片目のまぶたが下がる眼瞼下垂は脳が原因?動眼神経麻痺とは

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片方のまぶたが下がってきたことはありませんか?

高齢になってくると片方のまぶたが下がってくることがあります。そのようなときはどうしたらいいのでしょうか?

急いで医療機関を受診しなければいけないのか、それとも、しばらく様子をみてもいいものなのか判断に迷いますよね。ここではまぶたが下がる眼瞼下垂について詳しく見ていきましょう。

まぶたが下がる眼瞼下垂とは

眼瞼下垂とは、その名の通りまぶたが垂れ下がってきて、ものが見えにくくなる病気です。

上まぶたを自分でしっかりと上げることができなくなり、正面を向いた状態で瞼縁が瞳孔にかかった状態となります。まぶたが重い、物が見えにくい、上方の視野がせまいといった症状が現れます。

さらにまぶたが挙上できないために、おでこの部分の筋肉を使ってまぶたを上げようとすることによる眉毛挙上や、首を後ろに倒して見ようとする頸部後屈によって、頭痛や肩こりの原因となることもあります。

主に先天性眼瞼下垂と後天性眼瞼下垂、また一見眼瞼下垂のように見えるけれど眼瞼下垂ではない偽眼瞼下垂の3つに分類されます。

先天性眼瞼下垂

先天的に上眼瞼挙筋というまぶたを持ち上げる際に使われる筋肉の発達異常や、その筋肉を支配する神経に異常をきたしている場合が多いです。8割の方は片目だけの発症であり、ほとんどの場合は視覚機能に問題はなく、手術をする必要はありませんが、乱視(屈折異常)の原因となることがあります。

乱視度がdiopter1.5から2.0度異常になると弱視につながる可能性があるため、定期的に眼科の通院が必要となります。悪化を認める場合は手術を検討することが望ましいです。

後天性眼瞼下垂

後天性とは、もともと正常に開眼できていたのに、徐々にあるいは急にまぶたが下がってきた状態です。開眼するためには2つの筋肉が必要となります。一つは上眼瞼挙筋で、もうひとつはミュラー筋です。上眼瞼挙筋は動眼神経が支配しており、ミュラー筋は交感神経が支配しています。

よって脳―脳幹―動眼神経―上眼瞼挙筋と、脳―関鎚―肺尖部―内頸動脈―ミュラー筋の2つの経路の過程に障害が生じた場合に眼瞼下垂を起こします。

ほとんどの場合は、上眼瞼挙筋の末端部の腱が伸びたりゆるんだりすることで、少しずつ眼瞼下垂を引き起こす腱膜性眼瞼下垂です。

これは、加齢性の眼瞼下垂がもっとも多いですが、ハードコンタクトレンズの長期装用者や内眼手術をしたことある人もかかる場合があります。頻度は高くないですが、動眼神経麻痺や重症筋無力症などの神経接合部の障害、脳腫瘍や筋ジストロフィーなどの疾患が隠れている場合があります。

この場合は、眼科単独で眼瞼下垂の原因を探るのではなく、脳神経内科や脳神経外科などの専門医が必要になります。

偽性眼瞼下垂

これは眼瞼下垂ではありません。しかし、眉が下がる眉毛下垂、まぶたの皮膚がゆるむ皮膚弛緩症、目のまわりの筋肉が痙攣する眼瞼痙攣、目がくぼんでいる眼球陥凹、反対と比べると目が小さい小眼球症、腫瘍などでまぶたが押されるなどが原因となり、一見眼瞼下垂のように見えてしまいます。

眼瞼下垂の原因になる動眼神経麻痺

動眼神経麻痺は、脳神経のひとつである動眼神経の障害です。動眼神経は、そのほかの神経である滑車神経、外転神経の2つの神経と共に、眼球を動かす筋肉を支配しています。

そのなかで動眼神経は、眼球を鼻側方向に向ける内直筋、上下に向ける上直筋、下直筋、外方向に回転させる下斜筋を支配しており、異常や麻痺があれば支配筋肉を動かせなくなります。

さらに動眼神経は、瞳孔を調節する瞳孔括約筋とまぶたを上げる上眼瞼挙筋を支配しています。そのため、動眼神経に障害が生じると、上眼瞼挙筋の麻痺が起こり、まぶたを上げる力に影響が及んで眼瞼下垂が引き起こされます。

そのほかにも、片目でものを見るときに眼の位置がずれる斜視がみられ、その結果ものが二重に見える複視などの症状が生じます。瞳孔括約筋も麻痺するため、障害側の瞳孔が散大します。

動眼神経麻痺の原因としては、血管障害、糖尿病、脳動脈瘤、感染(眼部帯状ヘルペス等)、脱髄疾患、頭部外傷、脳腫瘍、海綿静脈洞病変などが挙げられます。複視、眼球運動障害、眼瞼下垂、瞳孔散大などの症状の組み合わせや程度はさまざまです。下記で一部の疾患について詳しく見ていきましょう。

動眼神経麻痺を引き起こす脳の病気

次に挙げる脳の病気は動眼神経麻痺を引き起こすことがあります。

脳腫瘍

動眼神経麻痺の原因として、一番多いのが脳腫瘍です。くも膜下腔に存在する脳腫瘍である場合、腫瘍によって動眼神経が圧迫されると動眼神経麻痺を生じます。

頭部外傷

頭部外傷により、急性硬膜下血腫や脳挫傷などの出血がみられ、血腫量が多い場合、脳圧が亢進して、鉤ヘルニアという脳ヘルニアが生じます。脳ヘルニアとは、脳の各部分を仕切っている比較的硬い組織の壁にある小さな穴から脳が下に押し出されると起こります。この場合、散瞳といった症状が強く現れますが、意識障害が前面に現れます。そのため、緊急で脳神経外科を受診する必要があります。

脳動脈瘤

瞳孔障害や頭痛などがある場合は、脳動脈瘤が動眼神経を圧迫していることが原因である可能性が高くなります。

内頸動脈―後交通動脈分岐部動脈瘤が原因としては最多となります。次いで海綿静脈洞内動脈瘤、上小脳動脈―後交通動脈分岐部動脈瘤の順となります。

動脈瘤による動眼神経の圧迫症状は散瞳の症状が前面に出やすいです。その理由としては、縮瞳に関わる副交感神経が、動眼神経の周辺部分を走行しているからです。動脈瘤圧迫による動眼神経麻痺は、動脈瘤が切迫破裂の状態にあるため、緊急手術の対象となります。そのため、散瞳が前面に出現している場合は、脳神経外科をすぐに受診しましょう。

いかがでしたでしょうか。まぶたが徐々に下がってくるといった症状は高齢やハードレンズの長期装用で生じます。しかし、急にまぶたがさがったり、それ以外に頭痛や散瞳、複視などが見られる場合は要注意です。様子をみようとせず、すぐに医療機関を受診することをおすすめします。

白水寛理

九州大学病院 脳神経外科 医師   九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。 日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

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