大動脈解離はどんな病気?どんな痛み?前兆や症状について解説
大動脈解離は近年増加しつつある病気であり、突然発症して放置すれば発症後の48時間以内に50%、1週間以内だと70%、2週間以内だと80%の高い確率で死亡する疾患です。ここでは大動脈解離の症状や原因について解説します。
目次
大動脈解離とは
大動脈の壁は内膜、中膜、外膜の三層構造となっており、厚さは約2mm程度と言われています。
大動脈解離とは、大動脈の壁の血液が流れる側である内膜に突然亀裂が入って、裂けてしまう病気であり、そこから血管壁の中に血液が流れ込み、本来の血液の流れとは別の流れ道ができて大動脈の壁が二腔構造になります。
大動脈壁が薄くなることで外膜が避けると破裂を起こして、高い確率で死に至りますし、裂ける部位によっては枝分かれしている血管が閉塞や狭窄を起こして、心筋梗塞や脳梗塞、下肢虚血などさまざまな合併症を発症する危険な病気です。
大動脈の壁に血液が流れ込む内膜の傷をエントリー、血液が流れ込むことで形成される大動脈壁内のスペースを偽腔、本来血液が流れている大動脈内腔を真腔と呼び、血管内腔に傷ができる原因は高血圧や大動脈壁の脆弱性、動脈硬化などが複雑に絡み合っています。
大動脈の分類
大動脈は上行大動脈、弓部大動脈、下行大動脈の3部位に分類されています。
上行大動脈は直径約3cmで心臓を出てすぐ上に向かう血管であり、弓部大動脈は上行大動脈が弓状に孤を描いてUターンして下行する弓状の部分、下行する大動脈のうち横隔膜から上の部分を下行大動脈と呼んでいます。
また、上行大動脈や弓部大動脈、下行大動脈を総称して胸部大動脈と呼称しており、大動脈解離のほとんどの場合にはこの部分で発症すると伝えられています。
大動脈はいろいろな全身の臓器に重要な血液を送るために、さまざまな場所に枝分かれしていますが、そうした分岐部にまで解離所見が及ぶことで、偽腔が分岐した血管を狭窄させて、その先の臓器に血液が流れにくくなることもあります。
大動脈解離の分類
大動脈解離は解離が起こった部位によって、スタンフォードA型とスタンフォードB型に分類されており、A型は上行大動脈に解離があるタイプ、B型は上行大動脈に解離がないタイプで、A型の場合には緊急的に手術治療が必要な状態であり、予後不良とされています。
また、大動脈解離はその病期によって、急性期、亜急性期、慢性期の3種類に分類されており、発症後2週間以内の急性期に認められる大動脈解離を急性大動脈解離と呼んでいます。
大動脈解離の発症に関する傾向
通常では、大動脈解離は女性より男性で3倍多く発症し、人種別では黒人、特にアフリカ系アメリカ人に多く、アジア人にはあまり罹患率が高く見られません。
大動脈解離の発症者の約4分の3が40~70歳の年齢層であり、大動脈解離の発症は、夏場より冬場に多い傾向があり、夜よりも日中、特に午前6時から12時くらいの時間帯に発症するケースが多く見受けられます。
大動脈解離の前兆や痛みの特徴
大動脈解離の症状の特徴を確認しましょう。
前兆はなく突然発症する
急性大動脈解離の多くは高血圧によって大動脈の壁が劣化することで前兆なく突然発生します。
失神など意識不明状態で病院に搬送され、精密検査をしたら急性大動脈解離だったという場合も少なくありません。
大動脈解離という病気は、突然発症し、そして急激な経過をたどって死に至る恐ろしい疾患です。
胸や背中に激痛が生じる
大動脈解離は、胸や背中に症状を訴えるのが50~60%程度とされ、「バットで殴られたような痛み」「表現できないくらいの痛み」など、痛みの程度は激烈なことが多いといわれています。
また、大動脈からはさまざまな臓器を栄養する動脈が枝分かれしているため、大動脈が裂けるとその枝の血流が落ちてしまい、多様な症状を示すこともあります。
急性大動脈解離の主な病態は、解離によって起こる大動脈の拡張、大動脈の破裂、偽腔の圧迫による血流障害です。
痛みを感じる場所が移動する
大動脈解離の痛みの特徴として、血管が裂ける時に激しい痛みが起こって、まさに引き裂かれるような痛みで全身が冷や汗でびっしょりとなります。
裂ける部位に応じて痛みが移動するのが特徴で、例えば大動脈の根元から起きた解離では、痛みはみぞ落ちの辺りから始まり前胸部→肩→背中→腰と移動していきます。
痛みの症状は大動脈壁が裂けるときに起きるので、解離がおさまると痛みがいったん消えますが、たとえ痛みが消えても解離そのものが治ったわけではありません。
呼吸困難やショック状態
大動脈の拡張では、大動脈弁閉鎖不全症、瘤圧迫症状(嗄声、嚥下障害)、瘤形成が出現します。大動脈の破裂では、心臓の入った袋の中に出血し心臓が動けなくなる心タンポナーデ、血胸などに伴って呼吸困難やショック状態を引き起こします。
また、偽腔の圧迫による血流障害では、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞、脳虚血、腎不全、腸管虚血、脊髄虚血、上肢虚血、下肢虚血などが出現 します。
動脈解離のタイプは、大きくStanford A型とStanford B型に分けられ、特にスタンフォードA型と呼ばれるタイプでは、心嚢内への破裂、心筋梗塞、心不全、出血、大動脈弁閉鎖不全症など急死に至る合併症を生じやすく、速やかな外科的治療が必要です。
大動脈解離の発症につながる原因
大動脈解離の発症には次に挙げるようにさまざまな原因が関係しています。
動脈硬化
大動脈解離のほとんどが動脈硬化で高血圧の方に急激に発症する病気です。
動脈硬化とは、日々の食事、運動、喫煙、飲酒などに関する生活習慣が影響して血管の状態が悪くなり血流が十分に健全に全身に送れなくなる病気のことを指しています。
動脈硬化を引き起こす代表的な原因としては、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病が挙げられます。
また、そのような動脈硬化の状態になれば発症リスクが高まると考えられている疾患の種類として、大動脈解離や心筋梗塞、狭心症、脳梗塞などが挙げられます。
高血圧
高血圧症は日本において約4000万人以上が罹患していると指摘されており、高血圧を制御することによって大動脈解離だけでなく、脳血管障害や心臓病の発症を抑制することが大いに期待されています。
軽度の高血圧であれば無症状で経過することも少なくありませんが、さまざまな合併症を未然に防止するためにも早期から意識的に治療介入することが肝要です。
高血圧の状態を放置していると、動脈硬化を悪化させて大動脈解離など死に至る病気を発症させる引き金となります。
糖尿病
糖尿病は現代の疫病ともいわれ、糖尿病予備軍まで含めると全人口の約3割程度が発症していると考えられています。
糖尿病は、体内のインスリンと呼ばれる血糖を一定の範囲におさめる働きを担っているホルモンが十分に働かずに血中に存在するブドウ糖が増加する病気です。
血糖値が高い状態が続くと、血液中に多量に存在するブドウ糖が血管の壁を傷つけて動脈硬化が進行して、大動脈解離が発症しやすくなります。
遺伝の影響
大動脈解離を引き起こしやすい遺伝性疾患の代表例であるマルファン症候群は、遺伝子の異常が原因で組織と組織を繋ぐ結合組織が弱くなり、全身で細胞の弾力性が弱くなる病気のことを指しています。
本疾患では、血管壁を脆弱化させて大動脈解離を引き起こすこともありますし、血管レベルにおいて嚢胞性中膜壊死を合併する、あるいは心臓の弁組織に支障を認めることもあります。
生活習慣の影響
人間の血管は、主に内側から内膜、中膜、外膜の3層構造で構成されており、血管自体が老化すると血管壁が硬くなる影響で血液の通り道が狭くなる、あるいは場合によっては血管が閉塞して血流不全を来します。
これらの血管の老化現象を動脈硬化と呼んでおり、日常生活において塩分の過剰摂取や肥満、過度なストレス、運動不足などの要素によって引き起こされると考えられています。
正常の動脈血管は、心臓から送り出される血液を介して酸素や栄養素を運ぶ重要な役割を持っていて通常であれば弾力性がありますが、不規則な生活習慣などに伴って動脈硬化が進行すると考えられています。
食生活が不規則で運動習慣を持たない生活を送っていると、動脈硬化が進行した血管の内側にコレステロールなどの粥腫が付着して血管が狭くなり、血液の流れが悪くなることで大動脈解離など健康障害を引き起こして命に関わる病気を発症させることも考えられます。
大動脈瘤になりやすい人の傾向
大動脈瘤は腹部に形成される腹部大動脈瘤、胸部に形成される胸部大動脈瘤、胸部から腹部にまたがって形成される胸腹部大動脈瘤などの種類があります。
動脈瘤は血管の老化現象である動脈硬化が原因となる場合が多く、加齢に伴ってだれでもこの病気を発症するリスクを持っています。
特に、動脈硬化を促進する原因である喫煙習慣、高血圧、糖尿病、脂質異常症などを有している方の場合には大動脈瘤を認める可能性が健常者よりも高率に認められます。
まとめ
これまで、大動脈解離はどんな病気なのか、その発症原因となりやすい人の傾向などを中心に解説してきました。
急性大動脈解離は、大動脈の内膜に亀裂が入り、裂けた部分に血液が入り大動脈に平行して血管が剥がれて二層構造になってしまう救急疾患です。
大動脈解離の主な発症原因は、動脈硬化や糖尿病、高血圧、喫煙、脂質異常症、ストレス、不規則な生活習慣、マルファン(Marfan)症候群を始めとする先天的な遺伝性疾患などによって大動脈の壁が劣化して脆弱化することと考えられています。
特に、高血圧は重要な危険因子として捉えられていますので、心配であれば循環器内科など専門医療機関を受診して相談しましょう。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。