とは何なのでしょうか。
私たちの体のなかでも、胸は心臓や肺、食道など非常に重要な臓器が含まれています。そのような重要な臓器を守るために人の体は後ろ側を脊椎が、前面を胸骨という骨が守っています。そして側面から前面にかけては肋骨が位置していて、胸を守っています。
しかし、胸にはもう一つの役割があります。それは、呼吸をするという役割です。呼吸においては、肺自体が動くのではなく、胸が広がったり狭くなったりといった運動をすることで、中にある肺も引っ張られて広がったりしぼんだりします。
胸がガチガチに固められてしまうと、呼吸をしようとしてもできなくなってしまいます。そのため、肋骨は脊椎や胸骨に固定はされていますが、ガチガチに固められているのではなく、ややゆるめに固定されている必要があるのです。
このようなややゆるめの固定を実現しているのが肋軟骨です。肋軟骨は、肋骨と胸骨の間に存在する軟骨です。肋骨は1番から12番まで、左右12対存在します。そのなかでも、1番から7番までは直接肋骨と胸骨の間を肋軟骨がつないでいます。また、8番から10番までの肋骨は、肋軟骨が7番の肋軟骨に繋がるように結ばれています。11番目と12番目の肋骨は胸骨に繋がることなく、浮肋と呼ばれています。
このように、前方の胸骨との間は肋軟骨でやや緩くつながっている事で呼吸が可能になります。具体的には、息を吸うときには筋肉によって肋骨が引っ張り上げられます。すると、肋骨と胸骨の間の距離がやや広がり、胸が全体的に広がります。このように広がったときでも防御力が下がってはいけませんから、肋軟骨がしっかりと骨と骨を繋ぎ、強い衝撃から胸の中を守っているのです。
肋軟骨炎とは
肋軟骨炎とは、このような肋軟骨に炎症が起こる病気です。ただし、実際には肋軟骨だけの炎症を意味するのではなく、肋軟骨やその周囲の肋骨、筋肉、靱帯などの炎症を含めて言うことが多いです。
肋軟骨炎はどのような原因で起こってきて、どのような特徴があるのかを見てみましょう。
肋軟骨炎の原因
肋軟骨炎の原因は、大きく分けて3つに分かれます。
1つ目が外傷性の肋軟骨炎です。胸部前方を打撲することでおこってきます。打撲すると、組織が傷害されます。組織が傷害されると、傷害された組織を修復しようとして炎症反応が起こってきます。軽度であれば気づかないほどの軽い炎症で済みますが、組織の損傷が大きいと痛みが起こったり、腫脹したりといった症状が出てきます。これが肋軟骨炎として覚知されます。
2つ目は、肺がんや肺炎など、肺の病気によっておこってくる続発性肋軟骨炎です。肺に炎症が起こり、その炎症が肋軟骨に波及することで起こってきます。
3つ目は特発性の肋軟骨炎です。特発性というのは原因がはっきりしないということです。実は、肋軟骨炎の多くはこの特発性の肋軟骨炎であることが多いのです。
原因は分からないとされますが、推定されている原因としてよく言われるのが、激しい呼吸運動によって組織が摩耗し、修復のために炎症が起こっているのではないかということです。他には、ウイルスや細菌などによって感染が起こってくるのではないかということも言われています。
肋軟骨炎の症状の特徴
肋軟骨炎の症状は、炎症が起こっている場所に力がかかると痛む、というものです。胸の特定の場所を押さえると痛みが起こってくる他、体をひねったり、息を吸って胸が動いたりすることによっても痛みが起こってきます。
普通に息を吸うだけで痛いときもありますが、それは炎症が非常に強い場合であることが多いです。ですので、限定的で弱い炎症の場合は、日常生活では痛みを感じないものの、深呼吸をすると痛みを感じるといった症状であることが多くなります。
痛みの範囲としては、炎症が起こっている部分だけの痛みですから、非常に限局した場所の痛みとなります。指で指し示すことができる場合がほとんどです。心臓や肺の病気だと、胸の全体が痛いといった症状が多いため、痛みの範囲を特定できるかどうかが鑑別に有用とされています。
他にもある肋骨を押すと痛い原因
胸を押すと痛いという症状で、原因がはっきりしないとなると、多くは肋軟骨炎です。しかし、胸を押すと痛いという症状全てが肋軟骨炎というわけではなく、次に挙げるような原因も考えられます。
肋骨骨折
肋骨の骨折は強い打撲によって起こってくる事があるほか、激しい咳が数日続いたときも疲労骨折を起こすことがあります。
肋骨に限らず、骨折したときの痛みの特徴としては骨折した場所を触ると痛いというのに加え、骨折した骨の骨折していない場所をたたくと骨折部位に痛みが響くという特徴があります。もちろん、動かすと痛みを感じますから、肋骨骨折の場合は呼吸に伴う胸の痛みが強く感じられることが多いです。
肋骨骨折も肋軟骨炎も、触ると痛い、痛んでいる場所が限定的、呼吸に伴って痛みがあるという特徴が非常に似通っています。しかし、解剖学的に場所が異なりますから、痛みを感じる場所によってある程度の鑑別が可能です。
気胸
気胸というのは、肺に何らかの原因で穴が空いて、空気が肺の外に漏れ出てしまう病気です。胸の中というのは、胸腔という空間になっています。肺は胸腔の中に存在しますが、自分自身で膨らんだりしぼんだりはできず、胸腔にくっつくことで、胸腔が広がったりしぼんだりといった運動をするのに伴って肺が動き、呼吸ができています。
しかし、肺の外に空気が漏れてしまうと、肺と胸腔の接着が剥がれてしまい、胸腔が動いても肺自体は動けなくなってしまいます。これによって、呼吸困難感が出現するほか、肺を包む膜が引っ張られることによって痛みを感じます。
多くの場合、突然呼吸苦と痛みを感じたあと、呼吸に伴って痛みを感じるという症状を呈します。呼吸に伴った痛みという点では肋軟骨炎と症状が共通するところがありますが、触ったときの痛みを感じることは稀で、体を動かしたときの痛みもあまり感じることはありません。
虚血性心疾患
虚血性心疾患は、狭心症や心筋梗塞といった病気の総称です。心臓自体に血液を送る冠動脈という動脈が狭窄することで、心臓の筋肉が酸素不足になってしまい、痛みを感じる病気です。放置すると心筋細胞は壊死してしまい、心臓が正常に動けなくなってしまうほか、脆弱になった心臓が破れたり、不整脈が起こったりしてくる重篤な病気です。
胸が痛いというときには、まずはこの虚血性心疾患がないかを考える必要があります。多くの場合は左胸が全体的に重苦しいという症状が起こってくるのですが、稀に、ある一点が痛いということがあり、肋軟骨炎と誤診されてしまうこともあります。しかしそのような場合でも、圧痛や体動に伴う痛みは感じていないことがほとんどです。触っていたくない場合は、虚血性心疾患を疑ってすぐに病院を受診することがすすめられます。
このように、胸の痛みをきたす疾患はさまざまあります。ある一点を押さえたり、動いたりしたときに痛いとなれば肋軟骨炎の可能性は高いといえます。一方で胸が痛いときにそれらの特徴からはずれる特徴がある場合は、念のため病院を受診した方が安心でしょう。