便秘がちで皮下脂肪の多い人に防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)

漢方事典

「防風通聖散は便秘がちで皮下脂肪の多い人によく使われます」

処方のポイント

からだに入り込んだ冷えを排出する防風・荊芥・麻黄・薄荷・便通を通す大黄・芒硝・消化噐に入り込んだ熱を下げる石膏・連翹・桔梗、小便を通す山梔子、滑石等で構成されます。からだに負担をかけずに、体内に蓄積された熱を排出します。皮下脂肪を取り除く作用もあります。独特の味で、温服が効果的です。

防風通聖散が適応となる病名・病態

保険適応病名・病態

効能または効果

腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちなものの次の諸症:高血圧の随伴症状(どうき、肩こり、のぼせ)、肥満症、むくみ、便秘。

漢方的適応病態

表寒、裏実熱。すなわち、悪寒、頭痛、無汗、咳嗽、呼吸困難などの表寒の症候に、口が苦い、口渇、目の充血、咽痛、いらいら、腹部膨満感、便秘、尿が濃いなどの裏実熱の症候を伴い、高熱がみられます。

防風通聖散の組成や効能について

組成

防風1.5荊芥1.5連翹1.5麻黄1.5薄荷1.5川芎1.5当帰1.5白芍薬1.5山梔子1.5大黄1.5芒硝1.5石膏3黄芩3桔梗3甘草6滑石9白朮3生姜1.5

効能

疏風解表・瀉熱通下車

主治

外感風邪・熱邪内蘊

〇疏風解表:体表に侵入した風熱の邪気を疏散する治法です。

〇瀉熱通下:体内に蘊結している熱邪を除去する治法です。

解説

防風通聖散は解表と瀉裏の効能があり、外感風邪の症状(悪寒発熱、頭痛など)と裏実熱の症状(口渇、口苦、気急、煩燥、便秘、尿黄、皮膚瘡瘍など)が同時に現れている場合に適した処方です。「通聖散」の名のとおり、通じさせる作用がきわだっています。

適応症状

◇悪寒・高熱

風寒の邪気が侵入して体表を塞ぐと、陽気が末端に到達できないため悪寒の症状が強く現れます。同時に、体内(主に胃腸)に実熱が存在しているため、正気と邪気がはげしく抗争して高熱が出現します。

◇頭暈・目眩

風邪が上衝して頭部を乱す症状です。風熱が盛んな場合には目が赤く充血し、痛くなる場合があります。

◇ロ苦・口渇・咽喉不利

熱邪が津液を損傷すると、咽喉部の潤いが失われ、口渇や喉の不快感が現れます。口苦は肝胆に火熱の邪が存在するときにみられる症状です。

◇咳嗽・気急

熱邪が肺を塞ぎ肺の宣発·粛降機能が失調すると、肺気が上逆して咳嗽がおこります。熱は急迫の特性があるので呼吸が速くなります。

◇瘡瘍腫毒・発疹

体内の実熱が亢進して血熱となり、さらに熱毒に変化すると発疹症状や化膿性疾患が現れます。皮膚は赤く腫れて、痛みをともないます。

◇便秘・尿黄

胃腸の熱邪によって腸の潤いが失われ糞便が硬くなります。熱が存在するため尿も濃くなり、重症の場合は排尿痛をともなうことがあります。

◇舌紅・苔薄黄あるいは厚黄

紅舌と黄苔は疾病の性質が熱であることを示します。体表に邪がある場合は薄苔となり、胃腸に実熱がある場合は厚苔を呈します。

◇脈実数

実脈は邪気と正気の亢進を示し、数脈は熱を示しています。

防風通聖散は体表の風邪を解除する部分と、体内の熱を瀉下する部分によって組成されていますが、裏熱を瀉下する作用が主て、方剤全体の薬性は寒凉です。防風、荊芥、麻黄の3薬は去風作用によって体表の風邪を追いはらいます。薄荷は辛凉解表薬に属しており、阞風荊麻黄の温性を抑えるとともに疏風もします。これら4薬によって表邪を発散します。これに宣肺止咳、化痰利咽の効能をもつ桔梗を配合して、発疹症状の初期、肺気不宣による咳嗽、気急咽喉不利などの症状を治療します。亢進した肺熱に対して大量の清熱薬、石膏、黄芩、連翹、山梔子を使用しています。さらに石膏の生津作用によって口渇を止めます。黄芩と連翹は解毒作用を兼ねそなえているので、皮膚の瘡㍼毒を治療します。大黄と芒硝は瀉下薬で、通便によって体内の熱毒を除去します。滑石と山梔子は清熱滲湿薬である滑石は利湿作用が強く、山梔子は清熱作用が強いです。2味の配合によって体内の熱邪を尿から体外へ排出する大量の去邪薬が使用されているので、体内の正気を損傷する恐れがあるため、扶正薬が配合されています。当帰、白芍薬、川芎は養血活血薬で、血分を保護する。血を潤養することによって風邪をおちつかせ、瘙痒症状をしずめます。さらに、活血作用は瘡瘍を根治に導きます。白朮と甘草は益気健脾薬で、多量の苦寒薬使用による脾胃の損傷を保護します。生姜も胃を調和することができます。

臨床応用

◇表裏ともに実証

必ずしもすべての症状がそろわなくても、実熱証であれば用いることができます。解表作用は弱いので表証が強いときは、ほかの解表剤を併用してもよいです。裏実熱証だけの場合に用いることもできます。

◇肺熱咳嗽

痰熱が肺を塞ぐことによっておこる急性の咳嗽、痰が黄色く粘る、ロ渇便秘などの実熱症状に用います。本方の瀉熱通便作用によって大腸を通じさせると、大腸と表裏関係にある肺熱も下がりやすくなります。

〇咳嗽がひどいとき+「清肺湯」(清肺、止咳化痰)

〇喘息がひどいとき+「麻杏甘石湯」(清肺平喘)

◇皮膚疾患

風熱の侵入による蕁麻疹、神経乸波膚炎、にきび、扁平疣ぜいなどの疾患に用います。とくに熱毒による皮膚の化膿性疾患、湿疹などに適しているが、防風通聖散は燥湿作用が比較的弱いです。

〇湿毒証で滲出物が多いとき+「黄連解毒湯」(清熱解毒)

または+竜胆瀉肝湯」(清肝瀉火、利湿)

便秘など裏実の症状がみられない場合、防風通聖散を長期服用してはなりません。

◇肥満症

防風通聖散は優れた瀉熱通便の作用をもっているので、便秘症状をともなう肥満症の改善に用いられます。

〇苔厚、痰多など痰湿をともなうとき+「二陳湯」(燥湿化痰)

防風通聖散は通下瀉火の作用が強く、気を消耗するため、気虛による肥満症には適していません。

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