肉離れとはどんな状態?原因とよく似た疾患との違いを解説

肉離れの原因 アイキャッチ
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骨折であれば骨が折れている、アキレス腱断裂であれば腱が断裂している、など病名を聞けばどのような状態なのかある程度想起できます。しかし、「肉離れ」となると、病名を聞いただけではそれがどのような状態なのかを想像するのは難しいでしょう。ここでは肉離れについて解説します。

肉離れとは

痛む太ももを押さえる女性

実は、肉離れという名前の病名は正式名称ではありません。肉離れというのは、筋肉線維が部分的に断裂したものを言います。ですので、病名としては○○筋部分断裂といった病名がつけられることになります。

肉離れが起こりやすい筋肉は、おもに大腿四頭筋やハムストリングスです。

それぞれの筋肉について簡単に解説しましょう。大腿四頭筋というのは、太ももの前がわにある筋肉です。主に大腿骨と、膝下の脛骨というすねの部分とを繋ぐ筋肉です。筋肉が収縮することで膝関節が伸展され、ボールを蹴るような動きが可能になります。

ハムストリングスは一つの筋肉ではありません。大腿二頭筋、半膜様筋、薄筋、半腱様筋、縫工筋といった筋肉の総称です。これらの筋肉は太ももの後ろ側にあり、多くが大腿骨と脛骨の後ろ側を繋いでいます。これらの筋肉が協働して作用することで、膝関節を曲げる運動が可能になります。

大腿四頭筋もハムストリングスも、いずれも膝関節の動きを支え、身体の重心を保つ筋肉で、最も負担がかかりやすい場所です。ですので筋肉に負担がかかりやすく、筋断裂を起こしやすいのです。

一般に、若い人の断裂は筋肉が隆々としている大腿四頭筋に起こりやすくなります。一方で、中高年は運動不足から筋肉が固くなり、萎縮してしまっているハムストリングスの方で断裂が起こりやすいという特徴があります。

筋線維の断裂についても、簡単に触れておきましょう。筋肉は筋細胞が集合して構成されています。筋細胞は縦にいくつも連なって一本の筋肉線維となり、筋肉線維がいくつも束になったものが筋肉となります。

ですので、強い力がかかって筋肉が引っ張られてしまうと、筋繊維が断裂してしまいます。日常生活をしていても、少しの負荷で一本や二本の線維が断裂することはよく起こっていますが、強い力が筋肉にかかると、一度に複数の筋繊維が断裂してしまいます。

一本や二本断裂しただけでは特に症状は起こりません。また、他の筋繊維に守られていますので、修復も簡単に行われます。しかし複数の断裂によって安定性が損なわれると、断裂した部分が引っ張られ、損傷した瞬間に強い痛みを感じます。そして、筋組織同士が引っ張られて離れてしまうので、簡単には筋肉の修復が行われなくなってしまうのです。この状態が肉離れとなり、痛みや運動障害の原因となります。

肉離れの原因

バスケットボールをする女性

肉離れが起こる原因は、無理な運動か、もしくは普段運動しない状態で急に運動をすることによって起こってきます。

スポーツなどで無理な力がかかる場合には、より筋力が強い筋肉の方が損傷を受けやすくなります。そのため、このような原因でおこってくる肉離れは若い人に多く、前述のように太ももの前側である大腿四頭筋で起こってきます。

無理な力というのは、特に筋肉の収縮とともに、逆に強く引き延ばされる方向の力が加わったときに起こるといわれています。具体的には急に走り出したり、急に立ち止まったり、ジャンプしてから着地したり、といった運動が原因となります。

一方で、普段運動しない状態であれば筋肉の線維が固くなってしまっています。このようなときに急に収縮させると、筋肉がその負荷に耐えられずに断裂を起こします。このような損傷は中高年の萎縮して固まりやすくなったハムストリングスに起こりやすくなってきます。

注意しなければならないのが子どもの肉離れです。特に成長期の場合、筋肉が発達している一方で、骨がまだ脆弱な場合があります。そのため、筋断裂によって痛みが生じると痛みのために身体を曲げた状態で我慢するようになり、その力によって断裂部に負荷がかかってしまうことがあるのです。その結果、筋断裂のあとに剥離骨折を起こしてしまうこともあります。

肉離れとよく似た疾患との違い

ふくらはぎをおさえる女性

肉離れと同じように、足に痛みを感じる疾患にはどのようなものがあるのでしょうか。

筋膜炎

筋膜炎とは、筋肉を包んでいる膜である筋膜に炎症が起こる疾患です。前述の通り、筋肉は筋繊維がたくさん集まったものでした。その筋繊維の集まり全体を筋膜という膜が包むことで一つの筋肉としての構造を保っています。

筋膜は、もともとひじょうに柔軟性に富んだ膜です。筋肉が動くときに伸縮することで、筋肉の動きを邪魔しないようにしています。

しかし、筋肉を使いすぎると筋膜の水分が失われ、柔軟性が失われてしまいます。このような状態を筋膜炎と言い、筋肉全体が縮んで伸びなくなり、筋肉が固まってしまうのです。

よく起こるのが腰です。一般的に、慢性腰痛の多くは腰の筋肉の筋膜炎によって起こっています。足の筋肉は比較的動かすことが多いので筋膜炎にはなりにくいですが、怪我をした後にあまり動かさない状態などで筋膜炎を発症してくることがあります。

筋膜炎になった場合には、特に筋膜が固くなってしまって膠着している場所に局所麻酔薬や生理食塩水を注射することで動きやすくすることで改善することがあります。これをトリガーポイント注射といい、腰痛診療で良く行われる治療になります。

もちろん、自分自身で動かすことで筋膜の柔軟性を取り戻すこともできますが、無理をするとかえって炎症がひどくなってしまう場合もありますので、痛みが強いときには無理をせず、安静にしましょう。安静にして痛みが治まってきた頃にストレッチをゆっくりと地道に行うことがポイントとなります。

足がつる(こむら返り)

「つる」といわれる現象は、筋肉の痙攣を指します。ほとんどの人が経験したことがあるであろう症状で、強い痛みを感じます。特にふくらはぎに起こりやすいので、ふくらはぎの別名である「こむら」をとって、「こむら返り」とも呼ばれます。

こむら返りがおこると、筋肉が過剰に収縮してしまいます。そのため、収縮している筋肉全体に痛みを感じてしまうのです。筋肉の損傷部位だけが痛む肉離れとは症状のでる範囲で大きく異なります。

こむら返りはさまざまな原因でおこりますが、主に脱水やミネラル分の異常、筋肉が疲労しているなどの条件のもとで何らかの刺激が加わることで突然筋肉が痙攣し、発症します。

こむら返りの治療は筋肉を伸展させることです。筋肉というのは必ず1つ以上の関節を隔てて骨と骨に付着していますから、その隔てている関節を伸ばすようにします。

こむら返りが起こるふくらはぎには、下腿二頭筋という筋肉があります。下腿二頭筋は、膝関節の上の骨から始まり、かかとの骨に付着します。そのため、筋肉が通過する関節としては膝関節と足関節になります。これら二つの関節をしっかり伸ばすように固定することで、ゆっくりと痛みが改善してきます。

痛みが改善したら、再発しないように脱水の改善やミネラル分の補充を行い、安静を心がけましょう。

また、芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)という漢方薬は、こむら返りに効果があります。こむら返りが起こった後に症状を和らげる効果や、こむら返りが起こらないように予防する効果を期待できます。

筋挫傷

肉離れは、自分自身の筋力が強く働き過ぎることによって筋肉が断裂することをいいました。一方で、スポーツで接触したり、事故に巻き込まれたり等で外部から打撲することで筋繊維が断裂してしまうことを筋挫傷と言います。

筋挫傷も軽症であれば肉離れと同じように一部の筋繊維が断裂しているだけという状態にとどまります。しかし、打撲の強さによっては骨折を起こしたり、皮下に血腫を形成したりと、重症度が高くなる傾向があります。

骨折を起こしている場合はその治療が必要になる場合が多いですし、その他の損傷に対しても特異的な治療が必要になる場合があります。基本的には筋繊維の断裂については肉離れと同じように安静、冷却などで改善してくるのを待つことになります。

肉離れの対処法

RICE処置

肉離れが起こってしまった際にはどのように対処すれば良いのでしょうか。

基本的に、肉離れが起こった場所は炎症が起こります。炎症というのは、感染症が起こっている場所でも起こる反応ですが、組織が損傷を受けたときに修復するために起こる反応でもあります。

炎症が起こると、その場所は腫脹し、痛みを伴います。体表上からは赤く見えることもあります。

肉離れを起こした際は、炎症をなるべく抑えることで痛みを改善し、また治療効果を最大限に発揮することができます。外傷による炎症を抑えるための方法として、RICE処置が提唱されています。これは、Rest(患部の安静)、Icing(アイシング・冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の頭文字を取ったものです。

具体的にそれぞれの方法について解説しましょう。

Rest:患部の安静

患部に力がかかり続けると、炎症が悪化するだけではなく、さらに損傷が起こってしまう可能性があります。なるべく肉離れを起こした足をついて歩かないようにします。松葉杖を使うこともあります。

Icing:アイシング

炎症が起こると患部が熱を持ちます。熱を持つことによって炎症がより起こりやすくなり、修復が進行するのですが、強い熱が起こってしまうと熱自体によって細胞が損傷してしまい、さらに損傷が進行してしまうことがあります。また、炎症が強いと痛みも起こってきます。

痛い部分を冷却するのが初期治療として推奨されています。とはいえ冷やし続けすぎると組織の修復が阻害されてしまいますから、一度に冷却する時間は15~20分程度が適度と言われています。痛みが強い場合は再度行ってもかまいません。だいたい1~3日程度、冷却を繰り返すことが多くなります。

Compression:圧迫

内出血や腫脹を抑える効果があります。内出血がひどい場合に推奨されます。内出血がひどいと、ますます出血が起こってしまい、周辺組織を圧迫して二次損傷を引き起こしてしまう場合があるからです。

かといって、圧迫しすぎると血流不全などによって修復が阻害されてしまいますから、軽度の圧迫を心がけることが重要です。

Elevation:足を高く持ち上げる(下肢挙上)

静脈血のうっ滞を避けるために行います。心臓より高い部分に患部を持ち上げておくことで、静脈血が足先から心臓に戻ることを助け、うっ血による患部の腫脹を抑えることができます。

このように4つの方法を併用することで痛みを抑え、修復を促すようにします。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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