胸郭出口症候群はどんな病気?なりやすい人と治療法

お悩み

手を持ち上げたり、あるいは全く手を動かさなくても片方の手にしびれが起こっている人はいらっしゃらないでしょうか。特に手を動かした時にしびれが起こってくる場合、胸郭出口症候群である可能性があります。胸郭出口症候群とはどのような病気なのでしょうか。

胸郭出口とは

胸郭というのは、胸のことです。胸は中に心臓や肺など、非常に重要な臓器を蓄えています。そのため、これらの臓器を守るために非常に頑丈な構造をしています。

後ろには脊椎が存在して、脊椎からは肋骨が合計12本出ています。そのうち1番目から7番目までの肋骨は、前方まで来たところで軟骨を介して胸骨と接続しています。直接骨と骨が接するわけではないため、呼吸によって胸が動きやすいような状態になっているのです。脊椎、肋骨、胸骨で囲まれた領域のことを胸郭と言います。

そして胸郭出口症候群を理解するために必要な骨が、肋骨と鎖骨になります。鎖骨も胸骨に接していて、第一肋骨と平行に存在しています。胸郭出口というのは、この鎖骨と第一肋骨の間に存在する狭いスペースのことを言います。

さらに複雑なことに、胸郭出口を構成するのは骨だけではありません。様々な筋肉もこの隙間には存在し、筋肉が収縮することによって太くなると、よりこのスペースが狭くなってしまうことがあるのです。

胸郭出口を通っているのは、鎖骨下動脈や鎖骨下静脈の他に、腕神経叢というものがあります。腕神経叢というのは、脊髄を出てから腕に向かって伸びている神経の塊のことです。神経同士が互いにくっつきあって、太いチューブのようになっているために、腕神経叢という特別な名前で呼んでいます。

胸郭出口症候群はどんな病気?

胸郭出口症候群は、胸郭出口において神経や血管が圧迫されてしまうことによって起こってくる様々な症状のことです。

胸郭出口症候群の分類

神経が圧迫されるものを、神経性胸郭出口症候群、血管が圧迫されることを血管性胸郭出口症候群と言います。圧倒的に多いのが神経性胸郭出口症候群です。おおよそ90%以上が神経性胸郭出口症候群と言われています。

神経性胸郭出口症候群の分類

神経性胸郭出口症候群は、圧迫型、牽引型、混合型に分類されます。その名の通り、神経が圧迫されることによって症状が起こっているものを圧迫型神経性胸郭出口症候群、神経が牽引されることによって症状が起こっているものを牽引型神経性胸郭出口症候群、その両方が原因で症状が起こっているものを混合型神経性胸郭出口症候群と呼ぶのです。

胸郭出口症候群の症状

神経性胸郭出口症候群の場合、多い症状は、肩から腕、手先にかけてのしびれが挙げられます。他には首や肩甲骨、肩から手にかけてのしびれや痛み、頑固な肩こり、腕の脱力や握力低下などの筋力低下の症状も起こってきます。神経の走行の特徴から、しびれが起こりやすいのは上腕や、前腕の内側、手の小指や薬指などです。

一方の血管性胸郭出口症候群では、手や腕が冷たくなったり、血色が悪くなって青色や白色になったり、むくんだり、腕を挙上してしばらく経過するとだんだんと痛みが出てきたりといった症状が見られます。

胸郭出口症候群の検査と診断

診断は比較的難しいものです。まず行うのは、CTやレントゲン検査など、画像をみることで、実際に胸郭出口がどのようになっているのかを確認します。この検査で、異常な肋骨が増えている頸肋や、第一肋骨の奇形があれば、胸郭出口が狭くなっている可能性が高いと判断します。

しかし、実際には骨だけではなく筋肉によっても胸郭出口は狭まってしまいます。骨の異常がなくても狭くなっていることがあるため、画像診断だけで確定することはなかなか難しいです。可能な限り診断を正確にするために、手を下ろした状態と上げた状態で両方のCTを撮影することによって、胸郭出口の構造をより詳しく検査するという方法もあります。

CTではなかなか筋肉の構造を描出することは難しいですが、超音波検査では斜角筋という筋肉の構造を見ることで、胸郭出口が狭くなっていることを確認することもできます。

しびれなどの神経障害がメインと思われる場合には、末梢神経障害の確認のために針筋電図を用いた電気生理学的検査を行うことがあります。一方で血管の圧迫によって、血流に障害があると考えられる場合には、エコーを用いて動脈の血流を評価することがあります。

胸郭出口症候群になりやすい人

バスケットボールをする女性

胸郭出口症候群になりやすい人にはいくつかの特徴があります。

頭より高い位置に手を持って行って、何か作業するような人は、胸郭出口症候群になりやすいと言われています。

この姿勢は、目線を上にするために頭を後ろに倒しますが、このこと自体で神経がけん引されてしまいます。この状態で、さらに手を上に上げると、鎖骨が内寄りに移動しますから、胸郭の出口が狭くなります。さらに筋肉も、手を上げるために収縮しなければなりませんから、筋肉自体が太くなり、余計に胸郭出口を狭くしてしまうのです。

作業だけでなく、スポーツでも胸郭出口症候群は起こってくることがあります。特にバスケットボールやバレーボール、バドミントンなどは目線が高い上に、高い位置に手を持っていくために胸郭出口症候群になりやすいと言えます。

また、なで肩の人は胸郭出口症候群になりやすいとされています。これは、肩の位置が低くなることによって、首のところにある神経がよりけん引されるために、牽引型神経性胸郭出口症候群になりやすいためです。

高い位置に持ち上げなかったとしても、重いものを持つ人はそれだけで腕が引っ張られ、神経も引っ張られることになりますから、牽引型の神経性胸郭出口症候群を起こしやすいと言えます。

胸郭出口症候群の治療法

胸郭出口症候群と診断された場合は、保存療法や手術療法で治療を行います。

保存療法

胸郭出口症候群の手術は、比較的侵襲度が高い手術になりますから、まずは保存療法を行います。

保存療法では、胸郭出口の中でも、前斜角筋、中斜角筋、そして第一肋骨より形成される三角間隙と呼ばれる隙間を広げるような運動をします。運動によって、筋肉が柔らかくなり、神経や血管の圧迫が改善されることを期待します。

具体的な方法としては、まず姿勢を正すことです。なで肩、猫背などは神経をけん引する原因になりますから改善に努めます。また胸を動かすだけでなくお腹を動かすことによって呼吸をし、胸の負担を減らします。

他には肩を挙上する運動や、仰向けになって頭を持ち上げる運動を繰り返すなどの運動によって、改善を期待します。

それに加えて、重いものをなるべく持たない、持つときはなるべく肘を曲げて腕を胸の前に組んで休む、腕を下に下げて物を持たない、といった工夫をすることで症状がひどくなるのを防ぎます。

手術療法

保存療法でも改善しない場合や、最初から仕事や生活に支障をきたしているような重症例の場合には、手術療法が検討されます。

手術にはいくつかの方法があります。前斜角筋を切断する方法、第一肋骨を部分的に切除する方法、その両方を組み合わせる方法、小胸筋という筋肉を切離する方法などがあります。

ただしこれらの方法は、いずれも長所短所があって、全てにおいて必ず効果が出るわけではなく、また再発率も低くないという欠点があります。今のところ、第一肋骨部分切除と、斜角筋の切除を併用する方法の推奨度が高いですが、手術が難しいと言われています。

手術の合併症には、横隔神経や、星状神経節などの神経障害、肺損傷、リンパ管の損傷などがあります。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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