下血で疑われる疾患と検査方法…赤い下血と黒い下血の違いは?

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便に血が混じり、赤い、または黒い便になっているのを見ると、何かの病気ではないかと心配になります。実際、出血量にかかわらず、赤い下血や黒い下血が重大な疾患のサインとなっている場合があります。ここでは下血を取り上げ、色の違いや疑われる疾患などについて解説します。

下血とは

下血とよく似たものに吐血や血便があります。これらの違いを明確にしておきましょう。

下血と吐血の違い

吐下血は基本的に消化管からの出血によってみられる症状であり、消化管とは食べ物の通り道で、具体的には口・食道・胃・小腸(十二指腸・空腸・回腸)・大腸・肛門などが含まれます。

吐下血は吐血と下血をまとめた表現であり、主に吐血とは口から血を吐くこと、下血は肛門から血が出てくることです。

ちなみに、喀血も口から血が出てきますが、肺など呼吸臓器からの出血であり、吐血とは別に考えています。

吐血は基本的に上部消化管と呼ばれる食道・胃・十二指腸から出血した場合に起こる一方で、下血は消化管の、どの部位で出血しても起こりえます。

吐血は、口から血を吐く状態ですが、口から血が出てきた場合はまず、鼻出血や歯槽膿漏など口や鼻から出血をしていないか確認する必要があります。

吐血も下血も血液が体表に出てくる場所が違うだけで消化管の出血が原因であり、吐血で頻度の多い病気は胃潰瘍や十二指腸潰瘍、食道静脈瘤、胃がん、マロリーワイス症候群などが挙げられます。

また、下血で頻度の多い病気は、痔核、虚血性腸炎、腸炎、大腸憩室、大腸がん、大腸ポリープなどが知られています。

下血と血便の違い

血便と下血は実は別のものであり、血便は赤い血が混じっている便、下血は主に黒い血が混じっている便のことを指しています。

血便とは、一般的に赤い血が混じっている便であり、大腸や肛門など、下部消化管から出血している場合を疑います。

下血(黒色便)を呈する疾患の代表例は、逆流性食道炎、食道がん、急性胃粘膜病変、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃がんであり、血便をきたす病気は、大腸がん、潰瘍性大腸炎やクローン病など炎症性腸疾患、虚血性腸炎、痔核、大腸ポリープ、大腸憩室などがよく知られています。

色によって異なる?下血で疑われる疾患

便に血液が混ざる場合、それが赤いのか黒いのかによって推測できる疾患が異なってきます。

赤い下血の場合

肛門(おしり)から血が出ることを総称して下血と呼び、肛門から血が出るわけですから、原因は消化管(胃や腸、肛門)からの出血が多いと考えられます。

下血は、主に黒色便と血便に分類されていて、赤い血(鮮血便)が出ることを「血便」、黒い血(タール便)がでることを「黒色便」と呼称しています。

このように両者を区別するのは、その色調によって出血点がおよそ推測できるからであり、便に混ざる血液は、出血してからの時間が経過するにつれて、赤から黒色調に変化し、胃酸の影響を受けると黒色に変化します。

つまり、鮮やかな赤色に近いほど出血点は肛門に近く、黒っぽい色調ほど肛門から遠く、胃に近い(胃、十二指腸、上部小腸など)可能性が高いと推測できます。

したがって、真っ赤な出血であった場合は肛門に近い部位からの出血の可能性が高まり、下部消化管からの出血性病変である大腸がん、虚血性大腸炎、薬剤性腸炎、大腸憩室出血、潰瘍性大腸炎、感染性腸炎、痔核出血などが原因疾患となります。

黒い下血の場合

下血は肛門から血液成分が排出される状態であり、血だけが出てくる場合と、便に交じって血液が出てくる場合があります。

下血も色で出血部位や出血量を推測することができ、黒い下血便が認められるときには一般的にドロドロした形にならない便であることが多いです。

便が黒いのは吐血のときと同様に胃液と血液が混じるためであり、このような便はタール便、のりの佃煮状便などと表現され、通常排便量が少なく、肛門よりも遠い部位からの出血であることが多いです。

黒い下血をきたす疾患は、口から肛門までさまざまな疾患で起こって、非常に多岐にわたるため、すべてを列記することは困難ですが、代表的な疾患としては上部消化管領域からの病変に伴う出血であることが多いです。

例えば、食道がん、Mallory-Weiss症候群、逆流性食道炎、食道・胃・十二指腸における粘膜病変、毛細血管拡張症、胃・十二指腸潰瘍、食道がん、胃静脈瘤などが挙げられます。

色以外にもある下血のチェックポイント

一般的に、吐下血の診断は吐物や排出された便を直接観察することで診断できることが多いです。

ところが、便の場合には出血成分がわかりにくいことがあり、そのようなときには便を採取して潜血反応という検査で血液が混じっているかどうかを診断します。

健康診断などで行われる「便潜血検査」は、目で見てもわからないようなごくわずかな極微量の血液成分でも陽性判定となります。

便潜血反応が陽性となって、出血が明らかになった場合は、出血部位を想定しながら採血、胃カメラ、大腸カメラ、小腸カプセル内視鏡など必要な検査が実施されて、出血部位と病気が判明すれば、おおまかな治療方針が決まります。

また、高齢者のなかには他の病気で鎮痛剤の常用が必要な方が多くいらっしゃり、鎮痛剤の一部は胃の粘膜の血流を低下して粘液量が減少することで胃を保護する力が低下し、胃潰瘍や胃炎が起きやすくなることが判明しています。

特に、消化管出血を起こしやすいといわれている鎮痛薬などの薬剤は、通常の10倍程度消化管出血を呈する危険性が上昇すると報告されています。

さらに脳梗塞や心筋梗塞、心房細動などの病気を持っている人は抗血小板剤や抗凝固剤と言われる血液が凝固しにくくなる薬剤を服用していることがあり、これらの薬も消化管出血を発症する危険性が上がります。

しかし消化管出血の合併症や副作用が怖いからと言って、これらの薬を勝手に自己中断してはいけません。

胃粘膜保護薬を併用して消化管出血を予防する、あるいは定期的に血液や便検査を行うことで消化管出血を早期発見することもできます。また、同じ鎮痛剤でも消化管出血を起こしにくい種類もありますので、過去に吐下血の既往を有する場合は必ず担当医師に申し出て、内服薬を調整してもらいましょう。

下血が見つかったときの検査

血便や下血があった場合、口からの肛門までの消化管のどこかで出血が起こっているということです。

健康な状態の消化管からは通常出血が起こることはないため、血便や下血は少量ですぐ治ったとしても、何かしらの異常が消化管のどこかに起こっているサインとなっています。そのため、とりあえず様子を見ればいいといった下血はありません。

下血が見つかったときは次のような検査を行います。

直腸指診

下血がある場合には、直腸指診を行い、痔の有無や直腸の状態を調べます。

診察室で簡単に受けることができる検査で診察台に横になり、指に麻酔ゼリーをつけ肛門から直腸の触診を行います。

麻酔ゼリーによって局所麻酔が効いた状態で行いますので、痛みは強くありません。

血液検査

採血検査では炎症の有無を調べることができますし、下血の原因となる出血が慢性的に起きている場合には、貧血がある可能性が高いため、貧血についても調べます。

下血がある場合、採血によって貧血の状態を確認できますし、白血球数やCRPなどの炎症マーカーで炎症の有無や程度、全身の状態なども確認できます。

特に、尿素窒素(BUN)とクレアチニン(Cre)の比率は正常値が10対1ですが、この比率が高くなると、消化管からの出血の可能性などが高くなるため、内視鏡検査を行う目安となります。

内視鏡検査

下血が見られた場合、原因箇所と原因疾患の特定のために様々な検査を行います。代表的な検査は、血液検査、腹部X線検査、腹部エコー検査、胃カメラ検査、大腸カメラ検査などです。

この中でも、特に基本の精密検査となるのは、胃カメラ、大腸カメラの内視鏡検査です。

胃カメラの内視鏡検査では、主に胃・十二指腸潰瘍や胃がんの可能性を踏まえて、上部消化管からの出血の有無を調べます。

胃カメラ検査・大腸カメラ検査消化管の粘膜の状態を細かく調べることができる検査です。

特に、下血の出血場所の特定や原因疾患の特定のための検査としてはもっとも有効なものであり、特に食道、胃、十二指腸は胃カメラ検査、大腸全域は大腸カメラ検査で行います。

大腸カメラでは、大腸ポリープや大腸がんなど直腸の奥の部分や大腸の病気が疑われた場合に行います。

大腸内視鏡検査は、肛門から内視鏡を挿入し、直腸から盲腸までの大腸全体を詳しく調べることができます。

明らかな下血で発見に至った場合、大腸がんが進行している可能性も考えられ、特に大腸がんは早期発見・早期治療で完治する可能性が高いため、40歳以上を過ぎたら定期的な大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を受けることを強くおすすめします。

まとめ

これまで、下血の色で何が分かるか、赤い下血と黒い下血で疑われる疾患の違いなどを中心に解説してきました。

一般的に、赤い下血便は下部消化管、すなわち回腸や大腸・肛門からの出血を意味して、黒い下血便は上部消化管、つまり食道や胃、十二指腸などからの出血を意味しています。

下血に加えて、便秘や下痢などの便通異常、腹痛、腹部膨満感などの症状も加われば重大な病気が隠れている可能性が高くなりますので、トイレットペーパーに血がつく程度で、たぶん痔核だろうと勝手に自己判断して症状を放置せずに専門医療機関を受診してください。

下血の原因となり得る疾患は多岐にわたり、大腸がんのような命に関わる疾患であっても少量の出血にとどまることもあり、出血量が少ないからと言って必ずしも安心できません。

どのような病気が原因であっても大量に出血した場合は貧血の進行からショック状態となることもあり、命に係わるので危険です。

少量の出血だから切れ痔に違いないと様子を見ているうちに病気が進行して、気がついたときには進行がんになっていたという場合も想定されます。

仮に大腸がん、胃がんなどが隠れている場合であっても、早期に発見できれば内視鏡や手術で適切に治療して治癒を目指すことも可能ですので、なにより早期に病変を発見することが重要です。

そのためにも、下血量が少ない状態であっても確実に検査を受けて、原因を同定しておくことが肝要であり、便が海苔の佃煮みたいで真っ黒など症状に気が付いたときは積極的に消化器内科など専門医療機関を受診して、内視鏡検査などを前向きに受けましょう。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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