胃痙攣の原因はストレスだけじゃない?薬の選び方と対処法

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胃痙攣(いけいれん)とは、胃壁にある筋層組織が何らかの原因によって異常に緊張し、胃が震えて痙攣するように痛む状態を指します。

ここでは胃痙攣の原因にはどのようなものがあるのかを見てみましょう。胃痙攣が疑われるときの対処法や検査方法についても解説します。

胃痙攣の症状

じわじわと徐々に胃痛を自覚することは少なく、急激に激しく疼痛症状が出現するのが特徴です。

痛み自体の発作時間は短くて数分で改善することもありますが、長い場合にはおよそ1~2時間程度、症状が継続することもあります。

ひどい場合には、冷や汗をかいて動けなくなってしまうほど強い痛みを自覚することもあるため、非常につらく受診を余儀なくされるケースもあります。

胃痙攣の原因

胃痙攣を引き起こす原因はたくさんあります。ここでは代表的ないくつかの原因についてみてみましょう。

ストレス

胃痙攣の原因で最も多いと考えられているのが、精神的なストレスです。

胃は元来ストレスに対して弱い臓器であると言われていますので、極度の高いストレスや過度の緊張が長時間継続すると胃に大きな悪影響が及ぼされます。

慢性的なストレスに曝露されることで胃が痛くなることも想定されますが、急激にストレスを自覚した際に胃痙攣の症状が出現しやすいと考えられています。

暴飲暴食

暴飲暴食が胃痙攣の原因になることもあります。

アルコールやコーヒー、香辛料、冷たい食べ物や刺激物などを過量に摂取して暴飲暴食を継続することで胃自体に負担をかけて胃痛症状が出現することがあります。

また、喫煙することも胃粘膜に悪影響を及ぼして胃痙攣症状を呈することが考えられます。

機能性ディスペプシア

機能性ディスペプシアとは、各種検査によって明らかな器質的異常がないにもかかわらず、慢性的なみぞおち辺りの痛み、あるいは胃もたれなどの腹部症状を呈する病気を指します。

機能性ディスペプシアの病態は複雑であることが知られており、ひとつだけの特定の原因で引き起こされるわけではありません。

例えば、胃運動機能異常によって胃から食べ物がスムーズに十二指腸方向に送ることができない、あるいは胃や十二指腸の知覚過敏によるもの、過剰なストレス、遺伝的要因、ピロリ菌感染などの原因があります。

胃炎

急性に引き起こされる胃炎は、日常的にも頻繁に起こりやすい病気であり、いろいろな原因で発症する胃粘膜の炎症所見を呈することが知られています。

コーヒーや緑茶など嗜好品や唐辛子を始めとする香辛料、あるいは刺激物の過剰摂取、鎮痛剤の長期服用が原因となる場合もあります。

多くの場合、急性胃炎の症状としては胃周囲部に不快感や痛みなどを自覚する、胃のむかつきや嘔吐を認める、食欲不振が続くなどが考えられていますし、急性胃炎の状態がくり返されると、慢性胃炎に繋がります。

胃潰瘍・十二指腸潰瘍

胃潰瘍や十二指腸潰瘍に罹患した際には、胃痙攣症状が出現することがあります。

胃潰瘍は、胃の粘膜がただれて、胃壁がダメージを受けた状態のことを指しており、潰瘍病変部が悪化すると胃に穴が開いて穿孔を引き起こして重症化します。

十二指腸潰瘍は、胃と小腸を結ぶ十二指腸の粘膜が胃酸やストレスなどによって損傷を受けて炎症を引き起こす病気です。

胃潰瘍の場合には、食事中から食後に腹痛症状が起こることが多く、十二指腸潰瘍では空腹時に腹部が痛むことが一般的です。

これらの潰瘍性病変があると、みぞおちの痛み、胃もたれ、吐き気、食欲不振などの症状を自覚することもあり、潰瘍が進行した際には、潰瘍部から出血や穿孔に繋がることがあるため注意が必要です。

胃がん

胃がんは、正常な胃粘膜の細胞遺伝子が何らかの原因で傷ついて、悪性腫瘍へと変異した疾患です。

一般的に、胃の粘膜や粘膜下層までに及ぶ悪性腫瘍は早期がんといわれており、その多くが内視鏡などを用いた手術で治癒します。

一方で、がん組織が筋層部や漿膜部まで到達している進行がんの場合は、胃周囲組織や肺や脳などの他の臓器に病巣が転移している可能性が高くなり、病変が進展すればするほど完全に治癒する見込みが低くなります。

胃がんにおいて、初期症状は乏しく、かなり進行すればみぞおちの痛み、腹部膨満感、吐き気などの症状を自覚することがあります。

胃以外の消化器疾患

胃以外の消化器疾患の一つである逆流性食道炎では、胃痙攣に類似した症状を呈する場合があります。

逆流性食道炎は、食道に胃酸が逆流して食道粘膜を傷つけることで炎症が引き起こされる病気です。

一般的に、胃を切除した場合や食道裂孔ヘルニアを有する高齢者などに多く認められますが、肥満体形の方や妊婦さんなども胃酸の逆流が起こりやすいと考えられています。

典型的な症状としては、横になった際や、身体をかがめたときに胸焼けを感じることがありますが、胸部下部周辺が痛いなどの症状を呈することもあります。

アニサキス症

アニサキス症という疾患によって、激しい胃部の痛みを伴って胃痙攣に陥る可能性があります。

アニサキスは寄生虫であり、サケやサバなど水産物の生ものや刺身を摂取することで感染する場合が多いといわれています。

患者さんは激しい胃痛を訴え、特に上腹部痛と嘔気を認めるのが特徴です。アニサキス症が疑われた場合には、上部内視鏡検査を実施して寄生虫を鉗子で除去する治療が行われます。

胃痙攣かな?と思ったときの対処法

胃痙攣になった際には、安静にしてできるだけ柔らかく胃に優しい飲み物や食べ物を摂取するようにしましょう。

胃痙攣は胃に負担が掛かっている状態であり、胃が炎症を起こしていることもあるので、消化管に消化吸収されやすい食事内容を心がけ、どうしても食欲がない際には水分不足にならないように気をつけましょう。

スパイシーな調味料など胃にとって刺激になるものはできるだけ摂取しないようにし、アルコールも飲み過ぎないようにしましょう。脂っこいものや塩分が多い食べ物も控えるように意識しましょう。

どうしても腹部の痛みがひどい際には、応急的に鎮痛薬を使用することも検討されます。

胃痙攣の症状を和らげる薬の選び方

胃痙攣では、対症療法として、胃の筋肉の緊張を抑えるため、消化管の運動を抑えるブスコパンやストロカインといった薬や、安中散(あんちゅうさん)、人参湯(にんじんとう)、六君子湯(りっくんしとう)などの漢方薬が処方されます。

特に、漢方薬は市販で販売されているものも数多くありますので、専門医療機関をすぐに受診出来ない場合には一時的に試してみても良いかもしれません。

胃痙攣がある場合には、原因を調べることが最も重要ですが、同時に対症療法で痛みを抑えることも大切です。

ただし、胃が痛いときに、痛み止めとしてロキソニンやボルタレン、イブプロフェンのような鎮痛薬を乱用すると、胃潰瘍や胃炎が悪化してしまい症状が酷くなる懸念がありますので、自己判断でそういった薬は飲み続けないようにしましょう。

すぐに病院へ行けない場合には市販薬を用いることもあるかもしれませんが、症状を放置せずに心配であれば早めに病院を受診しましょう。

胃痙攣の検査方法

胃痙攣は様々な原因から起こり、特に胃がんや胃潰瘍など治療を急がなければならない病気が原因の場合もあるため、胃痙攣が頻繁に起こって、痛みが続く場合には、医療機関で検査を受け、原因を調べる必要があります。胃痙攣の検査には超音波検査や胃カメラ検査があります。

超音波検査

超音波検査は、胃痙攣の原因となっている疾患が、消化管以外の膵臓、胆のう、胆管などの消化器が原因かどうか、腹水などが貯留していないかなど腹腔内の状態を調べる検査です。

検査する部位に医療用のジェル(潤滑剤)を塗って、プローブと呼ばれる超音波の発受信器をあてるだけで検査できて、患者さんは全く痛みを感じません。

腹部エコー検査では、疼痛や被爆もなく継時的にその場で腹腔内を観察できます。腹水の有無を確かめることは重篤な疾患との鑑別に有用です。

胃カメラ検査

胃痙攣の発症原因が食道から胃、十二指腸までの上部消化管にあると思われる際には、胃カメラ検査を行います。

胃カメラ検査は上部消化管の粘膜全体を医師が観察して、炎症や潰瘍などの病変がないかなどをリアルタイムに調べることができます。

胃カメラ検査は、放射線の被爆もなく、病変部の確定診断のための生検も行える検査ですが、検査時の疼痛があるため比較的侵襲度の高い検査といえます。

この検査を実施する上では、胃の中を空にするために絶食が必要であるなど検査を受けるための準備が必要です。気軽に受けられる検査ではありませんが、症状が長く続いて強い胃の痛みを自覚している場合には早めに予定を立てて胃カメラ検査を受けましょう。

また、実際に検査を受ける際には、抗血小板薬や抗凝固薬の使用の有無などを検査する施設に伝えることが大切です。

胃カメラには、苦しい・つらい・痛いといったイメージをお持ちの方もいるかと思いますが、実際には鎮静薬を使用しながら、できるだけ苦痛が少なくて済むように配慮している医療施設が多いです。

まとめ

これまで胃痙攣の原因と対処法について解説してきました。

急激に胃壁の筋層組織が過度の緊張を引き起こして、胃が痙攣したように強い胃痛や吐き気症状がある状態が胃痙攣です。

胃痙攣は、多種多様な原因によってさまざまな症状が引き起こされることが知られており、胃痙攣の原因によってその対処法や治療内容が異なります。

日々のストレスが過度にならないようにし、普段から暴飲暴食は控えましょう。

胃がんや胃潰瘍、十二指腸潰瘍など治療を急がなければならない病気が胃痙攣を引き起こしている場合も想定されるため、胃痙攣症状が頻繁に起こる、あるいは腹部の疼痛症状などが継続している場合には病院で検査を受けましょう。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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