高齢者の意識消失の原因と意識障害の種類

意識を失うことを、意識消失もしくは意識障害と言います。似ている言葉ですが、それぞれ別の状態を指し、原因となる疾患もやや異なります。ここでは意識消失と意識障害の違いや、高齢者の意識消失の原因などについて解説します。
意識消失(失神)と意識障害

そもそも意識はどのようにして保たれているのかということについてまずは説明したいと思います。
基本的に人というのは、意識を失った状態というのが基本的な状態です。そのままでは活動することはできませんから、脳が活動するために、脳の中にスイッチがあります。そのスイッチが入ることによって、意識が保たれます。
意識を保つためのスイッチには、RASと呼ばれるシステムが必要になります。RASは上行性覚醒系とも呼ばれ、脳幹という脳の中でも特に重要な機能が集まった場所に存在します。脳幹の中でもRASは橋上部、中脳、後部間脳といった広い範囲に広がっている場所にあります。
また、意識を入れるスイッチが入っても、それに従って動く部分がダメージを受けている場合には意識は入れられません。どういうことかというと、体を動かしたり感覚を受けたりする大脳が全般に機能が低下していると、意識はない状態となります。反対に、大脳も片側だけ障害を受けているだけであれば意識の障害を起こすことはあまりありません。
さて、意識消失、すなわち失神と呼ばれる状態と意識障害と呼ばれる状態は、区別して考えることが一般的です。
失神というのは一過性の意識レベルの低下を示し、しばらくすると改善してくるものを言います。概ね3分程度で回復することが多いと言われています。この失神の原因は、多くの場合脳への血流障害によって起こってきます。
特にRASの部分に対する血液の流れが悪くなることによって、意識を保つことができなくなり倒れてしまいます。しかし倒れると、重力の力に従って血液が頭の方に流れるようになり、意識が回復することが多いのです。
一方で意識障害というのは、意識を失った状態が長い時間続くことを言います。このような場合、RASの部分や大脳の両側に何らかの損傷が加わることがほとんどです。脳梗塞や脳出血、くも膜下出血のような脳血管障害は代表的なものです。血管が詰まったり破裂したりすることによって、直接的に意識を保つ部分がダメージを受けてしまうことによって意識障害を引き起こします。
また脳の直接的なダメージとして、脳ヘルニアという状態もあります。これは、一部分の脳が脳梗塞などによって大きく腫れたり、大きな脳出血があったりすることによって正常な脳も圧迫され、脳自体が脳を包んでいる膜からはみ出してしまうことによって圧迫されることを言います。
他には何らかの中毒症や、代謝障害によっても意識の障害が起こってくることがあります。薬物による中毒や腎不全による尿毒症、低血糖や低酸素血症などで意識障害は起こってきます。
意識障害の種類

意識障害はその程度によって分類があります。意識の状態は大きく意識混濁と意識変容の二つに分かれます。
意識混濁
意識混濁というのは、意識の状態が悪くなることを言います。刺激に対して反応が弱々しかったり、反応しなくなったりすることを示します。その程度によって4段階に分かれます。
傾眠
意識混濁の中の、最も軽度な状態を傾眠と言います。傾眠の状態というのは、軽い刺激を与えたり呼びかけたりすることによって目が覚めて正しく反応する状態です。ただしこのような状態でも、刺激をやめるとすぐに寝てしまいます。呼吸したり血圧を保ったりという機能に対して問題が起こることはほとんどありません。
混迷
続いて重度な状態を、混迷と言います。強く刺激を与えたり、大きな声をかけたりすることでようやく目を覚ますような状態です。他の合併症がなければ血圧を保つことに問題が起こることはあまりありませんが、呼吸については怪しい時があります。
もともと人は、仰向けで寝ていると力が抜けた時に舌が下に落ち込んで空気の通り道を塞いでしまうことがあります。これを舌根沈下と言います。この状態になってしまうと、肺を広げて空気を取り込もうとしても空気が通らず、呼吸ができない状態になってしまうのです。
傾眠の状態でも起こらないわけではないですが、混迷の状態になってしまうと、より舌根沈下になる可能性が高くなります。
半昏睡
半昏睡状態では、どれだけ強い刺激をしても、会話をしたり合目的な動きをしたりして意志の疎通を図るということはできません。強い刺激をした時に、手や足が反応して動く程度とされます。
もちろんこれぐらい意識レベルが悪いと、舌根沈下も起こりやすく、注意が必要です。
昏睡
昏睡状態というのは、外部からの刺激に対して完全に反応しない状態のことを言います。どれだけ強い刺激をしても手足は動かないか、あるいは特定の手足の形にしかなりません。
意識変容
もう一つの意識状態が意識変容です。一見すると覚醒しているように見えるのですが、支離滅裂な発言や行動をしたり、そのようなことを覚えていなかったりすることを指します。正常な意識状態ではないという風に考えるといいでしょう。
手術や入院の後に話が通じなくなるような状態はせん妄と言って、意識変容の一種です。
高齢者の意識消失の原因

意識消失をするのは、RASへの血流が悪くなる状態と説明しました。そしてそれは一過性のもので、すぐに回復するものでもあります。高齢者でこのような血流の異常が出るのは、どのような病気の時でしょうか。
起立性低血圧
起立性低血圧というのは、いわゆる立ちくらみの症状です。
人は心臓から血液を送り出します。心臓は体の真ん中に存在し、血液は心臓の動きによって送り出されて、全身を巡り、心臓に帰ってきます。しかし、人の体には重力がかかっています。そのため血液は、体の下の方に集まりやすくなります。
寝ている時は重力の影響がほとんどなく、頭にも血液が巡ります。しかし立ち上がると、血液が足の方に巡り、頭の方にあまり巡らなくなってしまいます。こうなると頭への血の巡りやRASへの血流が不十分となり、意識を失ってしまいます。
それを防ぐために、体は自立神経系によって対策を取っています。具体的には、立ち上がった時に下の方になる血管を収縮させることによって、血があまり巡らないようにし、頭に十分に血液が巡るようにするのです。
このシステムを維持している神経は交感神経と副交感神経です。交感神経と副交感神経は、互いに抑制し合うことによってバランスを取り、必要な時に交感神経が、また別の作用が必要な時に副交感神経が働くことによって、体のバランスをうまくとっているのです。
血管の収縮を担当しているのは、交感神経です。交感神経が強く働くことによって、血管が収縮するのです。
しかし高齢になってくると、このバランスを取る機能が弱まってしまいます。すると立ち上がった時に、血液が足の方に行きやすくなり、立ちくらみを起こしやすくなるのです。軽度であればクラクラする程度で済みますが、重度になると意識を失います。
一部の高血圧の薬を服用したり、アルコールを摂取したりすることによって血圧が下がりやすい状態になります。
反射性失神
反射性失神というのは、前述の自律神経系のバランスが、何らかの原因で急激に崩れることによって、副交感神経系が急に優位になり、頭への血流が阻害されることによって起こる失神のことを言います。
反射性失神の中には、血管迷走神経失神、頸動脈洞症候群、状況性失神があります。
血管迷走神経失神
血管迷走神経失神というのは、何らかの原因で急に副交感神経系のスイッチが入り、自律神経系のバランスが崩れることを言います。採血や点滴など、血管に針が入った時に多く起こってきます。採血の時に気が遠くなるのはこれに該当します。
頸動脈洞症候群
頸動脈洞症候群は頸動脈にある頸動脈洞が圧迫されることによって起こる反射のことです。頸動脈洞には副交感神経が多く分布しているため、刺激されることによって急に副交感神経のスイッチが入ってしまうのです。
状況性失神
状況性失神というのは何らかの日常的な動作が誘引となって起こる失神です。排尿や排便、咳や嘔吐などがスイッチとなることが多いです。これらの動作では副交感神経が優位になるために、過度に副交感神経が刺激されることによって、症状が起こることがあります。