三叉神経痛の原因は?なりやすい人と間違えやすい疾患

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三叉神経痛という病気があります。主に顔面の痛みを感じる病気で、ひどいときには痛みのために日常生活が送れなくなってしまうこともあります。

ここでは三叉神経痛がどのような原因で起こるのか、どのような人がなりやすいのかについて解説します。

三叉神経とは

三叉神経とはどのような神経なのかを確認しておきましょう。

人体の神経には様々なものがありますが、その神経が出ている場所によって大きく分けて二つに分かれます。

ひとつは脳神経です。その名のとおり、脳から出て、ほとんどが頭部や頸部の運動や感覚を伝える神経になります。全て左右一対となっており、全部で12種類の神経があります。その12種類は1番目から12番目まで番号がついており、それぞれが特徴的な働きをします。

例えば1番目の脳神経は嗅神経です。その名の通り、神経が鼻に至って、匂いを感じるための神経です。

もうひとつは脊髄神経です。こちらもその名の通り、脊髄から出ている神経です。こちらも左右一対ずつ存在し、首から下の感覚や運動をコントロールしています。

三叉神経というのは、これらの神経の中でも脳神経に分類される神経です。脳神経の中でも5番目の脳神経で、脳の中でも脳幹と呼ばれる生命維持に重要な役割を果たす部位から出ています。

3本に分かれた三叉神経の働き

三叉神経の名前の由来は、脳幹から出てきた神経が、出てすぐに3本に分かれる事から名付けられています。そして分岐した神経はそれぞれ第1枝、第2枝、第3枝と呼ばれます。それぞれの神経が向かっていく部位に合わせて、第1枝が眼神経、第2枝が上顎神経、第3枝が下顎神経と言います。

三叉神経の働きは、ほとんどが顔面の感覚を伝える感覚神経です。唯一第3枝だけが、顎を動かす神経を支配する運動神経の役割も担っていますが、それ以外は全て感覚を伝えています。また、第3枝は顔面の感覚だけでは無く舌の感覚も担っているという特徴があります。

三叉神経は3本に分かれていますから、顔面の感覚も、大きく分けて3分割して伝えられます。第1枝は目尻から上、第2枝は目尻から下、口角より上、第3枝が口角から下を担当します。また、正中から左右それぞれを左右の神経が分担しています。

このように、三叉神経は左右3本ずつ合計6本が、顔面を6分割して感覚を伝えています。そのため、どの部分の感覚に異常があるかによって、どの神経が障害を受けているのかを診断することができるのです。

三叉神経痛とは

三叉神経痛というのは、顔面に急に「刺されるような」痛みが走る病気です。特に40代から60代の女性に多いとされています。

三叉神経痛は確かに顔面の痛みですが、顔面全体が痛くなるわけではありません。前述の通り、三叉神経は顔面を6か所に分けてそれぞれの神経が担当して感覚を伝えるのですが、痛みはこれらの神経が支配している領域に一致しておこります。

特に多いのは、片側の第2枝と第3枝にまたがって痛みが起こる場合です。両側性に起こる事は少なく、また1つの領域のみに痛みが起こる事も少ないと言われています。

この三叉神経痛は持続的な痛みではなく、突然起こるのが特徴的です。また、顔面への刺激で誘発される事が多くあります。刺激と言っても、強い刺激ではなく、顔面に触れる、顔を洗う、会話をする、食事をする、冷たい風が当たる、歯磨き、ひげそりなどの、日常生活で普通にあるような顔面への何らかの刺激が誘因となります。

トリガーポイントとは

また、この顔面への刺激には特徴があり、顔面のある場所を触れると痛みが誘発されやすい場所というものが存在します。この場所のことをトリガーポイントといい、トリガーポイントが圧迫されたときに痛みが誘発されるようなら三叉神経痛の可能性が非常に高いと考え、診断の一助となります。

トリガーポイントは、実はそれぞれの神経が頭蓋骨の中から顔面に出てくるところになります。三叉神経の第1枝は眼の中心よりやや外側の上、眉にかかるあたりです。丁度頭蓋骨の眼球が入っている穴の辺縁ですが、すこし凹みを触れることができます。また、第2枝のトリガーポイントは眼の下でやや内側よりの部分、第3枝の下顎、正中よりやや外側付近に存在します。

痛みの特徴

痛みの性状としては、誘因があった後に突然痛みが起こり、数秒から数十秒持続します。また、一度痛みがましになった後すぐに再度痛みが起こってくる事もあり、繰り返すのも特徴です。

痛みの強さは非常に強く、痛みのせいで活動ができなくなってしまう人も多くいます。特に痛みが強い人などは、痛みが強すぎて立つこともままならず、横になって数日過ごし、床ずれができてしまったという話しも聞きます。

痛みは神経の痛みですから、普通の怪我や筋肉痛といった痛みとは全く違うため、通常の痛み止めはほとんど効果がありません。これも非常に生活の質を落とす原因となってしまいます。

また三叉神経痛の痛みの特徴として、一時期に強い痛みで発症した後、しばらく症状が続いた後はいったん全く痛みのない寛解期という時期を過ごす場合があります。この時期は数か月から数年続きますが、それだけの時期を経過した後は再度痛みを感じるというように、痛みの時期が来たり収まったりを繰り返すことも多くあります。

これらの時期には痛みがないため日常生活を普通に送ることができるだろう、と思われるかもしれませんが、患者さんはいつかまた同じような痛みが起こるかもしれないという恐怖から、日常生活がままならなくなってしまうこともあります。

三叉神経痛の原因

三叉神経痛はどのような原因でおこってくるのでしょうか。

基本的な考え方として、三叉神経痛は、顔面から感覚を伝える神経の道筋のどこかで圧迫を受ける事で起こってきます。顔面の皮膚の感覚を伝える神経は頭蓋骨の中を通り、脳幹まで至ります。

脳幹に入った神経は脳幹の中で感覚の情報を伝達し、大脳の感覚を検知する場所まで情報を伝えます。これらの経路のどこかで神経を圧迫される事で三叉神経痛が起こってくるのです。

神経が圧迫される原因によって、二次性三叉神経痛と特発性三叉神経痛とに分類されます。それぞれどのような原因でおこってくるのでしょうか。

二次性三叉神経痛の原因

まず二次性三叉神経痛から解説しましょう。

二次性というのは、元々何らかの病気があって、それに伴って三叉神経痛の症状も出現しているものを言います。病気の例としては、脳腫瘍、嚢胞、脳動脈瘤をはじめとした血管の奇形や異常、多発性硬化症などの病気が挙げられます。

これらの病気によって神経の伝達路が圧迫される事で三叉神経痛が起こってくるのです。

特発性三叉神経痛の原因

一方で、上記の様な疾患がないのに三叉神経痛が起こってくるのが特発性三叉神経痛です。

疾患はないのですが、ほとんどの場合は神経が圧迫されていることによっておこってきます。特に圧迫を受けやすいのが、三叉神経が脳幹から出てきてすぐのところです。この場所は、非常に狭い範囲に神経や血管が張り巡らされています。

とくに三叉神経の近くには上小脳動脈、前下小脳動脈といった、小脳に至る動脈が走っています。これらの神経は三叉神経第2枝、第3枝に分岐するすぐ近くを走行しているため、すこしの蛇行によって三叉神経の根元から分岐部付近を圧迫してしまい、神経に損傷を来してしまいます。

この圧迫は、神経の根本付近以外ではなかなか神経障害まで至りません。というのは、神経と血管が接していたとしても、神経が自由に動けるような場所であれば神経が血管からの圧迫を全面に受けること無くいられるのに対し、根元付近では神経が動けないために血管からの圧迫の力を全面に受けてしまい、損傷してしまいます。また、神経の根元辺りには神経線維を保護する細胞の層が薄いという特徴もあり、より神経損傷が起きやすいという事情もあります。

また、多くは動脈の圧迫が原因と説明しましたが、他の原因として神経自体がややねじれていたり、静脈が近くを走行していたりといった理由で神経損傷が起こる場合もあります。

三叉神経痛と間違えやすい疾患

顔面の痛みを来す疾患が三叉神経痛と間違えやすい疾患としてあげられます。

例えば歯の痛みを三叉神経痛とまちがえることがあります。これは、歯が痛いのに三叉神経痛と思い込んで様子を見ていて虫歯が持続してしまうという場合もありますし、反対に三叉神経痛があるのに、片方のほっぺがジンジンと痛むために歯科を受診し、歯には異常が無かったという場合もあります。

他の原因としては、三叉神経領域における帯状疱疹が挙げられます。帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウイルスによる感染症です。小児期に水疱瘡に感染した場合、数日で感染による症状は落ち着きます。しかし、ウイルス自体は体から完全にいなくなる訳ではなく、神経細胞の中に潜んでいます。何らかの原因で体の免疫機能が低下してしまうと、ウイルスが急に増殖を始めてしまいます。増殖したウイルスは神経に沿って広がり、それに伴って痛みを感じ、皮疹が出現します。これが三叉神経領域に起こると三叉神経痛と同じような症状が三叉神経の領域でおこってきます。

皮疹がないうちは、鑑別するのはなかなか難しいのですが、多くの場合帯状疱疹による痛みは持続性で、誘発によって痛みが起こるという三叉神経の特徴が無い場合が多いです。

このように、三叉神経痛は痛みという症状のみで診断がなされますから、鑑別がすぐにできないことも時折あります。医師としては問診をしっかりすることで鑑別を行い、適切な診断につなげていくことになります。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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