病気と関係のない肩こり・首こりの症状は漢方薬で改善
肩こり・首こりは腰痛とならび、多くの人が悩んでいる症状のひとつです。この記事では、肩こり・首こりを改善する漢方薬を紹介しているので、参考にしてみて下さい。
目次
肩こり・首こりの種類
肩こり・首こりは、3つのタイプに分けられます。ヘルニア・リウマチなどの原因が明確であるもの(症候性)、原因がわからないもの(本態性)、ストレスにより生じるもの(心因性)です。原因が明確なものと、ストレスによる肩こり・首こりは、原因に対してアプローチすることができますが、原因が明確でない肩こり・首こりに関しては、有効な治療法が限られています。そのため本記事では、原因が不明の肩こり・首こりについて、どの漢方薬を使えば良いのかをご紹介します。
肩こり・首こりの時に身体で起きていること
漢方医学では、病気や不調が生じる原因は体内の「気」(き)・「血」(けつ)・「水」(すい)のバランスが崩れた時に起こると捉えます。そのため、肩こり・首こりも、身体の「気」・「血」・「水」の流れが滞ったり、「気」や「血」が不足することで起きていると考えます。
気とは、目に見えないエネルギーを指し、身体を巡り温めます。水は、気とは対照的に身体を冷やし、潤します。血は、気と水を合わせた概念であり、両方の性質を持っています。
気と血は、経絡(けいらく)を、水は三焦(さんしょう)という通路を通ります。身体が冷えると、経絡や三焦を巡る気・血・水の流れが滞ります。また、気・血が不足することによっても、気・血の流れが悪化します。このように、肩こり・首こりは「気・血・水」が滞って身体を巡らなくなることが原因で起こると考えられています。
肩こり・首こりに用いる漢方薬の特徴
肩こり・首こりに用いる漢方薬には、さまざまな種類があります。しかし、含まれている生薬には共通点があります。これらの症状に用いられる漢方薬のほとんどに、芍薬(しゃくやく)と甘草(かんぞう)という生薬が含まれているのです。
その理由は、芍薬と甘草が、肩こりの原因である「気・血」の流れを改善し、またそれらの不足を補うためです。また芍薬や甘草そのものに、筋肉の緊張を緩和させる鎮痙作用があると考えられているからです。今回は、肩こり・首こりに用いられる漢方薬について、それぞれの特徴と使い分けのポイントを解説します。
芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)
芍薬甘草湯は、芍薬と甘草のみで構成されているシンプルな漢方薬です。芍薬が不足した血を補い、甘草と芍薬が気・血のめぐりを改善することで肩こり・首こりを和らげます。芍薬甘草湯は、こむら返りの時にも使用される漢方薬です。肩・首がつるように凝っている場合に適しています。他の漢方薬と比べて、体質をあまり考えずに使えることがメリットです。
しかし、シンプルな構成であるがゆえにデメリットもあります。それは、配合されている甘草の量が多いことです。長期間服用すると、むくみ、高血圧などの副作用が起こる可能性があります。そのため、症状がある時にだけ服用します。
葛根湯(かっこんとう)
芍薬甘草湯と同じく、芍薬と甘草が含まれています。さらに、麻黄(まおう)と桂皮(けいひ)が身体の表面の冷えを温めます。身体の表面が温められることで、気・血のめぐりが良くなり、症状が改善します。また、体表の水の代謝が悪化して、潤いが失われることによりおこる筋肉の引きつりや凝りを緩和します。葛根湯を選ぶ際のポイントは「汗が出ていない」ことです。汗が出ない理由は、漢方医学的には、冷えにより体表を巡る「気」の働きが低下し、気によりコントロールされている汗腺が開かなくなるためだと考えられています。
葛根湯を服用する際の注意点としては、胃の不快感、不眠、心悸亢進(心臓がときどきする)などの副作用があることです。これらの副作用は、麻黄の交感神経興奮作用によるものです。服用回数は1日2~3回ですが、不眠の副作用が気になる場合には、就寝前の服用を避けると良いでしょう。
桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)
血の巡りを良くする「桂枝茯苓丸」に水の巡りを改善させる薏苡仁(よくいにん)が加わった処方です。
芍薬が含まれているため、血の不足と巡りを良くするとともに、牡丹皮(ぼたんぴ)、桃仁(とうにん)も血の鬱滞を解消します。さらに薏苡仁が水のめぐりを改善し痛みを取り除いてくれます。
芍薬甘草附子湯(しゃくやくかんぞうぶしとう)
芍薬・甘草を含む芍薬甘草湯に附子(ぶし)という生薬を加えた漢方薬です。附子には身体をめぐる気を温める作用があります。そのため、身体の冷えがある場合に適しています。芍薬甘草湯と同じく、甘草の量が多いため、長期間使用しないよう注意が必要です。
葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう)
芍薬・甘草・附子に加えて、麻黄と桂皮が含まれています。身体の表面を麻黄・桂皮・附子が温めます。さらに、蒼朮(そうじゅつ)が水の流れを改善し、水の代謝異常による痛みを解消します。これまでに紹介した肩こり・首こりに用いられる生薬が数多く含まれ、体力が低下しているときに、冷えや湿気により発症するもの、慢性化した肩こり・首こりに使用します。甘草を含んでいるため、長期間の使用には注意が必要です。また、麻黄を含んでいるため、不眠の副作用にも気をつけなければなりません。
桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅつぶとう)
桂枝加苓朮附湯は、前述の葛根加朮附湯から、葛根・麻黄を除いた漢方薬です。麻黄が入っていないので、胃の不快感、不眠、心悸亢進などの副作用を気にする必要はありません。体力が低下している場合に適した漢方薬です。
体質・体調にあった漢方薬で肩こり・首こりを改善
肩こり・首こりの背景には「気・血・水」の異常があります。肩こり・首こりに用いられる漢方薬の多くは芍薬と甘草を含み、これらの生薬が気・血の不足を補い、流れを良くすることで症状を改善します。簡単な使い分けとして、冷えがある場合には「気・血」の不足と巡りを良くして痛みに効果を発揮する芍薬、甘草に加え、温める効果のある附子を含む漢方薬を、冷えがない場合には、芍薬や甘草を含む他の処方を使用してみてはいかがでしょうか。
なお、甘草にはむくみ、高血圧などの副作用が起こる可能性があるため、これらの漢方薬は、主に症状がある時だけ服用するのがポイントです。また、麻黄を含む葛根湯、葛根加朮附湯は、体表を温め、気・血の循環を促進する作用が強い反面、胃の不快感、不眠、心悸亢進があるので、使用にあたっては注意が必要となります。
最後に、使い分けに関して迷われる場合には、漢方薬に詳しい医師・薬剤師に相談した上で選ぶことをおすすめします。漢方薬を活用して、肩こり・首こりと上手に付き合っていきましょう。