かさぶたの周りがかゆくなるメカニズムと対処法

腕が赤くなり、かゆみに悩む女性
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かさぶたができて痒く感じることは、多くの人が経験していることだと思います。 痒いからといって掻いてしまうと、 かさぶたが取れて、再び出血してしまったという経験もあるかと思います。かさぶたの痒みはどのようにして起こってくるのでしょうか。ここでは、かさぶたができるメカニズムを確認し、痒くならないようにする対処法を紹介します。

かさぶたができるメカニズム

かさぶたは、体が血を止めようとしたときに最終産物としてできるものです。血を止める働きを順を追って見てみましょう。

最初に出血が起こった時、血管が収縮して傷口を小さくします。この時、同時に起こってくるのが、血液が血管以外の組織に触れるということです。 血液中の成分が、血管の外の組織に触れると、様々な化学物質が放出され、血小板が傷口に集まってきます。

一次止血

血小板が集まってくると、vWFという接着剤のような物質を利用することによって、傷口の周りに血小板の塊ができます。これによってできてくる塊のことを血栓と言います。このように、血小板とvWFによって起こってくる血栓による止血のことを、一次止血と言います。

二次止血

一次止血でできてくる血栓は、出血を止めるにはもろくて不安定なものです。そのため、 一次止血に引き続いて、血液中の凝固因子と呼ばれる複数のタンパク質が働くことによって、血栓を固める作用が出てきます。 

最終的には フィブリンというタンパク質が血栓を覆い固めることによって、止血が完成してきます。これによってできてくる物質のことをフィブリン血栓と言って、フィブリン血栓を作るような働きのことを二次止血と言います。 

このフィブリン血栓が体表上に現れて乾燥したものがかさぶたになります。 

かさぶたがかゆくなる原因

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かさぶたができると、なぜ痒くなるのでしょうか。痒くなる原因はいくつも考えられます。

肌の乾燥

ひとつ目の理由は、肌が乾燥することによるものです。かさぶたができると、血栓を固めるためにフィブリンが強固に固まる結果、水分を追い出してしまいます。そのため、かさぶたの周囲の皮膚は非常に乾燥しやすくなります。

皮膚というのは、乾燥すると痒みを感じるセンサーが敏感になります。そのため、何もしていなくても痒いと感じるようになってしまうのです。 

ヒスタミンの働き

かゆみが起こる もう一つの理由には、ヒスタミンという物質が関わっています。

皮膚に傷ができると、傷を治そうとして様々な物質が分泌されますが、その中にヒスタミンという物質があります。 

ヒスタミンはアレルギーを起こす物質としても有名ですが、傷を治す時にも様々な細胞に結合することによって、細胞に対して傷を治すように命令を伝えます。

しかし、ヒスタミンが分泌されると痒みを感じるセンサーにも刺激が伝わってしまいます。その結果、傷が治ろうとする過程においては、傷の近くで痒みを感じやすくなるのです。 

かさぶたの周りがかゆいときの対処法

かさぶたの周りが痒い時の対処法を紹介します。

傷口をかかない

痒いとすぐに皮膚を掻いてしまいがちですが、これは一番してはならないことです。皮膚を引っ掻くと、傷口の治りを悪くしてしまうだけではなく、傷口の周りの皮膚を傷つけることによって、新たな傷を作ってしまいます。その結果、さらに痒みが増してしまうこともあります。

通常の傷口であれば、皮膚が元通りに治るまでにだいたい1週間から10日ぐらいかかります。しかし、傷口を引っ掻いてしまい、かさぶたを剥がして皮膚を傷つけると、回復が遅れてしまいます。 

さらに悪いことに、このように傷ついてしまった傷口は治りにくく、治った後も傷跡が残ってしまうことも稀ではありません。 

ただし、かさぶたは絶対剥がしてはならないというわけではありません。剥がす時に引っ掻いて周りを傷つけてしまったり、かさぶたのあった傷を深くしてしまったりするのが悪いのです。どうしてもかさぶたが痒くて仕方がない場合には、ひっかくのではなく、お湯などでふやかして柔らかくした後に、ゆっくりと少しずつ削るのがいいでしょう。

保湿する 

皮膚が乾燥すると痒みが強くなります。皮膚を乾燥しないように保湿することによって、 かゆみはある程度抑えることが可能です。

保湿クリームを利用したり、部屋の中を乾燥しないように保つことで、皮膚が乾くのを最小限に抑えて、痒みが出にくいようにするといいでしょう。

かさぶたは作らない方がいい?湿潤療法とは

以前であれば、「皮膚が治ろうとするのはかさぶたのおかげだから、かさぶたはなるべく取らない方がいい」と言われていました。 

しかし現在では、「かさぶたは皮膚のミイラのようなもので、乾燥している証拠であり、傷口が治ろうとするのを邪魔している」と言われています

傷口を乾燥させるのではなく、湿った状態を保つことによって傷口の治りを良くしてあげようという治療が湿潤療法です。かさぶた自体は、中心部分の下は乾燥を防いでいる防御壁になりますが、周囲は乾燥しているため、治りが悪くなってしまいます。 

そのため、かさぶたを作るのではなく、代わりに湿潤環境を保つためのばんそうこうを使うことによって、傷の潤いを保ち、治りやすくするのが目的になります。

湿潤療法を行うと傷の治りは早い上に、きれいな傷跡になり、さらに痒みが少ないといった特徴があります。

湿潤療法の手順

湿潤療法の手順を確認しておきましょう。

まず傷口ができた時に、最初にすることは傷口の洗浄です。皮膚には細菌が存在していて、皮膚は細菌が体の中に入ってこないようにバリアをしています。傷口ができると、そのバリアが破綻して、細菌が体の中に入ってしまう可能性や、傷口で大幅に増殖してしまう可能性があります。特に、土やゴミなどが付着していると感染が起こりやすくなります。

特に湿潤療法では、絆創膏を貼ったままにすることで傷口が乾かない状態を保ちますから、 細菌にとっては非常に増殖しやすい環境が保たれることになります。ですので、最初にしっかりと傷口を流水で流して綺麗にすることが大切です。

傷口をきれいにすると言うと、消毒をしなければならないと考えるかもしれませんが、消毒はしてはなりません。というのも、傷口を治そうとする体の因子も消毒によって傷をつけられ、傷が治りにくくなってしまうからです。消毒をすると痛みも出ますし、傷も治りにくいですから、しっかりと水で洗い流せば十分です。

洗い流した後は、乾燥させないように維持します。薬局で販売されている種々の湿潤療法用の絆創膏を貼ることによって、乾かないように傷を維持することができます。 

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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