後遺症が残ることも?細菌性髄膜炎の特徴と発症しやすい人

髄膜炎という病気があります。脳を包む髄膜という部分に何らかの原因で炎症が起きるものです。髄膜炎の原因が細菌である場合、細菌性髄膜炎と呼ばれます。細菌性髄膜炎について詳しく見てみましょう。
細菌性髄膜炎とは

細菌性髄膜炎とはどのようなものなのでしょうか。ウイルス性髄膜炎との違いや症状の特徴を見ていきましょう。
ウイルス性髄膜炎との違い
髄膜炎の原因は様々ですが、ウイルス性の髄膜炎が多いとされています。
ウイルス性髄膜炎も細菌性髄膜炎も、症状としては共通するものがあります。いずれも発熱をきたしますし、頭痛や嘔吐、そして様々な髄膜刺激症状が見られます。
髄膜刺激症状というのは、髄膜が引き伸ばされることによって痛みが増強することをいいます。仰向けで寝た状態で頭を持ち上げた時に頭痛がひどくなったり抵抗を感じたりすることを項部硬直と言い、代表的な髄膜刺激症状と言われています。
ウイルス性髄膜炎と細菌性髄膜炎では重症度に大きな違いがあります。重症度の違いは、原因となる微生物の増殖の仕方によるものです。
ウイルス性髄膜炎の場合には、ウイルスが細胞の中に寄生して、細胞のシステムを利用して増殖し、一定以上増殖すると細胞から出てきて他の細胞へと感染を繰り返すというものです。一方、細菌性髄膜炎の場合には、細菌が髄膜や髄膜の下にある脳脊髄液に入り込み、周囲の豊富な栄養をもとに増殖を繰り返します。
ウイルス性髄膜炎の場合には細胞の数が変化しないのに対し、細菌性髄膜炎の場合には細菌という細胞の数が増加します。髄膜は非常に狭いスペースにあるので、この細胞の増殖によって圧力が上昇し、様々な症状を引き起こします。特に髄膜刺激症状は非常に強いものとなります。
免疫反応も異なります。いずれの髄膜炎でも、白血球が髄液内に増加し、活発な免疫反応が起こります。しかし、重篤な感染症であることを反映して、炎症反応は細菌性髄膜炎でより強くなります。
細菌性髄膜炎の原因
細菌性髄膜炎の原因となる細菌は、年齢によって異なります。
新生児の頃はあまり起こらないのですが、起こるとすると、一番多いのがB群連鎖球菌と呼ばれる細菌です。続いて大腸菌やインフルエンザ菌が原因となってきます。これらの細菌は出生時に母親からもらうことが多いです。B群連鎖球菌は膣に多く存在する細菌で、大腸菌は肛門付近から膣に侵入し感染すると言われています。
生後4か月から6歳頃の乳児期に多くなってくるのがインフルエンザ菌です。特にインフルエンザ桿菌B型と呼ばれる細菌はHIB(ヒブ)と呼ばれ、後述するワクチンの対象となっています。続いて多いのが肺炎球菌です。こちらもワクチンの対象となっています。
6歳から成人までは肺炎球菌が最も多い原因です。続いてインフルエンザ菌、髄膜炎菌と続いていきます。
高齢者になってくると、肺炎球菌が最も多くなってきます。続いて黄色ブドウ球菌や大腸菌などが原因となります。
髄膜炎だから髄膜炎菌が多いのかというと、実際にはその数は多くありません。
もともと髄膜のところには、一切細菌はいません。ほとんどの場合は、血液の流れによって細菌がやってきます。まれに中耳炎や副鼻腔炎など、髄膜に近いところの炎症が深いところに波及して感染を引き起こします。
症状の特徴
細菌性髄膜の症状には発熱、頭痛、悪心嘔吐、痙攣、意識障害、髄膜刺激症状があります。これらの症状が同時に起こることは比較的少ないですが、1週間以内に急激に症状が悪化し、症状も増えていきます。
痙攣や意識障害は、髄膜の炎症が脳にまで至った時に脳炎の症状として起こってくる場合もありますが、脳炎が起こっていなくても炎症を背景としてサイトカインが分泌されることによって、脳に浮腫が生じ症状が起こってくるとされています。また、細胞が増加することによって圧が上昇し、脳の活動に異常が出ることでも症状が起こってきます。
細菌性髄膜炎を発症しやすい人
細菌性髄膜炎を圧倒的に起こしやすいのは、小児期です。
新生児の間は、母親からの免疫が存在するために、またある程度成長してからは自分自身の免疫があるために、細菌に対する抵抗力を持ち、細菌性髄膜炎に至ることは稀です。そのため5歳未満での発症の報告が多く、全体の半数を占めています。一方、免疫力が弱まってくる高齢者にも髄膜炎は起こりやすく、70歳以上で増加するというデータがあります。
また年齢を問わず、元々の免疫力が弱い場合も細菌性髄膜炎になりやすく、何らかの免疫不全がある場合や、がん患者、糖尿病患者などは注意が必要です
細菌性髄膜炎の予後と後遺症のリスク

細菌性髄膜炎は急速に症状が悪くなる、またその症状が非常に重篤であることに加え、後遺症が残ることがあります。
細菌性髄膜炎と診断がつくまでには時間がかかります。前述のような症状が揃っていれば診断は容易かもしれませんが、初期には症状が一部しかないこともありますので、診断はつきにくくなっています。多くの場合には発熱や、軽い頭痛のみということから風邪と診断され経過を見るようになることが多いのです。何かおかしいと感じた時にはすでに重症化している場合があります。
重症化すると、最善の治療を尽くしても命に関わることがあります。発熱してからわずか1日で命を落としてしまうような場合も稀ではありません。
治療が難しいということもあります。髄膜は血液中から薬の成分が届きにくい場所になっているので、通常の抗菌薬を投与してもなかなか治療ができないことがあります。
そして、命を取り止めたとしても後遺症の問題があります。サイトカインによる脳浮腫や頭蓋内圧亢進などの刺激によって脳が障害を受け、知能障害や難聴、てんかんなどの後遺症が残こる場合があります。
細菌性髄膜炎のワクチンについて

生後6か月頃から4歳~5歳頃までの乳児期小児期は感染する可能性が高く、後遺症が残る可能性もあるため、ワクチンの接種が行われています。
肺炎球菌ワクチンは、高齢者のほかに小児に対しても行われます。肺炎球菌という細菌は複数種類あるのですが、2024年10月からは20種類の肺炎球菌に対応したワクチンが使用可能になりました。生後2か月から接種が可能です。
小児肺炎球菌ワクチンの接種回数は、月齢年齢によって変わってきます。生後2か月から6か月の場合には4回接種、生後7か月から11か月にかけて接種を開始した場合には3回の接種、1歳の場合には2回、2歳から4歳までの間は1回となっています。これらの期間に接種しなかった場合には、5歳以降に任意で1回接種することができます。
ヒブワクチンも、生後2か月から接種が可能です。こちらも肺炎球菌ワクチンと同じように、接種開始年齢によって摂取回数が異なります。生後2か月から6か月の場合には4回、生後7か月から11か月の場合は3回、1歳から4歳までの場合は1回となっています。注意しなければならないのは、5歳以上では接種不可となることです。2024年4月からはジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオの4種類が混ざった4種混合ワクチンと、ヒブワクチンが混ざった5種混合ワクチンが導入されました。
肺炎球菌ワクチンとヒブワクチンは同時接種が可能ですので、早いうちからの接種を検討しましょう。