心臓に水が溜まる病気と水が溜まる場所

「心臓に水が溜まる」と言われることがあります。具体的には、どの場所に、どういった液体が増加する状態を指しているのでしょうか?ここでは心臓の周りで液体が溜まる場所や、そうした状態を引き起こす病気について解説します。
心臓の周りで水が溜まる場所

心臓に水が溜まると言われるとき、具体的には心膜腔または胸腔に含まれる液体が増えることを指している場合が多いです。
心膜腔(しんまくくう)
心臓は、全身へ血液を送り出すポンプとしての働きを担っています。
通常は、心膜という2枚の薄い膜に包まれており、この2枚の膜の間のスペースは、心のう、または心膜腔と呼ばれています。
その中は心のう液と呼ばれる液体で満たされていて、心のう液には、心臓が摩擦なくスムーズに収縮と拡張を繰り返すことができるように潤滑油としての役割があります。
それ以外にも、心のう液で包まれていることで、心臓を外部からの衝撃から守り、ウイルスや細菌などの病原菌が直接心筋に悪影響をもたらすことを防いでいます。
胸腔
肋骨と肋間筋、胸筋を胸壁、胸壁と横隔膜に囲まれた部分を胸腔と呼びます。
胸腔の中に左右の肺と縦隔があります。縦隔は胸の中央に位置しており、そこには心臓、胸腺、リンパ節のほか、大動脈、大静脈、気管、食道、様々な神経の一部が含まれています。
縦隔は、前側が胸骨、後ろ側が脊柱、上側が胸腔への入り口、下側が横隔膜で仕切られた領域です。
片方の胸壁に穴があいたとすると、そちら側の肺はつぶれてしまいますが、もう片方の肺は膨らんだまま機能を保つことができるのは、ふたつの左右の肺が縦隔によってそれぞれ分かれているためです。
心臓や心臓の周りに水が溜まる病気

心臓や心臓の周りに水が溜まる病気としては、次のものが挙げられます。
心膜炎
急性心膜炎は、感染症や自己免疫疾患によって続発的に発症する心膜、あるいは心外膜の炎症、およびそれに伴う諸症状を呈します。
胸痛症状を自覚する疾患群の約1~5%を占めており、16~60歳代の男性で罹患頻度が高いと認識されています。
急性心膜炎は、心臓を包んでいる2層の袋状の膜である心膜部位の炎症が急性に発症する病態であり、フィブリンや赤血球、白血球などの血液成分や体液が心膜腔に貯留すると考えられています。
心膜炎の症状
心膜炎では、一般的に発熱や胸痛症状が出現し、心膜液が炎症に伴って過剰に増加して心臓を圧迫する心タンポナーデの状態に陥ることがあると言われています。
ウイルス感染症に伴う急性心膜炎の場合は、一時的に胸痛を伴うが、長期的に症状が継続することは極めて稀です。
心膜腔に貯留した体液や血液によって心臓が周囲から圧迫されることによって全身に血液を駆出する心機能が障害を受けて、貯留液が大量になり、心臓への圧迫が強度に悪化すると生命に直結して死に至る可能性もあります。
心膜炎の原因
急性心膜炎は、各種感染症や心膜に炎症を起こす疾患が原因となって発症します。
主な急性心膜炎のリスク要因としては、ウイルス、細菌、寄生虫、真菌などを含む感染症、心臓手術後(心膜切開後症候群)、全身性エリテマトーデスや関節リウマチなど自己免疫疾患、腎不全、胸部外傷、白血病や乳がんなど悪性腫瘍などが挙げられます。
特に、後天性免疫不全症候群の患者では、結核やアスペルギルス症などの感染症自体が急性心膜炎の原因になると考えられています。
心タンポナーデ
心タンポナーデとは、何らかの原因で心のう液が大量に、あるいは急速に増加して貯留してしまったために、心のう内圧が上昇し、心臓が十分に拡張することができない状態です。
言い換えれば、心臓が周囲の液体(心のう液)で押さえ込まれたような状態になる結果、心臓はポンプとして機能できなくなり、急速にショック状態(血圧が低下するために循環不全や意識障害を引き起こすこと)となります。
緊急を要する疾患であり、進行すると急速に死に至る可能性があるため、緊急入院(または救急外来)の上、心のう液が貯留しているスペースに向かって胸壁から針を刺して心のう液を排液する処置が必要となります。
場合によっては一時的に柔らかなチューブを挿入する治療(心のう穿刺、心のうドレナージ)を行い、ショック状態から救う必要があります。
貯留している心のう液の原因は、元々あった心のう液が増加する場合と心臓が破裂するなどして血液が貯留する場合などがあります。
胸水貯留
胸膜腔には健康人でもわずかな胸水が存在していて、呼吸をする際に肺と胸壁との間の抵抗を減らす潤滑油として働いています。
胸水は、壁側胸膜から産生され臓側胸膜から吸収されていますが、吸収が減少したり産生が増加したりした場合には、胸水貯留(胸に水がたまった状態)になります。
胸水が貯留している際に考えられる病気のひとつとして、胸膜炎が考えられます。
肺を包む2枚の膜が炎症を起こす胸膜炎は、体勢を変えたときに胸が痛みやすい症状として知られていますが、併せて息を吸うときに痛みが走ったり、発熱や咳などを伴ったりすることもあります。
また、炎症を起こした膜を起点として肺の内部に水が溜まると、圧迫されるような強い痛みが出現し、呼吸困難に陥る可能性も十分に考えられるので早急に対処しないといけません。
心不全との関係

心不全とは、一般的には「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」と定義されています。
医学的には、心腔内に血液を充満させ、それを駆出するという心臓の主機能になんらかの障害が生じた結果出現するため、心外膜や心筋、心内膜疾患、弁膜症、冠動脈疾患、大動脈疾患、不整脈、内分泌異常など、さまざまな要因により引き起こされるものです。
心不全による胸水貯留のメカニズムとしては、右心不全による静脈圧上昇のために胸水の吸収が低下する場合があります。
また、左心不全による肺静脈圧上昇のために生じた肺うっ血が高度になって、リンパ管からの排出を越えてしまい、胸膜腔への胸水産生が増加する場合が考えられます。
心不全による胸水は、両側性であることが多いですが、左右差があったり、片側性であったりすることもあります。
また、心不全には肺炎が合併することも少なくありません。
肺炎の炎症や感染そのものが胸膜腔まで波及すれば肺炎随伴性胸水、細菌性胸膜炎、膿胸となり、細菌性胸膜炎や膿胸の場合は、胸水細菌培養検査が陽性となります。
治療によって心不全が改善しているにもかかわらず、胸水の改善が浮腫や肺うっ血の改善よりも数日以上遅れて持続する場合、特に発熱や炎症所見陽性が持続する場合は、胸水を試験穿刺して、各種検査を行うことがあります。
まとめ
心嚢内には通常50ml程度の心嚢液が存在します。
仮に、心嚢内への出血などにより急激に血液が貯留した場合、比較的少量の血液(100ml程度)でも、急性の心タンポナーデが発生する可能性があります。
その一方で、長い経過を経て慢性的に心嚢液が増加した場合には、明らかな臨床症状を呈さないこともあります。
心のう液が貯留する主な原因としては、急性心外膜炎、悪性腫瘍、胸部外傷、急性心筋梗塞に続発する心破裂、急性大動脈解離などの疾患が挙げられます。
特に、注意すべきポイントとしては、急性心タンポナーデの場合は、心嚢内液体貯溜により循環に障害が生じている病態であり、単なる心嚢液貯留とは明確に区別して、迅速な処置を要する点です。
また、胸腔に液体がたまる原因としては、感染症、腫瘍、外傷、心不全、腎不全、肝不全、肺血管の血栓(肺塞栓症)、薬物など、数多く考えられます。
典型的な症状としては、呼吸困難や胸痛などがあり、特に呼吸や咳をしたときに現れます。
心配であれば、循環器内科や呼吸器内科など専門医療機関を受診してください。
今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。