TNM分類とは?大腸がんのステージごとの生存率と治療法の違い

お悩み

大腸は、肛門部のすぐ手前に位置する直腸と、それ以外の結腸に分類されており、直腸にできた悪性腫瘍を直腸がん、結腸にできた悪性腫瘍を結腸がんと呼んでいます。

これらの大腸がんに関する進行度を表現するステージは0からIVまでの5段階で通常表記されています。

ここでは大腸がんのステージについて詳しく解説します。

大腸がんのTNM分類とは

大腸がんのステージはがんの壁深達度を意味するT因子、リンパ節転移の有無を意味するN因子、また遠隔転移の有無を表現するM因子の3要素を組み合わせて判断されます。

因子

大腸は管腔臓器であり、大腸壁は主に内腔側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜と呼ばれる5層構造になっています。

一般的に大腸がんは大腸の内側部である粘膜から発生して、病状が進行すると徐々に悪性腫瘍が深部へと増殖して進展していくことが知られています。

その腫瘍が存在する最深部の深さによってT因子が決定されます。

具体的なT因子としては、TXは壁深達度の評価ができない状態、T0はがんを認めない状態、Tisはがんが粘膜内にとどまっており、粘膜下層に到達していない状態を指しています。

T1はがんが粘膜下層までにとどまり、固有筋層に及んでいない状態です。

このT1を更に細分化して分類すると、がんが粘膜下層までにとどまって、その浸潤距離が1000μm未満である場合がT1a、そして、がんが粘膜下層までにとどまり、その浸潤距離が1000μm以上の場合がT1bとなります。

さらに病巣が進展して、がん病変が固有筋層まで浸潤して、この領域を越えずにとどまっている状態をT2と呼んでいます。

また、がんが固有筋層を越えて浸潤しているが漿膜が存在する部位ではがんが漿膜下層までにとどまっている、あるいは漿膜がない領域では外膜までにとどまっている状態をT3と呼んでいます。

さらに病状が進行すると、T4aではがんが漿膜表面に接している、あるいは漿膜部位を破って腹腔側に露出している、そしてT4bではがん病巣が直接的に他の臓器に浸潤している状態を意味しています。

悪性腫瘍の大腸壁深達度が粘膜下層でとどまっているT1までのステージを「早期がん」、固有筋層より深部にがんが到達しているT2、T3、T4の状態を「進行がん」と定義しています。

N因子

次に、リンパ節転移の有無を表現するN因子について紹介します。

大腸領域にはそれぞれの領域を支配している栄養血管が流布しており、個々の血管に沿うようにして所属リンパ節が存在していることが知られています。

大腸がんの場合には、がんが存在する腸管近傍のリンパ節に転移を認めやすく、一般的にN因子はリンパ節転移の有無と転移数で分類されています。

具体的なN因子は、以下の通りです。

NXは、リンパ節転移の程度が不明であり評価困難です。

N0は、リンパ節転移を認めない状態を指しています。

N1では、腸管傍リンパ節と中間リンパ節の転移総数が3個以下の状態を意味しており、特に転移個数が1個の場合をN1a、転移個数が2~3個の場合をN1bと呼んでいます。

N2になると、腸管傍リンパ節と中間リンパ節の転移総数が4個以上であり、その中でも転移個数が4~6個のケースをN2a、また転移個数が7個以上のケースをN2bと呼んでいます。

そして、N3とは主リンパ節に転移を認め、特に下部直腸がんの場合には主リンパ節または側方リンパ節、あるいはその両方に転移を認める状態を指します。

M因子

通常、がん組織には原発巣で腫瘍が進展して大きくなるという特徴がありますが、がん病巣周囲のリンパ管や血流に乗じて他臓器へ転移する性質も合わせ持っています。

特に大腸がんの場合には、腫瘍そのものが腸管壁を越えて深達して、直接的に肝臓など他の臓器へ浸潤する、あるいはがん細胞が腹腔内へ散らばって広がることで腹膜播種という状態を呈することが知られています。

M因子においては、遠隔転移を認めない状態をM0、遠隔転移を認める状態をM1と単純に区別して表現しています。

大腸がんの各ステージの特徴と生存率

悪性腫瘍の広がりの程度を示す進行度は、ステージと呼ばれる病期分類によって表現されています。

大腸がんのステージは、前章で解説してきたTNM分類によって規定されており、進行度がもっとも低いステージ0から進行度がもっとも高いステージIVまで5つの段階に分類されています。各ステージの特徴について見てみましょう。

ステージ0

ステージ0とはがん組織が粘膜内にとどまっており、リンパ節転移も遠隔転移も認めない状態です。

がんと診断された患者さんのなかで、ある時点まで生存されている割合のことを生存率と呼んでいます。

大腸がんにおけるステージごとの5年相対生存率に関しては、ステージ0のような初期の段階では、97%以上の確率であるといわれています。

ステージI

ステージIとは、がん病変が粘膜下層、または固有筋層に達しているが固有筋層を越えずにとどまっている状態を指しています。

ステージIのような初期の状態と考えられる場合には、ステージ0と同様に5年生存率はおよそ94%の確率と高い水準を示しています。

ステージII

ステージIIは、がん病変が粘膜下層、または固有筋層に到達しており、かつ大腸壁の固有筋層より深部まで浸潤して、固有筋層や漿膜下層を越えている状態を指しています。

ステージIIの段階では、5年生存率はステージ0やステージIと比較してやや低下して、おおむね89%程度の確率となります。

ステージIII

大腸の近傍に存在しているリンパ節を所属リンパ節と呼びます。ステージIIIは、がんの深達度に関わらず、所属リンパ節への転移が認められ、かつ遠隔転移を認めない場合とされています。

ステージIIIでは、5年生存率は約77%の確率であるといわれています。

ステージIV

ステージIVは、がん病巣の深達度や所属リンパ節転移の有無に関係なく、遠隔転移や所属リンパ節から遠く離れたリンパ節に転移所見を認める場合を指しています。

遠隔転移とは、肝転移や肺転移のことを意味しており、それ以外にも腹腔内部にがん細胞が広がる状態である腹膜播種を呈する際にもステージIVと判断されます。

最もがんが進展しているステージIVの段階では、5年生存率は低値となっており、約18%の確率であると考えられています。

ステージによって異なる大腸がんの治療

大腸がんの治療法はステージに基づいて決まります。

大腸がんの治療には内視鏡治療、手術治療などがあり、ステージにより内視鏡手術または手術治療が選択されます。

ステージIまでの内視鏡治療

ステージ0~Iの治療方針としては、リンパ節転移の可能性がほとんどなく、がんが大腸壁の粘膜内にとどまっている粘膜内がんや、粘膜下層に浸潤しているステージIのがんのうち、浸潤の程度が軽いケースでは、内視鏡治療が考慮されます。がんの深さでいうと粘膜下層への広がりが軽度(1mm)までにとどまっているがんです。

内視鏡治療は、内視鏡を使って大腸の内側からがんを切除する方法です。開腹手術と比べて体に対する負担が少なく、かつ、安全に行える治療ですが、出血や穿孔せんこう(穴が開く)が起こる場合もあります。

治療のために入院が必要かどうかは、施設によって異なります。

一方で、ステージIでも粘膜下層に深く浸潤している場合や、深達度が浅くても大きさや存在する部位などにより内視鏡治療が困難な場合には、手術治療が選択されます。

ステージIIIまでの手術

大腸がんのステージII以上であれば、基本的には外科的な手術治療になります。

ステージ0~Iで内視鏡治療が困難ながんや、ステージII、IIIのがんには手術治療が行われます。

リンパ節転移の可能性がある場合は、腸の切除だけでなくリンパ節郭清も行いますし、再発の可能性が高いがんなどには、手術を実施した後に補助化学療法が行われます。

手術では、がんの部分だけでなく、がんが広がっている可能性のある部分や、その周囲にあるリンパ節も取り除きますし、がんが周囲の臓器にまで及んでいる場合は、可能であればその臓器も一緒に取り除きます。

がんがある大腸の一部分を切り取った後は、残った腸同士をつなぎ合わせます。つなぎ合わせることができない場合には、人工肛門を腹部に造設することになります。

ステージIVの治療

がんが肝臓や肺への転移や腹膜への播種を認めた場合は、ステージIVに分類されます。

大腸に存在するがん(原発巣)と転移しているがん(転移巣)の両方を安全に切除できる場合は、両方を切除します。

肝臓や肺などの臓器への転移巣を切除する場合、通常の生活を送るうえで必要な大きさを残して、その臓器を切除しますが、転移したがんの数が多い場合、がんの進行は高度と考えられ、完全に切除することは困難であることが多いので、薬物療法を行うことがあります。

腹膜播種に対しては、他の臓器に転移がなく、腹膜の限られた範囲にがんがある場合には切除も可能な場合があります。

一般的にステージIVに分類されるがんの多くは化学療法を行います。

原発巣が原因で貧血や腸壁に孔が開いている、腸閉塞などを起こすおそれがある場合は、原発巣を切除し、転移巣には薬物療法や放射線療法を行います。

原発巣と転移巣の両方とも切除しきれない場合は、手術は行わず、薬物療法や放射線療法を行います。

最近では薬物療法の開発が進んできており、がんが切除可能と考えられるほど縮小した場合は、薬物療法の後に手術を行うこともあります。

薬物療法や放射線療法の効果が十分でない場合や、患者さんの体が手術や薬物療法、放射線療法に耐えられないほど弱っている場合には、症状を緩和する治療が優先されます。

まとめ

これまで大腸がんにおけるTNM分類とはどういったものか、そして大腸がんのステージ(病期)と生存率などを中心に解説してきました。

大腸がんの正確な診断や適切な治療方針を決定するうえで、がん病巣がどの程度進行しているかを精密検査で正しく把握することが重要です。

その際に、がんの進行度を評価するためのキーポイントとなるのは、次の三要素で規定されるTNM分類です。

  • T因子:がん病変が大腸壁にどれだけ深く到達しているか。
  • N因子:がん周囲におけるリンパ節に転移しているか。
  • M因子:大腸以外の他臓器へ転移しているか。

これら3つの状態によって、ステージ0からステージIVまでの5段階に分類され、がんの進行度を示すステージが判断されることになります。

ステージ0に近づけば近づくほど、がんがそれほど進行していない初期の大腸がんだと考えられて生存率も比較的高くなる一方で、ステージIVに進行すればがん病巣がより進展しており、生存率が低下する傾向になります。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

プロフィール

関連記事