さまざまな冷え症状に五積散(ごしゃくさん)

漢方事典

「五積散はさまざまな冷え症状によく使われます」

処方のポイント

発汗により冷えを除く麻黄・白芷・からだを温め冷えを除く生姜・桂皮を中心に、多くのからだを温める生薬で構成されます。冷えて膨満感のある腹痛、冷えて痛む関節痛や神経痛、冷え症等、冷えに関連した諸症状に適応します。生理不順、生理痛にも応用。甘辛味で、温服が効果的です。

五積散が適応となる病名・病態

保険適応病名・病態

効能または効果

慢性に経過し、症状の激しくない次の諸症:胃腸炎、腰痛、神経痛、関節痛、月経痛、頭痛、冷え症、更年期障害、感冒。

漢方的適応病態

1)表寒、寒湿困脾。すなわち、生冷の飲食物の摂取や寒冷の環境によって、悪寒、発熱、頭痛、関節痛、鼻水などの表寒の症候と、悪心、嘔吐、下痢、腹部膨満、腹痛、腹や四肢の冷えなどの脾胃の寒湿の症候がみられるものです。

2)寒湿中経。すなわち、冷房など寒冷の環境によって生じます。身体の冷え、悪寒、頭痛、四肢の痺れ、筋肉痛(特に下半身や大腿内側)などの症候です。

五積散の組成や効能について

組成

厚朴4蒼朮24陳皮6炙甘草3半夏3茯苓3当帰3芍薬3川芎3白芷3肉桂3麻黄6桔梗12

枳殺6生姜4

効能

調中順気・活血・散寒・化痰

主治

中焦失調・血瘀・寒積・痰滞

〇調中順気:中焦脾胃の機能を調節し、気の運行を順調にさせる治法を示します。

順気=調気=理気:いずれも気滞に用いる治法であります。

〇活血・散寒・化痰:瘀血、寒凝、痰滞に用いる治法であります。食積は化痰作用によって除去することができます。

解説

五積散は気・血・痰・寒・食の五積滞を治療する処方です。気の停滞によって、血積、寒積、痰積・食積をひきおこすことが多く、気滞が主な原因となっています。

使用量は原文のものですが、蒼朮桔梗の量を減して用いることが多いです。

適応症状

◇脇腹脹痛

気滞による症状です。肝気が鬱滞すると脇が脹り、脾気が停滞すると腹部が脹ります。

◇胃脘冷痛

胃脘部に寒気が疑滞すると、その周辺が冷えます。寒は痛を主るので、同時に胃痛が現れます。

◇悪心・嘔吐

痰積と食積によって、胃気が上昇すると、悪心嘔吐がみられます。

◇月経不順

気滞と血瘀により、気血の流れが乱れると、月経不順がおこります。

◇肩こり・背部痛

寒邪の凝滞と気血の停滞が原因となっておこる症状です。

◇舌暗・苔白

気血の凝滞がひどい場合、舌質は暗色となります。白苔は寒湿を示します。

◇脈弦緊

疼痛が強いときは弦脈が現れ、寒盛のときは緊脈が現れます。

五積散はいくつかの方剤を組み合わせたものです。五積に対して各側面から作用する穏やかな方剤ですが、薬性は温に偏っています。「平胃散」は理気作用が優れ、湿をとります。「二陳湯」は化痰作用が強く、悪心、嘔吐を止めます。桔梗は2方剤の化痰作用を増強します。蒼朮の量は原文では24となっているが燥性が強いため、臨床では減量するか、穏やかな健脾燥湿薬である白朮にかえます。「苓桂朮甘湯」は温性で寒邪の停滞を除去します。渗湿作用をもつ茯苓が入っているので、特に寒飲に用いることが多いです。「四物湯」は地黄(粘りがあるため積滞には不適)を除くと、活血作用が強くなり、月経不順、月経痛、関節痛など痛みに対して効果を現わします。「麻黄湯」は辛温解表、散寒の作用で、項背のこわばりを治療します。原文の桂は肉桂となっています。肉桂は性味が辛熱で温裏散寒、止痛の作用に優れ、裏寒の腹痛に用いることが多いです。一方、桂枝は性味カ淬温で、解表散寒、通絡の作用に優れ寒邪の侵入による経絡不通の痺痛に用いることが多いです。このため、温陽通絡の作用を強調したいときには肉桂を桂枝にかえることがあります。五積散の作用は多方面にわたっていますが、その強さを比較すると、①痰積・食積に対する燥湿化痰作用②気積に対する理気作用③寒積に対する散寒作用④血積に対する活血作用の順となります。

臨床応用

◇脾胃寒湿

五積散には脾胃に作用する温性薬が多く配合されています。中焦の寒邪を除去し、燥性によって中焦の痰湿を取り除きます。寒性の胃痛、痰湿による悪心、嘔吐、脾湿による下痢などに用いられます。寒は「凝滞」を主り、湿は「粘滞」を主ります。寒と湿が停滞すると気血の流れに影響を与えて、気滞血瘀をひきおこし、局部的に脹って痛む症状が現れます。五積散中の枳栽、陳皮、厚朴などは脾胃の気滞を解除し、脹る症状を治療でき、当帰、芍薬などの活血。緩急止痛作用は、疼痛を治療します。痰湿による悪ム嘔吐には半夏陳皮、乾姜、茯苓の化痰燥湿、止嘔作用が効果的です。

脾虚による下痢より、脾湿の下痢に適しています。「平胃散」の寒湿を除去する作用と、乾姜の温中散寒、止痢の作用が治療効果を高めています。

◇痺証

散寒の作用をもつ麻黄、肉桂、蒼朮と活血、柔筋止痛の作用をもつ当帰、芍薬によって、関節、筋肉のこわばりと疼痛を緩和させます。脾胃の運化機能の失調による舌苔白膩、口渇がない、下痢しやすいなど、脾胃寒湿の症状をともなう場合に用いることが多いです。

〇疲労感浮腫、手足のこわばり(気虚湿盛)のとき+「防已黄耆湯」(益気利水)

〇痛みが強い(血瘀)とき+「疎経活血湯」(活血通絡)

◇月経不順

血病の基本方剤である「四物湯」が配合されているので月経不順、月経痛、無月経に用いることができます。寒邪の侵入あるいは気滞血瘀がある場合に適しています。

〇月経痛が強いとき+「当帰芍薬散」(養血活血・止痛)

または+「桂枝茯苓丸(活血化瘀)

〇胸脇脹満、イライラ(肝鬱気滞)のとき+「加味逍遥散」(舒肝解鬱・健脾・養血)

◇外感風寒

「麻黄湯」と「桂枝湯丨の主要生薬が加わっていることから、表寒を発散することができます。外感風寒による肩こり、背部の疼痛にも侧用できます。

健脾燥湿薬が多く配合されているので、脾胃に寒湿が停滞した悪心、下痢、食欲不振をともなう場合に用います。

注意事項

五積散は作用が穏やかであるが薬性は温に偏るので、熱性症状には禁忌です。脾胃の機能を調節することはできますが、脾胃を補益することはできないので顕著な脾胃虚弱には適しません。

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