ストレスによる過呼吸(過換気症候群)の対策…紙袋を当てるのはNG?

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急に息が吸えなくなって、呼吸が荒くなってしまうような症状が出たことはないでしょうか。また、それに伴い、手足がしびれたりはしていないでしょうか。このような症状のことを、過呼吸、あるいは過換気症候群と言います。過呼吸はどのような状態で起こってくるのか、またどのように対策をしたらいいのか詳しく見ていきましょう。

過呼吸(過換気症候群)とは

呼吸は、酸素を取り込む役割と、二酸化炭素を排出する役割とを担っています。実は酸素を取り込むというのは、呼吸の量や回数を減らしても、なかなか影響を受けてくることはありません。息を止めても、血液中の酸素濃度が下がってくるのには時間がかかります。

一方で、二酸化炭素を吐き出すというのは、呼吸の回数や換気の量に大きく影響されます。呼吸の回数が増えたり1回の換気量が増えたりすると、二酸化炭素は多く排出されて、血液中の濃度が下がります。一方で、呼吸の回数や1回の換気量が減ると、二酸化炭素の排出量は減少し、血液中に二酸化炭素が溜まってきます。

息を止めた時に息苦しくなってくるのは、酸素が低下するのではなく、二酸化炭素が増加しているからなのです。このように、呼吸の量と二酸化炭素は綿密に関係しますし、二酸化炭素の量と自覚症状には大きな関係があります。そのため、呼吸の量と自覚症状に直接的な関係が出てくるのです。

過呼吸というのは、様々な原因によって呼吸の量が多くなることを言います。血液中の二酸化炭素が多く排出されて不足し、様々な症状が出てきます。

過呼吸になりやすい人

過呼吸は年齢や性別を問わずに多くの人に起こりますが、比較的若い女性に多く見られます。真面目で心配性な性格の人に多いとされており、特に発作が起こりやすいのは、不安や恐怖、怒りなどのつらい感情が溢れたり、気持ちを我慢したりする時です。

ストレスがないのに発作が起こったという人もいますが、よくよく聞いてみると、知らず知らずのうちに強いストレスに苛まれていたということもよくあります。

過呼吸の主な症状

過呼吸ではどのような症状が起こってくるのでしょうか。

一般によくおこってくるのは、呼吸がしにくくなるという症状に加えて、頭痛やめまい、指先や口周辺のしびれ、冷や汗、吐き気、呼吸困難、テタニー症状などです。時に失神してしまうこともあります。

テタニー症状というのは、筋肉が持続的に硬直したり痙攣することです。過呼吸の時には、手指がこわばったり、顔が引きつったりします。それに伴って痛みを感じることもあります。

ではなぜ、過呼吸が起こると、息苦しいという症状だけではなく痺れや吐き気などの症状が起こってくるのでしょうか。これにもやはり二酸化炭素が関わっています。

血液はpH7.4前後の非常に細かな酸塩基平衡を保っています。これには、腎臓によって血液中に溶け込む酸性物質を調整する機構と、二酸化炭素が血液に溶け込むことによって重炭酸となり、酸塩基平衡を保つ機構が働いています。

過換気によって二酸化炭素が非常に少なくなってしまうと、血液中の酸性度が減り、血液がアルカリに傾きます。血液がアルカリに傾くと、それだけで血管が収縮したり、血液中のカルシウムの濃度が低下したりします。カルシウムは筋肉の収縮に重要な役割を果たしますから、その濃度が低下することによって筋肉のこわばりのような症状が出てきます。また神経も、カルシウムによって働きが調節されていますから、カルシウムが低下することによって神経が刺激され、しびれが感じられるようになるのです。

頭痛やめまいや吐き気などの症状は、二酸化炭素の直接作用ももちろんあるのですが、それだけではなく不安などによって交感神経が刺激されることによって起こってくる症状でもあります。

一方、息苦しいというような症状はあるのですが、呼吸回数が大幅に減っているわけではありませんから、酸素は十分に取り込めています。酸素欠乏による症状は出てきません。

ストレスで過呼吸になるメカニズム

通常、人間は意識して呼吸することはほとんどありません。もともと人の呼吸は、脳にある呼吸中枢が働くことによって、無意識にも呼吸ができるようにできています。しかし、ストレスなどによって交感神経が刺激されると、呼吸中枢に影響が現れてきます。基本的には交感神経刺激が呼吸中枢に与える影響としては、呼吸回数の増加です。

通常であれば、気にならない程度の呼吸回数の増加で止まります。しかし、ストレスが強かったり、他の何らかの身体的異常があったりすると、呼吸中枢の刺激が過剰となり、過換気となってきます。

紙袋を口に当てる対策はNG?

以前は、ペーパーバッグ法と言って、紙袋を口に当てるのが過呼吸に対して良い方策だと言われていました。自分が吐いた息には二酸化炭素が外気より多く含まれています。そのため、自分の吐いた息を吸い込めるように、紙袋に息を吐いて、その空気を再度吸い込むことによって取り込む二酸化炭素の量を増やし、血液中の二酸化炭素を上昇させるのが良い治療法だと考えられていました。

しかし、実際にこの方法を実施すると、吸入する酸素の濃度が低下してしまい、低酸素血症をきたしてしまう場合が指摘されました。また二酸化炭素に関しても、急激に上昇してしまうことがありますから、現在では推奨されなくなっています。

過呼吸の対策

過呼吸が起こった時にはどのように対策すれば良いのでしょうか。

ゆっくり腹式呼吸をする

まずは落ち着いてゆっくり呼吸することが大事です。呼吸が早いことによって起こっている症状ですから、意識してゆっくり呼吸します。ポイントとしては、腹式呼吸を心がけるということです。胸だけで呼吸してしまうと、小さく速い呼吸になってしまいます。腹式呼吸をすると、1回の呼吸量が多くなり、酸素を十分に取り込めているという安心感が出てきますから、呼吸の回数を減らすことが可能になってきます。

この対処をするのは、座った状態でも、寝た状態でも構いません。立った状態は不安が増幅しますから避けた方がいいでしょう。

周りの人は慌てずに当事者を安心させる

過呼吸になって本人も慌てますが、周りの人も慌ててしまうことがあります。しかし、慌てている姿を見せると、本人は余計に不安に感じて、過呼吸がひどくなってしまいます。周囲の人は落ち着いて話しかけたり、背中を優しくさすってあげたり、一緒に呼吸のリズムを整えてあげたりするといいでしょう。

周囲の環境に目を向けてみるのも大事です。騒がしい場所、野次馬がいるような場所はストレスになります。必要であれば安全で落ち着ける場所まで移動させるといいでしょう。

ストレスをためないように工夫する

過呼吸にならないように、生活を見直してみましょう。ストレスは溜まっていないでしょうか。もし思い当たるところがある場合は、ストレスを溜めないように、あるいは可能な限り発散できるように、工夫するのがいいでしょう。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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