髄膜炎の種類と症状…侵襲性髄膜炎菌感染症とは?

髄膜炎という病気があります。脳を包む膜である髄膜に炎症が起こる病気ですが、原因は様々で、原因によって進行の度合いや症状の強さ、治りやすさや後遺症などに差が出てきます。ここでは髄膜炎を取り上げ、種類や症状の特徴について解説します。
髄膜炎とは

髄膜は頭蓋骨と脳の間にある、脳を包み込んでいる膜のことです。膜と言っても1枚の膜ではありません。脳に近い方から軟膜、クモ膜、硬膜という3つの膜からできています。
このうち軟膜は脳の表面にぴったりとくっついていて、基本的に剥がすことはできないものです。一方でクモ膜と硬膜は、何かの成分によって接着しているわけではないですが、間に特に空間はなく、ひっついています。
クモ膜と軟膜の間にはくも膜下腔というスペースがあり、そこに脳脊髄液という液体が溜まっています。この液体によって脳はプカプカと浮いてるような状態となり、衝撃から守られているのです。
脳脊髄液は血液から産生されます。ですので栄養分や電解質などが非常に豊富で、糖分も含まれています。くも膜下腔スペースは、脳や脊髄全体でだいたい150mlです。一方で、1日に産生される脳脊髄液はおよそ500mlですから、1日に3回から4回程度入れ替わっている計算になります。
髄膜炎はこの膜に何かしらの原因で炎症が起こることを言います。その中でも特に、軟膜やクモ膜に炎症が起きた状態のことを、髄膜炎ということがほとんどです。
髄膜はもともと無菌の環境にありますから、もし何らかの原因で感染が起こると、非常に重篤となることがあります。特に脳に触れていますから、脳に波及して脳炎になると命に関わります。
そんな中でも、原因によって症状や重症度が大きく異なってきます。後で取り上げるように、細菌性髄膜炎の場合には特に重篤となりやすく、日本での死亡率は15%程度となっています。
髄膜炎の種類

髄膜炎にはウイルス性髄膜炎、細菌性髄膜炎、無菌性髄膜炎という種類があります。
ウイルス性髄膜炎
ウイルス性髄膜炎は、ウイルスが髄膜に感染することによって起こってくる髄膜炎のことです。原因となるウイルスは様々で、エコーウイルスやコクサッキーウイルスといったエンテロウイルス、単純ヘルペス、水痘帯状疱疹ウイルス、HIVなどがあります。
これらのウイルスももちろん、何もなければ直接髄膜に感染することはありません。ほとんどの場合、一旦どこかの体の部位で感染症状を引き起こし、それが血液の流れに乗って髄膜までやってきます。
例えばエコーウイルスやコクサッキーウイルスなどは、喉の風邪を引き起こすウイルスです。そのため、風邪の症状に引き続いて髄膜炎を起こしてくることがあります。単純ヘルペスウイルスの中でも、2型と呼ばれる単純ヘルペスウイルスは性器ヘルペスという性感染症の原因ウイルスです。陰部にかゆみを伴う水疱を生じた上で、数日後に髄膜炎を引き起こすことがあるのです。
水痘帯状疱疹ウイルスは特徴的な感染の仕方をします。ほとんどの場合、最初に感染するのは子供の頃です。子供の頃に感染し、水疱瘡を引き起こします。水疱瘡は数日経てば症状が消失して改善してきますが、ウイルス自体は完全にいなくなるわけではありません。体の中の神経細胞の中に潜んでいるのです。
通常は自分自身の免疫がウイルスを抑え込み、ウイルスが細胞の中から出てくることはありません。しかし何らかの原因で免疫が弱くなると、ウイルスが途端に活性化してしまい、神経細胞の中から出てきます。神経に沿って広がると帯状疱疹を引き起こします。帯状疱疹が出なくても、神経に接している髄膜に感染が広がり、髄膜炎を引き起こすことがあります。
ほとんどの場合、ウイルス性髄膜炎は比較的軽症で収まります。多くの場合1週間程度で症状が収まってきます。後遺症が残ることもほとんどありません。ただし、免疫力が弱い場合などには重症化することもあります。
細菌性髄膜炎
細菌性髄膜炎は、細菌が髄膜に感染することによって起こる髄膜炎のことです。原因となる菌としては髄膜炎菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌、B群レンサ球菌、リステリア菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌などのグラム陰性桿菌などがあります。
感染経路は病原体によって様々ですが、飛沫感染や接触感染が主となります。また稀なものとしては、副鼻腔に感染している場合に、細菌によって骨が破壊されて髄膜までいたり、そこで感染を引き起こす場合もあります。
細菌性髄膜炎は、ウイルス性髄膜炎と比べると非常に重症化しやすいです。重症化のスピードが早く、発熱に気づいて数時間後には意識が悪くなっていることもまれではありません。また後遺症があるのも厄介な点です。おおむね20%から30%程度に後遺症が残ると言われています。
死亡率も高いです。前述のように、髄膜炎菌であればだいたい15%程度が死亡すると言われている恐ろしい病気です。早期から治療する必要があります。
無菌性髄膜炎
髄膜炎と診断する時には、髄液検査と言って、背中から脊髄液を採取し、その脊髄液を顕微鏡で観察したり、培養したり、種々の検査をしたりします。この検査によって、はっきりとわかるのが細菌性髄膜炎です。顕微鏡で観察して細菌が見えることも多いですし、培養で細菌が増えたり、他の検査が特徴的な結果が出てきたりすることで、診断がつきます。
このような検査をして、細菌性髄膜炎ではないと診断された場合に、無菌性髄膜炎とされます。つまり、ウイルス性髄膜炎も無菌性髄膜炎の一部と言えます。
しかし、無菌性髄膜炎にはウイルス性以外にも様々な原因があります。主なものとして結核性髄膜炎や真菌性髄膜炎、癌性髄膜炎などがありますし、膠原病など全身の炎症をきたす疾患の症状の一つとして髄膜炎が起こってくることもあります。
無菌性髄膜炎も、ウイルス性髄膜炎と同じく比較的予後は良好です。ただし原因によっては慢性化する場合もあるので、正しく診断をして治療する必要があります。
髄膜炎の症状の特徴

髄膜炎の症状は、3徴候と呼ばれるものがあります。発熱、項部硬直、意識障害です。これに加えて、頭痛が生じます。
まず発熱についてですが、発症当初から見られることが多いです。最初発熱で発症し、その後に頭痛などが出てくるのはよくあるケースです。
項部硬直というのは、髄膜刺激兆候と呼ばれる兆候の1種類です。髄膜刺激兆候というのは、体を何かしらの形で動かした時に髄膜が動くことによって、痛みを感じることを言います。通常であれば痛みを感じませんが、炎症が起こっていることによって動きで痛みが出てくるのです。その中でも最も有名なのが項部硬直です。
項部硬直はどのようなものかというと、寝た状態で首を持ち上げると固くてなかなか動かなかったり、強い痛みが後頭部に走ったりするものを言います。項部硬直以外の髄膜刺激兆候としては、ケルニッヒ徴候、ブルジンスキー徴候、Joltaccentuationがあります。
意識障害は、重症化してくると起こってきます。前述の通り、細菌性髄膜炎の場合に非常に早期から症状が出てくることがあります。
侵襲性髄膜炎菌感染症とは

日本ではあまり発生していないのですが、髄膜炎の中でも注意しなければならないものとして、侵襲性髄膜炎菌感染症があります。発症すると急激に症状が悪化し、命に関わることもある上に、集団感染を引き起こすこともあります。
侵襲性髄膜炎菌感染症の原因となるのは髄膜炎菌です。髄膜炎菌は、人の喉に感染することが多いもので咳などを返して感染が拡大します。珍しい細菌かというとそうではなく、もともと持っている人もいるような細菌です。日本国民ではだいたい0.4%の人が常に持っていると言われています。
この細菌が喉にいるのであれば特に問題はないのですが、まれに血液や髄液に侵入して、髄膜炎を引き起こすのです。さらに髄膜だけではなく、血液を介して全身に回りますから、敗血症を引き起こし、急激な状態悪化から全身の壊死を呈することがあります。
治療しなければ致死率は50%にも達すると言われていて、治療した場合でも、全身の様々な場所の壊死によって手足の切断など重篤な後遺症をもたらすことがあります。
日本では珍しいのですが、アフリカ中南部のベナンやスーダン、エチオピアなどの国などで度々流行が発生し、多数の死者が出ています。ただ少ないとはいえ、先進国でも感染事例はあり、特に集団生活を行う場合などに感染しやすいとされています。集団感染を防ぐために、ワクチン接種が推奨されています。
髄膜炎菌全てに効くワクチンはないのですが、一部の種類に対して、ワクチンが開発されています。日本では平成27年5月から発売され、接種できるようになりました。積極的にワクチンを接種する必要は今はないと考えられますが、特に流行地に渡航するような場合などは接種を検討した方がいいでしょう。