いびきと病気の関係…睡眠時無呼吸症候群・耳鼻科系疾患・脳卒中

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いびきの音が大きいとき、健康上の心配がなくあまり気にしなくてもよい場合もあれば、治療を必要とする病的ないびきの場合もあります。ここでは、いくつもあるいびきの原因について解説します。

単純性いびき症とは

睡眠している際中に呼吸が止まりそうになる低呼吸、あるいは実際に数秒間以上に渡って呼吸が止まる無呼吸の合計回数が1時間につき5回以内の場合、かつ夜間を含めて睡眠障害を認めない際には、単にいびきの音が大きい単純性いびき症と考えられています。

睡眠中に発生するいびきの音は、通常では寝ている際中に下顎部の筋肉が弛緩することによって空気の通り道が細くなりいびき音が鳴るといわれていますが、単純性いびき症の場合には、病的なレベルで気道や喉が狭くなっているわけではありません。

細長い上気道に空気が早く流入するために音が大きく鳴りやすく、細長い体形の人は単純性いびき症になりやすいといわれています。

単純性いびき症では、睡眠中に酸素飽和度が低下することも考えられないために、後述する睡眠時無呼吸症候群に典型的な日中の眠気などの症状は基本的には認められません。

就寝する時に下顎部を前に出すことができる睡眠用マウスピースを歯科で作成してもらい、睡眠中に装着することで症状改善が見込まれます。

睡眠時無呼吸症候群と上気道抵抗症候群

病的ないびきの原因には次のものがあります。

睡眠時無呼吸症候群とは

睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)は、いったん眠り出すと知らず知らずのうちに呼吸が止まってしまう病気であり、眠り出すとまた呼吸が止まってしまうことを一晩中繰り返すために夜間睡眠が全くとれずに日中に強い眠気が出現します。

睡眠時無呼吸症候群には、睡眠中に何度も呼吸が止まる、あるいは浅くなって周囲の方からいびきをよく指摘される、夜間の睡眠中に頻繁に目が覚める、日中に眠気を感じる、といった特徴があります。

夜間における深い睡眠が妨げられて多大なストレスが蓄積されることによって、血糖値やコレステロール値が高くなることでさまざまな生活習慣病やメタボリック・シンドローム症候群が引き起こされやすくなります。

上気道抵抗症候群とは

上気道抵抗症候群(upper airway resistance syndrome:UARS)は、睡眠時無呼吸症候群の軽症型として位置づけられており、睡眠中に上気道の抵抗が強いがゆえに、睡眠の質が低下する睡眠障害のひとつとして捉えられています。

睡眠時無呼吸症候群と同様に、肥満体形の人、あるいは小さな顎や下顎後退など顎顔面部の形態が原因となって発症することが多いと考えられています。

肥満体形であれば減量することが重要ですし、マウスピースによって下顎部を前方にずらして固定することで、気道が広がって、睡眠中に抵抗なく呼吸することが可能になり、いびき呼吸の消失や日中の疲労改善などを期待することができます。

いびきの原因になる耳鼻科系疾患

次のような耳鼻科系疾患はいびきの原因になります。

蓄膿症

蓄膿症は医学的に慢性副鼻腔炎と呼ばれており、鼻汁が漏出して鼻づまりを引き起こすなどの慢性的な症状が12週間以上に渡って改善しない状態を指しています。

蓄膿症は、風邪症状と関連しており、細菌感染をベースとする急性副鼻腔炎の状態から続発することが知られており、成人では鼻中隔彎曲症、小児ではアデノイド肥大なども発症のリスク因子と捉えられています。

また、近年においてはアレルギー素因が関連している好酸球性副鼻腔炎の増加傾向が認められ、そうしたケースでは喘息を合併して難治性になることもあります。

アレルギー性鼻炎

アレルギー性鼻炎は、ダニやホコリなどが引き金となって年間を通じて鼻汁などの症状が認められる通年性アレルギー性鼻炎、そして花粉などの飛散している時期だけに限定されて鼻づまりなどの症状が認められる季節性アレルギー性鼻炎に分類されます。

アレルギー性鼻炎では、くしゃみ、透明な鼻水、鼻閉感が特徴的な症状であり、鼻が詰まって代償的に口呼吸になると乾燥した空気がそのまま体内に入って感染症などを発症するリスクが上昇すると考えられます。

アレルギー性鼻炎は、くしゃみの回数が多く、鼻汁自体は粘り気や粘凋度が高いものではなく無色でサラサラしており、鼻閉感は鼻粘膜が肥厚して腫れることによって自覚されるのが特徴です。

鼻中隔湾曲症

鼻の穴を左右に隔てて軟骨と骨で構成されている壁構造を鼻中隔と呼んでおり、この鼻中隔が強く曲がって湾曲していることによって、鼻閉やいびきなどの症状が長期に渡って出現する病気が鼻中隔湾曲症です。

鼻中隔は、成長過程で軟骨と骨も成長していきますが、鼻中隔湾曲症では軟骨の成長スピードが周囲の骨よりも早いために、まだ成長していない他の骨形成群と癒合して軟骨が湾曲していくことで生じると考えられています。

それ以外にも、鼻部に骨折など外傷を受けることに伴って鼻中隔が湾曲して発症することもあります。

鼻中隔湾曲症は基本的にはアレルギー反応や細菌感染などの内因性の病態ではなく、鼻中隔が物理的に湾曲しているためにいびきや鼻閉などの症状が引き起こされます。根治的な治療方法としては手術療法が挙げられます。

扁桃腺肥大

喉の奥の扁桃腺が腫大している状態を扁桃腺肥大といいます。

通常、扁桃腺の機能は幼少期に最も活発になって、そのサイズも最大になるといわれていますが、幼少期を過ぎると扁桃腺のサイズは徐々に縮小していくと考えられています。

扁桃腺は口や鼻から侵入してくる細菌やウイルスなどの病原体を捕獲して感染予防に働く機能が存在するため、細菌やウイルスに感染すると生理的に扁桃腺が腫大する変化が起こります。

扁桃腺が肥大化すると、空気の通り道が自然と狭くなって、いびき症状が引き起こされて、睡眠の質が低下するために、日中に眠気が強く襲ってきて集中力が低下して作業効率が悪化する、あるいは身体の免疫力が低下することにも繋がります。

脳卒中といびきの関係

脳卒中といびきの関係と、注意が必要ないびき以外の状態について見てみましょう。

睡眠時無呼吸症候群は脳卒中のリスクを高める

睡眠時無呼吸症候群は、高血圧等の生活習慣のリスクを高めることで、狭心症や心筋梗塞などの心臓病や脳卒中などのリスクを上昇させるため、中等症から重症のすべての睡眠時無呼吸症候群での死亡、脳卒中のリスクが高くなります。

脳⾎管障害と閉塞性睡眠時無呼吸症候群には密接な関係があり、睡眠時無呼吸症候群の患者と健常⼈を3年間追跡調査した研究によると、睡眠時無呼吸症候群の患者は脳⾎管障害の発症および死亡が有意に多いという報告がされています。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群は夜間の低酸素⾎症や⾃律神経のバランスが崩れることで、⾼⾎圧や動脈硬化を引き起こし、やがて脳卒中を含む脳⾎管障害を発症させると考えられています。

また、肥満になると気道を圧迫してしまい、いびきをかきやすくなりますし、睡眠時無呼吸症候群も肥満の方でなりやすいと言われています。

脳卒中を発症するといびきをかく理由

いびきとは狭くなった気道を空気がとおることによってでる振動音です。

通常、仰向けで寝ると重力に加えて、首まわりの筋肉がゆるむことで気道は狭くなります。

正常であれば狭くなっても、空気が十分に通る程のスペースは確保されていますが、何らかの理由で舌が落ち込んで、気道を圧迫することで通り道が狭くなり、振動音がなります。

脳卒中後のいびきの原因はさまざまであり、特に麻痺による筋の弛緩に伴う舌根沈下により気道を塞ぐために、脳卒中を発症するといびきをかくといわれています。

麻痺は手足のみでなく、顔や咽頭部にも生じるため、麻痺自体もいびきの原因となります。

また、声をかけたり、ゆすっても全く起きない場合、脳卒中後の意識障害の可能性があります。

意識障害かどうかは、痛み刺激でおきるかどうかで確かめることができます。指の爪を圧迫する(強くつまむ)、または胸骨刺激(握り拳をつくって、中指の一番出ているところで胸骨の上を圧迫する)の2種類があります。

脳卒中が疑われるケースとは

倒れている人に、声をかける、あるいは体を左右にゆすっても全く反応しない場合には、脳卒中を発症している可能性があります。

特に、覚醒が悪く、ぼーっとしている状態が続く場合は、脳卒中が強く疑われるので、すぐに救急車を呼びましょう。

また、脳卒中が疑われるケースとして、チェーンストークス呼吸が挙げられます。

チェーンストークス呼吸とは、小さい呼吸から大きな呼吸となった後再度小さい呼吸になり、10~20秒の無呼吸が起きるといったサイクルを繰り返す呼吸のことです。

この呼吸様式は、脳血管疾患による意識障害などが原因で起こります。

病院を受診するかどうかの目安

夜間の睡眠中に途中で何回も呼吸が止まって、大きないびきを認める際には危険な兆候であると考えられるので、速やかに病院を受診する必要があります。

呼吸が止まると脳や心臓、腎臓など主要な臓器にじゅうぶんな酸素成分が供給されずに、高血圧や脳梗塞、慢性腎不全などを合併する危険性が上昇します。

現在のところ、いびきを対象とした専門医療施設はまだ少ない状況ですが、総合内科、耳鼻咽喉科、循環器内科、呼吸器内科などに併設して「いびき外来」という専門外来の形態で診療が実施されている場合もあります。

そうしたいびき外来においては、普段から大きないびきを鳴らす可能性がある単純いびき症や上気道抵抗症候群、睡眠時無呼吸症候群などの疾患の有無を調査してくれます。

さらに、それらの結果に応じて睡眠中に気道が狭くなる状態を改善する、あるいは気道を広げて呼吸して流入する空気成分が通過しやすくなる治療を実践することも可能となります。

まとめ

これまで、いびきの原因となる睡眠時無呼吸症候群や耳鼻科系疾患などを中心に解説してきました。

日常的に軽視されがちな「いびき」症状ではあるものの、夜間の睡眠の質低下や日中の眠気や疲労感などを代表とする症状が出現している際には、身体に何らかの異常をきたす原因疾患が潜在化している懸念があります。

ひどいいびきを認める場合は、睡眠時無呼吸症候群、あるいは蓄膿症やアレルギー性鼻炎などに随伴して引き起こされる鼻閉症状が原因となっている場合も見受けられますので、一度専門医療機関に相談してみましょう。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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