膵嚢胞と膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)…膵がんとの関係と経過観察
膵嚢胞は、膵臓(すいぞう)の内部や周囲に「液体のたまり」ができる病気です。なかでも膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)は良性から悪性へと徐々に変化していくことが知られています。ここでは膵嚢胞の種類や膵がんとの関係、経過観察を行う理由などについて解説します。
目次
膵嚢胞(すいのうほう)とは
嚢胞(のうほう)とは液体の入った風船のような袋のことです。
膵嚢胞とは、液体成分を内部に含む嚢胞が膵臓に形成される病気のことを指しており、基本的には無症状で経過することが多く、検診などで偶然指摘されることがあります。
膵臓の中もしくはその周囲にできた嚢胞を膵嚢胞と呼び、多くの場合は無症状であり、画像診断によって大きさは数㎜程度の小さなものから10cmを超えるものまでさまざまな病変が発見されて、1個だけの場合もあれば複数個認める場合もあります。
膵嚢胞は先天的なもの、後天的なものなど種類が多彩であり、がんと関連するものもありますし、生まれつき先天的に発症することもあれば、後天的な要因によって発症する症例もあります。
特に、後天的に発症する場合には、膵炎や腹部の外傷、アルコールの大量摂取などが原因となることがあります。
がんの発生が懸念される場合があり、また、原因や膵嚢胞の性質によって治療が異なることから、診断の際には詳細な評価が重要となります。
膵嚢胞は無症状で経過し、検診などで行われた超音波検査やCT検査などをきっかけとして偶然に病変を指摘される場合や、腹痛や嘔気などの症状が認められる場合もあります。
また悪性腫瘍との関連性が強い膵嚢胞の場合には、病気の進行とともに体重減少や食欲不振、倦怠感などの全身症状が出現することがあります。
腫瘍性嚢胞と非腫瘍性嚢胞
膵嚢胞は、腫瘍性嚢胞と非腫瘍性嚢胞に大きく分けられています。それぞれの特徴を確認しておきましょう。
腫瘍性嚢胞
腫瘍性嚢胞は膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、粘液性嚢胞腫瘍(MCN)、漿液性嚢胞腫瘍(SCN)などに分けられています。
基本的には、膵臓で作られた膵液を十二指腸へと流す膵管の粘膜に粘液を合成する腫瘍細胞ができて、この粘液が膵内にたまって袋状に見えるものが「腫瘍性膵嚢胞」となります。
腫瘍性膵嚢胞のなかでも、膵管内乳頭粘液性腫瘍が最も多い頻度で認められます。
粘液性嚢胞腫瘍は、中年の女性に多く、粘液が貯留した嚢胞を形成し、悪性の可能性が高いため手術治療がすすめられますし、漿液性嚢胞腫瘍も中年の女性に多く、良性の可能性が高いですが、サイズが増大するケースでは手術治療を実施する場合があります。
非腫瘍性嚢胞
非腫瘍性嚢胞は膵臓仮性嚢胞、リンパ上皮嚢胞などに分類されます。
特に、前者の膵臓仮性嚢胞は膵炎や外傷後にできた嚢胞であり、嚢胞内部の成分は膵液や壊死組織、炎症によって滲みだした液です。
小さいサイズの嚢胞であれば自然に消退することもありますが、しっかりした膜を持たないために液が貯留し続けて嚢胞のサイズが巨大化することもあります。
大きな仮性膵嚢胞によって腹痛を生じる、あるいは細菌感染を引き起こすことがありますし、膵液が強力な消化液であるために周囲の臓器や血管に影響をおよぼして、消化管に穴を開けて消化管穿孔を引き起こす、あるいは周囲血管から出血する場合もあります。
大きな仮性膵嚢胞に対しては内視鏡を利用して、胃の中から嚢胞に管を通して嚢胞内の液を胃内に排出する治療が検討されます。細菌感染を合併した仮性膵嚢胞に対しては外科的な切除手術を実施することもあります。
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の種類
IPMNは大きく分けて3つのタイプがあります。
分枝型IPMN
膵臓の中には膵液を集めて十二指腸まで誘導する膵管という細い管があり、膵管の枝に発生するタイプを分枝型IPMNと呼びます。
分枝型IPMNは、時に嚢胞が多数重なり合って、あたかも葡萄の房状に見えることがあり、主膵管と交通する分枝が5mm以上に拡張しています。
悪性(がん)の頻度は低く、悪性化の頻度も年率わずか2~3%といわれています。
しかし、嚢胞の大きさが3cm以上であったり、嚢胞の中に腫瘍状の結節(隆起性病変)が見られたり、あるいは嚢胞壁が厚くなっているような場合は悪性の可能性が高いことが報告されています。
主膵管型IPMN
一方、膵管本幹(主膵管という)から発生するものを主膵管型IPMNと呼びます。
この場合、主膵管の内側の腫瘍性細胞から産生された粘液により膵液の流れが悪くなり、主膵管が全長にわたって、太くなるのが特徴であり、主膵管が5mm以上に拡張している場合をいいます。
分枝型IPMNと異なり、悪性(がん)の頻度が高いため注意が必要であり、主膵管の太さが10mm以上の場合はハイリスク群と考えられています。
特に、主膵管内部に腫瘍状の結節(隆起性病変)が認められた場合には、がんの可能性がさらに高くなります。
混合型IPMN
IPMNは一か所だけでなく、膵臓のいたるところに発生することがあるので、分枝型と主膵管型が併存した、混合型IPMNというものもあります。
主膵管の中に腫瘍ができて、全体的あるいは部分的に拡張する主膵管型IPMNと、ブドウの房状に多房性の嚢胞の形を呈する分枝型IPMNの両者が混在するタイプが混合型IPMNとなります。
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)と膵がんの関係
膵管内乳頭粘液性腫瘍は、過形成や腺腫と呼ばれる良性の病変から、膵がんなど悪性の段階までさまざまなフェーズがあり、良性から悪性へと徐々に変化していくことが知られています。
膵管内乳頭粘液性腫瘍と診断された場合には、病変が良性なのか、悪性度の高いがんに変化していないかを慎重に見極めることが重要になります。
膵臓の中には主膵管と呼ばれる膵臓が作る消化液、膵液が流れる管があって、主膵管は文字通り木の枝のようになっている分枝膵管とつながっていますが、膵管内乳頭粘液性腫瘍は解剖学的にこの主膵管や分枝膵管内に認められます。
また、膵管内乳頭粘液性腫瘍はドロッとした粘液も作り出す性質もあって、その粘液内容物は流れにくいので膵臓からは排出されにくく、やがて膵管の中を埋め尽くすように変化します。
そのような状況では、腹部超音波検査や腹部造影CT検査などの画像検査を実施すると通常よりも拡張した主膵管が描出して指摘できるようになります。
特に、主膵管に認められる膵管内乳頭粘液性腫瘍の場合には、胆管内を流れる胆汁の流れが悪くなって黄疸症状が出現し、がん化して悪性腫瘍に進展している可能性が高く、手術治療が推奨されます。
また、分枝膵管内に膵管内乳頭粘液性腫瘍ができているケースは「分枝膵管型IPMN」と呼ばれていて、分枝膵管内がだんだん拡張する形状を「ぶどうの房状」と表現することもあります。
分枝膵管に認められる膵管内乳頭粘液性腫瘍では、がん化の可能性が高く、積極的に手術加療を強くすすめる代表的な所見としては、主膵管のサイズが10ミリメートル以上であり、黄疸症状がある、あるいは画像検査で造影される結節病変を認める場合です。
膵管内乳頭粘液性腫瘍は、長い年月をかけてゆっくりと病状が進行していき、通常慢性膵炎、肥満、喫煙、アルコール摂取などが発症リスクとして考えられています。
膵管内乳頭粘液性腫瘍で注意するポイントは、嚢胞自体ががん化する場合がある、あるいは嚢胞以外の膵内に膵がんが発生する可能性があることです。
膵管内乳頭粘液性腫瘍ががん化する確率は年単位で1%程度と言われており、慎重な経過観察が必要です。
さらに、通常型の膵がんの発生を早期に発見することが大切であり、造影CTやMRCPなどの画像検査や内視鏡検査を組み合わせて経過を慎重に観察していきます。
膵嚢胞の検査と経過観察
膵管内乳頭粘液性腫瘍の大部分を占める分枝型IPMNは、良性病変であることが多いですが、10年間の経過観察中に平均4.4%前後の通常型膵がんの併存が報告されていて、膵がん発症のリスクが比較的高いと考えられています。
したがって、分枝型の膵管内乳頭粘液性腫瘍と診断された場合は、その後の手術適応の有無も含めて、悪性化の兆候がないか、また膵がんが併発しても早期に指摘できるように、経過観察をしていくことになります。
治療は、膵嚢胞の種類によって異なり、膵炎や外傷による仮性嚢胞の場合は、経過中に出血や感染症を起こすことがあるために、点滴や絶食、抗生物質などによる内科的な治療、あるいは場合によっては手術が実施されます。
膵嚢胞の種類によって対応が異なるため、検診などで指摘を受けた場合には、詳細な診断を受けることが重要であり、特にがんの発生が懸念される場合には、前向きに手術加療が行われる場合もあります。
膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の治療
分枝型IPMNは治療を必要としないものが大半を占めていますが、一部には癌化を疑って手術を検討すべきものがあり、その際には、IPMNの治療の基本は病変の完全切除となります。
明らかに進行がんになってしまった場合の治療法は通常の膵がんと同様であり、最近では膵臓に対する腹腔鏡下手術のほとんどが保険適用となりました。
具体的には、IPMNが膵体部あるいは膵尾部に限局している場合に膵尾側除術が行われ、がんの疑いが少ない場合には、状況によって脾臓を残すことも可能です。
また、病変が膵体部に限局し、がんの可能性が少ない場合に膵中央切除術が選択されます。
この場合には、膵臓の中央部を小範囲だけ切除するため、膵臓の多くを温存することができるという利点がある反面、尾側膵に対する再建術が必要です。
そのため、膵離断面が2か所になり、術後膵液瘻(膵液が漏れ出し、重篤化することがある)の発生率が高まるといった短所もあります。
そして、IPMNが膵頭部に存在する場合に膵頭十二指腸切除術が選択されます。
まとめ
これまで、膵嚢胞とはどのような病気か、膵がんとの関係と経過観察などの治療方針を中心に解説してきました。
膵嚢胞とは、膵臓の内部や周囲にできるさまざまな大きさの「液体のたまり」のことです。
典型的な症状はなく、CTやMRIなどにより偶然見つかることの多い病気であり、急性膵炎や慢性膵炎など炎症に伴ってできる良性嚢胞もある一方で、炎症とは関連のない腫瘍性膵嚢胞というタイプもあります。
特に、IPMNと呼ばれている膵管内乳頭粘液性腫瘍は、注意すべき膵臓にできる嚢胞病変の一種であり、膵液の流れる膵管内部に、盛り上がるように増殖する腫瘍であり、豊富な粘液を分泌することが特徴のひとつです。
膵管内乳頭粘液性腫瘍は非常にゆっくりと進行するため、ほとんどの場合には顕著な症状はありません。
ところが、産生された粘液によって膵液の流れが妨害されると膵炎を発症して腹痛や背部痛をきたす、あるいは病変が巨大化すると胆管が圧排されて黄疸が生じる、膵機能が低下して糖尿病を発症することも見受けられます。
膵嚢胞が心配な方は消化器内科など専門医療機関を受診するとよいでしょう。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。