十味敗毒湯(ジュウミハイドクトウ)の効果効能を解説
「十味敗毒湯は膿や、ジトジトした湿疹によく使われます」
処方のポイント
水分停滞の解消と止痛作用のある独活、血行を改善する川芎、皮膚の緊張をほぐす柴胡、皮膚の止痒止痛に働く荊芥・防風、排膿作用の桔梗、消化嶴を保護し消化機能を高める生姜,茯苓・甘草等で構成。膿やジトジト感のある皮膚疾患に適応します。辛味。
目次
十味敗毒湯が適応となる病名・病態
保険適応病名・病態
効能または効果
化膿性皮膚疾患・急性皮膚疾患の初期、じんましん、急性湿疹、水虫。
漢方的適応病態
風湿熱の皮疹
十味敗毒湯の組成や効能について
組成
柴胡3荊芥1防風3独活3生姜1桔梗3川芎3茯苓4生甘草1樸樕3
効能
発汗解表・消瘡止狩
主治
外感風寒湿邪・初期の瘡腫
消瘡止痛・解表・活血・解毒作用のある生薬を用いて、病邪の侵入を防ぎ、消散させる治法です。瘡の初期に用います。
解説
十味敗毒湯は『万病同春1』にある「荊防敗毒湯」(柴胡、桔梗荊芥防風独活、羌活、川芎、前胡、甘草、茯苓、枳殼、連翹金銀花、薄荷)から羌活、前胡、枳殼、連翹、金銀花、薄荷を去り、樸楸、生姜を加えた処方です。「荊防敗毒散」は辛温解表剤に属し、表証および表証をともなう皮膚疾患の初期によく用いられます。本処方は「十妹敗毒湯」と名付けられていますが、解毒作用よりむしろ解表発散作用が強いです。表証を解くことによって、皮膚に侵入したばかりの毒を排除できるという考えに基づいた処方です。
適応症状
◇悪寒・発熱・無汗・頭痛
外感風寒の代表的な症状です(麻黄湯の項を参照)。
◇癰・癤・瘡・湿疹・蕁麻疹などの初期
風寒湿邪の侵入によって、皮膚疾患がおこります。
癰:皮膚が赤く腫れあがって熱をもち、痛みがあります。周囲との境界が比較的明らかで化膿すると破れやすく、つぶれた後の口は収まりやすいです。皮膚の化膿性炎症を指しています。
癤:皮膚が赤く腫れて、熱をもち、痛みがある根の浅い小結節を指します。化膿し、排膿すれば治ります。多くは急性化膿性毛嚢炎を指しています。
瘡:皮膚の浅層に多発する膿疱などを指します。
◇舌苔薄膩
体内に痰湿が存在したり、外湿の侵入によって生じる舌苔です。
◇脈浮
表証を代表する脈象です。
十味敗毒湯には辛温解表薬(荊芥、防風、生姜)が多く配合され、外感風寒証に対する効能があります。また、外湿を発散する防風、独活や、内湿を除去する茯苓も配合されているので、湿邪も加わった病証に適しています。柴胡は辛凉解表薬で、表邪を疏散し、皮膚の癰・癤・瘡などの熱性を清熱する作用ももっています。桔梗は排膿薬の代表で、皮膚疾患の処方によく配合されます。宣肺止咳・化痰作用もあるので、咳嗽・痰などの症状にもよく用いられます。
川芎は本処方の中で、唯一の活血通絡薬です。局部気血の循環をよくし、癤・瘡などの傷口の治癒を促進することができるため、皮膚疾患には必要な薬物です。生甘草は百毒を解くとされ少量ですが多くの処方に配合されています。樸樕は日本の民間薬で、江戸時代に多く使用されたものです。現在は樸樕の代用として桜皮(主にやまざくらの樹皮)を用います。解毒作用があり、湿疹・蕁麻疹・食中毒などに用いることが多いです。全体の薬性は温に偏っているが、大熱ではないので使用しやすい解表剤です。
臨床応用
◇感冒
十味敗毒湯は辛温解表と除湿の薬効があるので、外感風寒証(悪寒、発熱)に、湿邪の症状(頭痛、頭重、身重、口不渇、咳、痰、舌薄膩など)をともなうときに適しています。
◇皮膚疾患の初期
癰、瘋、瘡、湿疹、蕁麻疹、にきび、アトピー性皮膚炎などの初期に用います。発散解表作用によって邪気を駆除し、症状を悪化させない予防的効果があります。全体の薬性が温であることから、皮膚がそれほど赤くなく、熱感が少ない場合に適しています。
散風止痒作用のある防風です。荊芥は痒みの症状にも効能があります。
◇風湿病の初期
去風湿薬の独活、防風および活血通絡止痛の川芎が配合されているので、風寒湿邪による痺証(四肢関節の疼痛)の初期に用いられます。関節痛がひどいとき+「桂枝加朮附湯」(通陽、散寒、止痛)
◇体質改善
カゼをひきやすい、皮膚疾患がおきやすい人の体質改善に用いられます。本方は疏散作用が主であり、体表が虚した人を風邪の侵入から守り、カゼの発病を予防できます。ただし、虚弱体質の人は気虚であることが多いので、症状が落ち着いているときに補気剤の「補中益気湯」などを併用するようにします。
●注意事項:本方は辛温解表剤であるため、熱が高い、ロ渇、舌紅などの外感風熱証および、皮屑が赤く、腫れて、痛いなどの熱毒証には禁忌です。