子どもの夢遊病(睡眠時遊行症)とは?症状の特徴と対処法

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子どもが夜中にいきなり起き上がって動きまわったり、叫んだりすると、びっくりしてしまいますよね。起こしていいのか、そのまま様子をみていいのか、どのように対処したらいいのか迷ってしまいます。これは子どもに多い夢遊病(睡眠時遊行症)であるかもしれません。ここでは夢遊病について詳しく見ていきましょう。

夢遊病(睡眠時遊行症)とは?

睡眠中に寝床を出て歩き回り、時には走り出すことを夢遊病(睡眠時遊行症)といいます。

夢遊病はよく聞きますよね。夢遊病は7~10人に1人で、多くは3歳〜9歳ごろから始まり、通常は成長とともに少なくなっていき、思春期までには自然に治ることが多いです。幼少期は女児に多く認められますが、大人では男性に多いとされています。

また、同じ睡眠時随伴症である、睡眠時驚愕症(睡眠中に突然叫び声を上げたり泣き出したりすること)を合併することがあります。

夢遊病は、入眠して1〜3時間後のノンレム睡眠と呼ばれる睡眠状態の時によく起こります。深い睡眠状態なので、起こそうとしても覚醒させることはとても困難であり、後で症状が出ている間の出来事を覚えていないのが特徴です。

子どもの夢遊病に見られる症状の特徴

睡眠中に歩き回ったりするなどの比較的複雑な行動を行います。十分に覚醒していない状態で行われており、動きはしっかりしていますが、表情はうつろであり、他者が刺激を与えて目を覚ますことは難しく、強い刺激を与えて覚醒させると混乱したり、暴力を振るう場合もあります。症状が持続するのは数分から数十分で、その後は再び眠りにつきます。

具体的な行動には

・ベッド上で起き上がり、あたりを見回す
・着替えて外に出て行こうとする
・クローゼットや物置をトイレと思い込んで用を足す
・上階の窓から外へ出ようとする
・台所へ行って冷蔵庫の中のものを食べる

などがあります。

症状は毎日起こるとは限らず、週1回、月に数回程度など人によってさまざまです。

夢遊病の原因

発達途中の小児すべてに夢遊病の症状がみられるわけではありません。夢遊病は、成長に伴い症状が軽減されたり消失したりすることから、原因として、睡眠・覚醒に関する脳の神経系の発達や成熟が不完全であることが考えられています。

また、遺伝素因があると言われており、両親が夢遊病経験者である場合は約50%の確率で子どもに症状が表れるとされています。その他、夢遊病を誘発する要因として、睡眠不足やカフェイン、疲労、身体的・精神的ストレス、発熱、過度の運動なども指摘されています。

大人の夢遊病の場合には、他の病気が関係していることもあり、閉塞性睡眠時無呼吸症候群や、てんかん夜間発作、認知症などが挙げられます。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群

睡眠中、のどや気道がふさがり、一時的に呼吸が止まってしまう睡眠時無呼吸症候群は、昼間の眠気や体調不良の原因となりますが、夢遊病を引き起こすケースもあります。

てんかん夜間発作

脳の電気信号の乱れによってけいれんなどの発作が表れる脳の病気であり、夢遊病との鑑別が困難なこともあります。

認知症

成人で夢遊病が発症し、その状態が続くときは認知症の初期症状の可能性も指摘されています。認知症は昼間の認知機能にも何らかの変化が見られるの対し、夢遊病は睡眠時のみの症状であり、鑑別が可能となります。

夢遊病の診断・検査

一般的な外来の診察では、家族からの症状の聞き取りから夢遊病を診断します。

診断の基準は、

・睡眠中にベッドから起き上がり、動き回る状態がしばしばある
・遊行中に声をかけてもほとんど反応せず、表情はうつろで覚醒しない
・遊行は睡眠の前半3分の1に多くみられる
・夢の内容を聞いてもほとんど覚えていない
・覚醒後、本人は遊行のことを覚えていない
・遊行は他の病気や薬物の影響によるものではない

などの点をみます。主にDSM-5やICD-10という診断基準を用いて診断を行なっていきます。

治療は必要?子どもの夢遊病の対処法

夢遊病は、年齢によって治療を受けた方がよい場合とそうではない場合があります。小学生以下であれば特に問題はなく、発育とともに症状もみられなくなっていくので様子をみましょう。

中高生や大人で見られる場合は、ストレスや何らかの病気が関係している可能性があります。病院を受診して原因となるものがないか調べてもらいましょう。夢遊病はストレスが関係していることが多いため、精神科や心療内科を受診することをおすすめします。

子どもの場合は、様子をみることで徐々に症状がみられなくなりますが、その間の対処法として、まずは原因となりそうな要因をなくすことが必要です。

また、本人が怪我をするリスクを軽減することも大切です。ベッドや布団から離れた際にアラームがなるようにして目覚めさせる、ベッドを低いものにする、床に寝るようにする、ベッドの周囲に危険なものを置かない、1階で寝るようにする、などの対策を行いましょう。

精神的なストレスが強いと考えられるときは、カウンセリングや家族療法が有効なことがあります。これらの対策でも不十分な場合や大人の場合には、薬物治療をすることがあります。

夢遊病を治す薬はありませんが、症状が重症の場合にはクロナゼパムという抗不安薬などを補助的に使うことがあります。この薬は抗不安薬・抗てんかん薬として使われるもので、脳の興奮をしずめ、リラックスした状態にします。

睡眠前に内服することで、深いノンレム睡眠を減らし、浅いレム睡眠を増やす特徴があり、ノンレム睡眠からの覚醒障害の治療に応用されています。症状が落ち着いてきたら減量していき、最後は中止して様子をみるのが基本となります。それと並行して環境調整や心理的なケアも行なっていきます。

いかがでしたでしょうか。子どもに夢遊病が出たとき、何かの病気ではないかと不安になりますよね。大人でも夢遊病が出現することがありますが、大人の場合は原因が何かしら隠れている場合があります。一人暮らしだと気づきにくいですが、朝起きた時に寝る前の部屋と違っているような場合などは、一度、医療機関に相談しましょう。


<執筆・監修>

九州大学病院
脳神経外科 白水寛理 医師

九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。
日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

白水寛理

九州大学病院 脳神経外科 医師   九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。 日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

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