茯苓(ぶくりょう)/まつほど(鬆塊)の生薬解説
日本、中国、北米に分布し、アカマツやクロマツなどの根に寄生するサルノコシカケ科のマツホド(㊥茯苓Poriacocos)の菌核を用います。菌核とは菌糸の塊で、不規則な塊状をなし、大小もさまざまです。中には重さ1kg以上で人の頭ぐらいの大きさのものもあります。
表面は灰褐色ですが、中は白くてチーズ状です。木材腐朽菌の一種で伐採後4~5年たったマツなどの切り株の根に寄生します。従来、マツホドは枯死したマツの根に寄生すると考えられていましたが、生きたマツやその他の植物の根にも寄生し、菌核を作ることが確認されています。地下20~30cmの所に隠れているため、かつて日本でも「茯苓突き」といわれる専門家が探す仕事をしていました。
茯苓の名は「松の神霊の気が伏してできたもの」という「伏霊」に由来します。マツホドの中にマツの根の通っているものをとくに茯神(ぶくしん)といい、その根を茯神木(ぶくしんぼく)といいます。また外皮は茯苓皮(ぶくりょうひ)、外皮に近い淡紅色の部分を赤茯苓(せきぶくりょう)といいます。
茯苓は無味無臭で噛むと歯に粘りつきます。堅くて、断面が純白できめの細かいものが良品とされ、雲南省に産する天然品が有名です。また安徽省などではマツの材でマツホドを培養し、土の中に埋めて生産する人工栽培が行われています。かつて日本に流通していた茯苓は、日本産、韓国産、北朝鮮産の野生品でしたが近年、多量に輸入されている中国産茯苓はほとんどが栽培品です。
茯苓にはトリテルルペノイドのエブリコ酸、パキマ酸、ツムロース酸、多糖体のパキマン、ステロールのエルゴステロールなどが含まれ、水製エキスには利尿、抗潰瘍、血糖降下、血液凝固抑制作用が、パキマンには免疫増強作用などが知られています。漢方では利水消腫・健脾・安神の効能があり、水腫や痰飲の治療には必ず用いられる要薬です。とくに脾胃の気虚による湿や痰飲の症状に適しています。茯苓は「補にして峻ならず、利にして猛ならず」といわれるように性質は穏やかで、正虚(脾虚)と邪盛(湿盛)の両面から扶正祛邪を行うとされています。また心脾を補い、情緒不安定や動悸、不眠などにも用いますが、一般に安神には茯神の方を用います。
茯苓皮は補益作用はないですが、利水作用に優れ、皮膚の水腫に用います。赤茯苓には清熱利湿の効能があり、熱淋や血淋といわれる膀胱炎などの排尿異常に用います。ちなみに茯苓の粉末と米粉を混ぜて作った薄い餅に、胡麻や胡桃、松の実などの餡をはさんだ「茯苓もち(茯苓夾餅)」が北京特産の銘菓として知られています。→茯神
①利水作用
水腫や痰飲に猪苓・沢瀉などと配合して用います。腎炎などによる全身の浮腫には猪苓・沢瀉・桂枝などと配合します(五苓散)。病後などにみられる顔や手足の軽度の浮腫には茯苓皮に大腹皮・桑白皮などを配合して用います(五皮飲)。痰飲のために眩暈や動悸のみられるときには白朮・桂枝と配合します(苓桂朮甘湯)。寒湿のために腰以下が冷えるときには白朮・乾姜などと配合します(苓姜朮甘湯)。膀胱炎などによる排尿障害には猪苓・沢瀉・滑石などと配合します(猪苓湯)。
②健脾作用
食欲不振、消化不良、下痢などに用います。補気の人参・白朮などと配合することが多いです。胃腸の虚弱体質の治療に人参・白朮などと配合します(四君子湯)。慢性的な消化不良、下痢の症状にはさらに縮砂・山薬などと配合します(参苓白朮散)。痰飲が胃に貯留した状態(胃内停水)があり、上腹部が脹満し、嘔吐などのみられるときには白朮・陳皮などと配合します(茯苓飲)。
③安神作用
動悸や不眠、情緒障害などに用います。臍下に動悸があり、気が胸に上衝してくるときには桂枝・大棗などと配合します(苓桂甘棗湯)。神経が亢ぶった状態で左腹部に動悸を触れるときには柴胡・釣藤などと配合します(抑肝散加陳皮半夏)。虚弱体質者の不眠症に酸棗仁・知母などと配合します(酸棗仁湯)。
処方用名
茯苓・白茯苓・雲苓・雲茯苓・朱茯苓・辰茯苓・硃拌茯苓・朱砂拌茯苓・ブクリョウ
基原
サルノコシカケ科PolyporaceaeのマツホドPoriacocosWolfの外層を除いた菌核。
性味
甘・淡・平
帰経
心・脾・胃・肺・腎
効能と応用
方剤例
利水滲湿
四苓散・五苓散・茯苓導水湯
水湿停滞による尿量減少・浮腫などに、猪苓・沢瀉・大腹皮などと用います。
健脾補中
①四君子湯・啓脾湯・参苓白朮散
脾虛の食欲不振・元気がない・腹鳴・腹満・泥状~水様便などの症候に、人参・白朮・山薬・蓮子などと用います。
②二陳湯・半夏白朮天麻湯・六君子湯・小半夏加茯苓湯・茯苓飲・苓桂朮甘湯
脾虚による水湿停滞で悪心・嘔吐・めまいなど痰飲の症候がみられるときは、半夏・陳皮・白朮・桂枝などと使用します。
寧心安神
帰脾湯・安神定志丸・酸棗仁湯
心神不寧の不眠・不安感・驚きやすい・動悸などの症候に、人参・竜眼肉・酸棗仁・遠志・菖蒲・竜骨・牡蛎などと使用します。
臨床使用の要点
茯苓は甘淡・平で、甘で補い淡で滲湿し、補脾益心するとともに利水滲湿に働き、脾虚湿困による痰飲水湿・食少泄瀉および水湿内停の小便不利・水腫脹満に必須の品であり、心脾に入って生化の機を助け寧心安神の効能をもつので、心神失養の驚悸失眠・健忘にも有効です。
参考
①マツホドは主として松の根に寄生して菌核を形成します。黒褐色の外皮が茯苓皮」、内側の肉部が淡紅色を呈するものを「赤茯苓」、白色を呈するものを「白茯苓」、松根を抱くものを「茯神」といいます。
現在では、茯苓皮を除いた菌核全部を「茯苓」として利用することが多いです。
②茯苓の特徴は「性質平和、補して峻ならず、利して猛ならず、よく輔正しまたよく祛邪します。脾虚湿盛、必ず欠くべからず」といわれますが、性質が緩やかであるところから補助薬として用いることが多いです。
用量
9~15g、煎服。
使用上の注意
①寧心安神には、少量の朱砂をまぶした朱砂拌茯苓(朱茯苓・辰茯苓・硃拌茯苓)を使用すると効力が強いです。
②尿量が多いときには使用しません。