【生薬解説】呉茱萸(ごしゅゆ)とは

漢方事典

別名:呉椒・呉萸/ごしゅゆ(呉茱萸)

中国の長江流域、広東省、海南省、広西チワン族自治区、陝西省などに分布するミカン科の落葉低木、ゴシュユ(㊥呉茱萸Evodiarutaecarpa)の成熟する少し前の未成熟果実を用います。またホンゴシュユ(石虎E.officinalis)の果実なども利用されます。
呉茱萸は中国原産であり、呉というのは江蘇省一帯のことを指します。
日本にも江戸時代に薬木として渡来し栽培されていましたが、雌株だけだったため種子のない果実しかできませんでした。

なお日本ではグミに「茱萸」の漢名を当てていますが、これは誤用であり、中国で「茱萸」といえば呉茱萸あるいは山茱萸(サンシュユ)のこと。
ちなみに中国では呉茱萸の種子から油を搾ったり、葉を黄色染料にしたりと、薬用以外に使われています。
未成熟果実は直径5mmくらいの小さな偏球形で基部に果柄がついています。独特の強い臭いがあり、味は辛くて苦いです。

呉茱萸の成分にはアルカロイドのエボジアミン、ルテカルピン、シネフリン、鎖状テルペンのエボデン、苦味成分のリモニン、芳香成分のオシメン、サイクリックGMPなどが含まれ、駆虫、抗菌、鎮痛、健胃作用などが知られています。
近年、エボジアミンにカプサイシンと同様のバニロイド受容体を介した脂質代謝促進作用が認められ、肥満防止にも効果があるとして注目されています。

新鮮な果実は服用すると嘔吐を起こすことがあるので、1年以上を経過したものを用います。
また多量に服用すると咽に激しい乾燥感が生じるので注意しましょう。
漢方では呉茱萸は大熱の性質があり、厥陰肝経の主薬とされ、温裏・疏肝・止痛の効能があります。とくに虚寒による腹痛や脇痛の常用薬であり、嘔吐や頭痛などにも用います。
この効能は乾姜とよく似ているが乾姜が上焦を温めるのに対し、呉茱萸は下焦を温めるといわれ、とくに効果があるのは下腹部痛や生理痛、下痢など。
民間では浴湯料として知られ、腰痛や冷え性などに用いられています。

温熱作用

冷え症状や血行障害に用います。
手足が冷える「冷え性」やシモヤケなどの症状に当帰・桂皮などと配合(当帰四逆加呉茱萸生姜湯)。
冷え性の婦人の不妊症や主婦湿疹に当帰・川芎などと配合します(温経湯)。

胃が冷えて生じる嘔吐や吃逆には人参・大棗などと配合して用います(呉茱萸湯)。

止痛作用

頭痛や腹痛に用います。
片頭痛などで急に頭痛がして乾嘔するときには呉茱萸湯を用います。

ストレスによる胃痛に黄連と配合して用います(左金丸)。
術後の癒着などで冷えると痛む腹痛には香附子・延胡索などと配合します(神効湯)。

腹から左の胸や肩にかけての牽引痛や肩こりには半夏・人参と配合して用いるとよいとされています(延年半夏湯)。

処方用名

呉茱萸・呉萸・淡呉萸・ゴシュユ

基原

ミカン科Rutaceaeのニセゴシュユ

EvodiarutaecarpaBerth、ホンゴシュユE.

officinalisDodeの未成熟な果実。

性味

辛・苦・熱・小毒

帰経

肝・腎・脾・胃

効能と応用

方剤例

暖肝・散寒止痛

①呉茱萸湯・丁萸理中湯
肝胃虚寒の濁陰上逆による厥陰頭痛(頭頂~側頭部痛)・悪心・嘔吐・よだれやつばが多いなどを呈するときや、肝寒犯胃の上腹部痛・悪心・嘔吐などの症候に、人参・生姜・大棗などと用います。

②導気湯・当帰四逆加呉茱萸生姜湯
寒滞肝脈による四肢の冷え・両側の下腹~陰部~大腿内側の冷え痛み(疝痛)などには、木香・小茴香・川棟子などと用います。

③温経湯・艾附暖宮丸
下焦虚寒の月経痛・月経周期の延長などの症候には、当帰・川芎・桂枝などと使用します。

④呉萸木瓜湯
寒湿脚気上逆による腹満・腹痛・下痢・転筋に、木香・檳榔子・生姜などと用います。

下気止嘔

①呉茱萸湯
胃寒の嘔吐・乾嘔・腹痛・よだれやつばが多いなどの症候には、人参・生姜・大棗などと用います。

②左金丸・梔萸丸
肝火犯胃による胸脇部の疼痛・呑酸・嘔吐などの症候にも、黄連・山梔子などと使用します。

その他

四神丸
温中助陽に働くので、脾腎陽虛の五更瀉(夜明け前の下痢)に、肉豆蔲・五味子・補骨脂などと用います。
また、呉茱萸の粉末を醋で練って足底に貼ると、引火下行に働くので口内炎に有効です。

臨床使用の要点

呉茱萸は辛散苦降・大熱燥烈で、疏肝下気に長じ、温中して肝胃を和し、散寒燥湿して脾腎の陽を助けます。
厥陰の寒気上逆を下降し止痛するため厥陰頭痛に適し、温中降濁して肝胃を調和し止嘔・制酸に働くので胸腹脹満・嘔吐呑酸に有効であり、脾腎を助陽し燥湿して逆気を降ろすために寒湿瀉痢・吐瀉転筋・寒疝脚気・少腹冷痛などにも用います。

参考

①呉茱萸は厥陰肝経の主薬であり、性は大熱ではありますが、少量を寒薬とともに用いると、肝火犯胃の嘔吐・呑酸や湿熱の下痢などに有効である。反佐と引経薬の効果を果たします。

②呉茱萸・乾姜は温中散寒・燥湿助陽に働きます。呉茱萸は主に肝経に入って疏肝下気するので、厥陰頭痛・胃痛・寒疝作痛・少腹冷痛・嘔吐呑酸などに適します。
乾姜は主に脾経に入り、温中散寒の主薬で、脘腹冷痛吐瀉に適し、温肺化痰にも働くので寒痰喘咳にも使用します。呉茱萸は助陽に働いて五更瀉によく用い、乾姜は助陽するので回陽救逆に用います。

③呉茱萸・黄連・生姜は止嘔に働きますが、呉茱萸は温肝により肝寒犯胃の嘔酸に、黄連は清胃熱により胃中湿熱の嘔苦に、生姜は温中により胃寒上逆の嘔水に、それぞれ効果があります。

用量

1.5~6g、煎服。

使用上の注意

寒湿や気滞がないもの、陰虚有熱には禁忌。

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