家族にうつる?再感染する?梅毒の感染経路と予防のポイント

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梅毒の感染者数の急増が報じられています。十年ほど前まで横ばいだった感染者数も、そこから右肩上がりの増加を見せ、毎年過去最高を更新し続けている状態です。ここでは梅毒を取り上げ、感染経路や予防のポイントについて解説します。

梅毒の原因になる梅毒トレポネーマとは

梅毒の原因となるのは梅毒トレポネーマという細菌です。梅毒トレポネーマはスピロヘータと呼ばれる細菌の一種です。スピロはらせんという単語に由来して、スピロヘータはまさにらせんの構造をした細菌となっています。

スピロヘータ目はスピロヘータ科とレプトスピラ科に大別され、さらにトレポネーマ属とボレリア属に分類されます。

この内、トレポネーマ属は梅毒を引き起こします。ほかにボレリア属は回帰熱やライム病、レプトスピラ科はワイル病といった病気を引き起こします。

さて、トレポネーマ属はらせん状の細菌ですが、顕微鏡で観察すると菌体をねじるようにして活発に運動します。しかし、活発に運動するのは良い環境にあるときのみで、高温や低温、乾燥、消毒薬、抗菌薬には非常に弱く、すぐに死んでしまいます。トレポネーマ属にはいくつかの種類が属していますが、人体にとって何らかの病原性を持つのは梅毒トレポネーマのみです。

梅毒は元々西インド諸島にのみ存在する病気でしたが、大航海時代に世界中に広がりました。その後ペニシリン系の抗生物質が普及したことによって一時的に激減しましたが、近年ではHIVとの混合感染など、複雑な性感染症の一種として広がりを見せています。特にここ数年は患者数が激増しており、注意が必要です。

梅毒の感染経路

梅毒の感染経路は性交渉によるもののほかに、母子感染があります。

性交渉

梅毒トレポネーマは一度感染すると、精液や膣分泌液、血液、傷口からの浸出液などの体液に含まれるようになります。そのため、ほとんどの梅毒の感染は性感染症によって広がっていきます。他人の粘膜や皮膚と直接接触することによって広がって行くのです。

母子感染

母子感染にも注意をしなければなりません。梅毒に感染した母親から胎児に感染が起こります。妊娠早期には梅毒トレポネーマは胎盤を通過しにくく、胎児に感染する事はありません。一方で、妊娠5か月を過ぎると胎盤を通過するようになり、胎児の感染を引き起こします。

胎児梅毒は、妊娠後期に胎内で感染した状態を指します。胎児はこの時点で様々な器官が形成された後になりますから、先天奇形が起こる事はありません。しかし、多くの場合は死産となってしまいます。

死産にならず産まれてきた場合、生後数周から数か月の間に梅毒の症状を示します。顔面の変形を来してきたり、仮性麻痺などが起こってきたりします。

場合によっては梅毒トレポネーマが体内にいるのに発症せずに経過する場合もあります。この場合、学童期になって初めて症状が出てきます。歯の変形、角膜炎、難聴などの症状が後天的に起こってきます。

日本では妊婦健診が発達していますから、ほとんどの場合は妊娠中に適切な対応が取られ、母子感染による梅毒はほとんど起こっていません。しかし梅毒の感染が急激に増加している現在、母子感染による梅毒症状が今後増加する可能性も示唆されています。

梅毒についてのよくある疑問

梅毒についてのよくある疑問や誤解について見てみましょう。

コンドームで感染を100%防げる?

コンドームは有効な感染予防策です。最も感染率の高い粘膜同士の接触を防ぐことができ、感染リスクを減少させます。しかしコンドームが覆わない部分の皮膚と皮膚の接触によって感染する可能性は否定できません。そのため、他人との皮膚の接触があった後に何らかの皮膚症状を来した場合には医療機関の受診がすすめられます。

家族にうつることはある? 

一般的な日常生活を通して、梅毒が感染することはまずありません。握手や入浴など、普通の接触では感染は起こらないと考えてよいでしょう。

ただ、極めて稀なケースとして感染者が使用した食器やタオルを共有することによる口や手への感染が報告されています。このような道具の使い回しは避けた方が無難でしょう。

再感染することはある?

一度感染した人の体内では抗体と呼ばれる感染症に抵抗するタンパク質が生成されるようになります。梅毒の過去の感染を検知する検査はこの抗体を検出することによって行われます。

この抗体が体内にある状態で感染症の原因が体内に入ってくると、免疫システムが早期に反応し、効果的に感染症を排除することができます。多くの感染症は、この反応によって2度目の感染は起こらないようになっているのです。

しかし梅毒は、このような抗体があっても感染症の原因が体内に入ってきたときに感染を完全に防ぐことができないのです。そのため、一度感染して治療をして完治した状態であっても、再度感染するリスクはありますから、継続して感染予防を行う必要があります。

梅毒を予防するポイント

梅毒の感染、発症を予防するにはどのようなことをすればよいのでしょうか。

皮膚が直接接触しないようにする

まずは感染の機会を減らすために、接触を減らす事が大事です。ほとんどの感染は性的な接触によるものですから、普通の生活をしていても感染することはありません。

ただ、皮膚同士の接触で感染が起こらないとは言い切れません。感染者の皮膚に傷があると、そこから梅毒トレポネーマが体表上に出てきている可能性がありますから、そこに接して感染する場合があります。

なお、梅毒トレポネーマは乾燥などに非常に弱いので、仮に感染者から分泌された体液が便器などに付着したとしても、乾燥すれば感染力を失います。

血液検査を受ける

感染した可能性がある場合には血液検査を受ける必要があります。梅毒は進行するにつれて不可逆的な病変を多数形成します。そのため、重症化を予防するために早期に発見して早期に治療を開始することが大切です。症状が出てから検査をするのではなく、可能性が否定できない段階から検査を検討しましょう。

検査は一般的な内科や皮膚科など、様々な医療機関で可能です。手近なところで検査を受けるようにしましょう。

妊婦健診を受ける

妊娠している場合には、妊婦健診を必ず受けるようにしてください。妊婦健診は梅毒に限らず様々な妊娠や出産、胎児に影響するものの検査が行われます。早産や先天異常、後天異常などの不具合が起こらないように調べておくことが重要です。

とくに梅毒は、感染が判明したら早期に治療しなければ死産の可能性もあります。早いうちに治療が開始できるように、妊娠が分かった段階で産婦人科を受診し、検査について相談しておくようにしましょう。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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