普通の肥満とは異なる二次性肥満とは?中心性肥満とクッシング症候群

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肥満と一口に言っても脂肪の付き方にいくつかの特徴があります。特に特定の病気に起こる中心性肥満という状態があり、注意が必要です。中心性肥満とはどのような肥満で、どのようなときに起こるのか解説します。

なぜ肥満になるのか

肥満というのは体内の脂肪組織が過剰に蓄積した状態を言います。

元々人は、野生動物から進化した動物です。そのため、常に食事をできない事は当たり前で、なんとかしてエネルギーを体内にため込もうとする機序がさまざまに用意されています。

このとき、体内のエネルギー源として最も使われる糖は蓄えることができません。そのため、他の形に変換して体の中にエネルギーをため込もうとします。それが脂肪です。人は脂肪分をなるべく体にため込み、糖分が血中に不足した場合は脂肪を分解してエネルギーを保とうとするのです。

しかしこの貯蔵する能力は現在社会ではほぼ不要となりました。食事をしようとすればすぐにできる環境にあり、どんどんと栄養を摂取してしまうと体は意に反して脂肪を貯蔵していってしまいます。

さらに問題となるのは、貯蔵しているだけではなくそれによって他の病気の原因になってしまうことです。

肥満と生活習慣病

肥満はそれ自体が問題になることは無いと言っていいでしょう。しかし、肥満になると糖尿病や脂質異常症、高血圧といった生活習慣病の要因となります。特にこの後に説明する内臓脂肪型の肥満となってしまうと、これらの生活習慣病のリスクが上がると言われています。

特に内臓脂肪を中心とした脂肪が多くて健康被害をきたす率が高い肥満のことを肥満症と呼び、病気として治療が進められています。

一般的な肥満のタイプ

一般的な肥満のタイプにはどのようなものがあるのでしょうか。

内臓脂肪型肥満(リンゴ型肥満)

こちらは治療を必要とする肥満のタイプです。

人の腹部は、背骨から側腹部を通って前方へと筋肉によって壁ができています。これを腹壁と言います。腹壁の前側は腹筋があり、これらの筋肉の内側には腹膜という膜があって内臓を包んでいます。

腹膜の中には内臓が存在するのですが、内臓だけではなく内臓の間のクッションとして脂肪が存在します。この脂肪はクッションの役割を果たすだけではなく、内臓がスムーズに動く事ができるように助ける役割も持っています。さらに腸炎などが起こったときには、この内臓脂肪があるおかげで、となりの内臓にそのまま炎症が広がることがないようにする緩衝材の役割をしています。

さらに内臓脂肪はさまざまなホルモンを分泌します。このホルモンは動脈硬化を抑えたり、血糖値を抑えるインスリンの効きをよくしたり、食欲を調節したりする善玉ホルモン(アディポネクチンやレプチンなど)を分泌する一方、血糖を上げたり血圧を上げたり、血栓を作りやすくしたりする悪玉ホルモン(TNF-α、アンギオテンシノーゲン、レジスチンなど)も分泌しています。

内臓脂肪型の肥満は、このような内臓脂肪が増加するタイプの肥満です。腹壁全体がみちっと充実性を持って全体に膨らむため、リンゴのような形だということからリンゴ型肥満とも呼ばれています。

内臓脂肪型肥満は腹囲の測定で判断されます。臍の高さで男性85cm、女性90cm以上であれば内臓脂肪型と診断されます。また、CTを撮影すると内臓の周りに多くの脂肪がある事が分かります。

内臓脂肪型肥満の問題点は単に脂肪が多くなると言う事だけではありません。実は、先ほど説明した内臓脂肪から分泌されるホルモンですが、内臓脂肪が増加すると善玉ホルモンよりも悪玉ホルモンの分泌が増えてしまうと言う特徴があるのです。その結果、血糖が上がったり、血圧が上がったり、血栓が作りやすくなったりといった問題が生じやすくなります。

皮下脂肪型肥満(洋なし型肥満)

皮下脂肪型肥満は、腹壁を構成する筋肉よりも浅い層に脂肪が増加する状態を言います。皮膚の下についた脂肪がだるんと垂れ下がりますから、上の方は細く下の方が太い形になり、洋梨に形が似ていることから洋なし型肥満とも呼ばれています。

この肥満の場合は、内臓脂肪とは違って内分泌系の問題は起こしにくいと言えます。

しかし、肥満の状態が続いてしまうと重い内臓を支えようとして体の各所に痛みを来したり、女性の場合は月経異常や不妊につながる、あるいは乳癌の発症率を上げるといった問題があります。

皮下脂肪型だから大丈夫、ではなくて、皮下脂肪型でもやはり気をつけるにこしたことはないのです。

二次性肥満と中心性肥満

体が多くのエネルギー減を蓄えようとして脂肪が沈着する事を一次性肥満と言います。

一方で、二次性肥満というのは何らかの病気が先行して起こっており、その病気によって肥満を発症している場合を言います。

二次性肥満の場合、ホルモンの働きで肥満以外の体の異常が起こっていることがよく起こります。特に特徴的なのが中心性肥満と呼ばれる肥満です。 

中心性肥満の特徴

中心性肥満とは、肥満の部分だけを見ると内臓脂肪が多いタイプの肥満になります。

コルチゾールが血液中で増加すると、特に体の中心部である内臓に、ストレスに対抗するためにエネルギーをたくさん蓄えようと多くの脂肪が沈着してくるのです。さらにそれだけではなく、顔の皮下などにも多くの脂肪が沈着します。

こうして体の中心部に肥満が起こってくる一方で、手足は筋肉がどんどんと糖の原料に変えられてしまい痩せ細っていきます。

つまり、顔面は丸くなり、腹部も内臓脂肪型の肥満を示す一方で、手足は痩せ細るという異常なバランスの体型となってしまいます。このような状態を中心性肥満と言います。また、丸い顔貌も特徴的であり、満月様顔貌(ムーンフェイス)と呼びます。

二次性肥満の原因

二次性肥満の原因はいくつも考えられます。代表的なものを見てみましょう。

クッシング症候群

クッシング症候群という病気があります。この病気は、副腎という臓器から分泌されるホルモンの過剰症です。

副腎は左右の腎臓の上にそれぞれある、ホルモンを分泌するための臓器です。副腎からはさまざまなホルモンが分泌されていますが、その中の一つがコルチゾールというホルモンです。

コルチゾールは別名ストレスホルモンとも呼ばれており、ストレスがかかったときに多く分泌され、ストレスに対抗するための反応を示します。

例えば、ストレスがかかったときには体の中のさまざまな機能を強く動かし、対抗しなくてはなりません。例えば脈が速くなったり、呼吸を速くしたりしてさまざまな動作が機敏にできるようにします。

そのためには、血液中のエネルギー減である糖が多くなければなりませんから、肝臓での糖を作る作用が強く更新したり、筋肉などにあるタンパク質を分解して糖にする原材料とします。

また、腎臓からの水分排泄を多くし、水分の出入りを活発化させます。脳にも影響し、興奮性を高める作用があります。

このような作用をするコルチゾールが体内で増加してしまう状態のことをクッシング症候群と言います。

クッシング症候群の中でも、とくに頭の下垂体という場所に存在するコルチゾールを分泌する指令を出すホルモン(ACTHと言います)を産生する細胞が腫瘍性に増加してしまうことでコルチゾールが異常に多く分泌されてしまうことをクッシング病と言います。

その他のクッシング症候群の原因としては、ACTHを産生する細胞が異所性に発生してしまう異所性ACTH産生腫瘍、ACTHを分泌するように指令を出すホルモンの分泌が過剰となってしまうCRH産生腫瘍、コルチゾールを分泌する細胞自体が腫瘍性に増加してしまう副腎皮質腺腫や癌が挙げられます。

さらに問題となるのが、医原性のクッシング症候群です。膠原病や種々の病気でステロイドホルモンの補充をすることで治療を行う場合がありますが、長期間にわたり補充をするとそのステロイドホルモンの影響でクッシング症候群が起こってしまうのです。

甲状腺機能低下症

甲状腺機能低下症は、甲状腺というホルモンを分泌する臓器がホルモンの分泌不十分となることによって起こってくる病気です。甲状腺というのは、喉仏の下あたりにある臓器です。ここから分泌されるホルモンのことを、甲状腺ホルモンと言います。

甲状腺ホルモンは、体の様々な場所に作用して、様々な効果を発揮します。甲状腺ホルモンの働きを端的に言うと、体を元気にする働きと言えます。すなわち、心拍数を増加させて、血圧を上昇させ、呼吸数を上げ、様々な代謝が亢進します。代謝が更新すると、それに伴ってエネルギーも必要になりますから、体の色々な場所に貯蔵している脂肪や筋肉を分解することによって、エネルギーを産生します。

しかし、甲状腺ホルモンの分泌が不十分になると、これらの働きが低下してきます。体のエンジンがうまく動かないような状態になってしまいますので、それに伴ってエネルギーの使用量も低下してしまいます。消化能力も低下するため、痩せてしまう場合もあるのですが、多くの場合には脂肪や筋肉の分解が滞ってしまうことによって、だんだんと脂肪が増えてしまい、肥満へとなってしまいます。

甲状腺機能が低下する病気は様々にありますが、特に有名なのが橋本病です。これは、何らかの原因で甲状腺の中で炎症が起こることによって、ホルモンの分泌が低下する病気です。治療では、甲状腺ホルモンを内服で補充します。

インスリノーマ

インスリノーマというのは、インスリンというホルモンの分泌が過剰に作られてしまうことによって起こってくる病気のことです。インスリンは膵臓で分泌されるホルモンで、血液中の糖分を細胞の中に取り込む働きがあります。正常な分量のインスリンが分泌されている状態であれば、血液中の糖分が増加すると、それに伴ってインスリンの分泌量が増加し、血糖値を正常に保ってくれます。この調整は膵臓によって行われ、血液中の糖分の量を検知して、インスリンの分泌量を調節しているのです。

しかし、インスリノーマでは、インスリンを分泌する細胞が腫瘍性に増殖します。腫瘍性に増殖した細胞は、血液中の糖分の値に関わらずインスリンを分泌してしまいます。過剰に分泌されることによって、短期的に見ると、血液中の糖分がどんどんと細胞の中に取り込まれ、血液中の糖分の値が異常に低くなってしまいます。それによって倦怠感が強くなったり、ひどい時には意識を失ったりします。

一方で、長期的に考えてみると、細胞の中に糖が取り込まれるわけですから、細胞は糖分を貯蔵するために脂肪を蓄え、だんだんと肥満になっていってしまうのです。

薬剤性肥満

様々な薬を内服することによっても、肥満は起こってきます。

クッシング症候群は血液中にステロイドホルモンが過剰に分泌されることによって起こってくるものでした。ですので、同じようにステロイドを内服によって摂取した場合にも、血液中のステロイドホルモンの量が過剰になり、中心性肥満をきたしてきます。

他には糖尿病の薬や精神科の薬、他のホルモンの薬、一部の血圧や循環器に関わるような薬で肥満は起こってきます。もし原因が分からない急激な肥満がある場合には、このような薬を使用していないか疑って調べる必要があります。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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