緊急の治療を要する脳ヘルニアの特徴と種類
ヘルニアと聞くと、腰椎椎間板ヘルニアや鼠径ヘルニアなどが思い浮かばれると思います。実は脳にもヘルニアが存在します。ここでは脳ヘルニアについて詳しく見ていきましょう。
目次
脳ヘルニアの特徴
脳ヘルニアとは、脳腫瘍、脳内の出血、他の腫瘤、または病気(肝不全や腎不全など)によって頭蓋内の脳圧が高くなり、脳の中にある境界や隙間から、脳組織の一部がはみ出す状態のことです。
頭蓋骨には一定の体積の脳や髄液しか収まりません。ある程度の上昇までは脳ヘルニアは起こらず、脳が変形した状態になります。しかし、脳圧が一定以上に上昇すると、脳の変形だけでは耐えられず、脳内の境界や隙間に脳が入り込んでしまうのです。
脳ヘルニアは重症の脳疾患が原因になって生じることが多く、原因の早期診断と早期治療が非常に重要となります。
脳ヘルニアの原因
脳ヘルニアの原因としては、主に2つに分けられます。脳の外的損傷と内的損傷です。頭部を強打した際に頭蓋骨の脳にまでダメージが及び、急性硬膜下血腫や脳内出血などによって脳実質を圧迫する場合が外的損傷です。
大きな脳腫瘍や水頭症、脳浮腫により脳実質自体の体積が大きくなっている場合が内的損傷です。
脳ヘルニアの症状
脳のどの部位が圧迫されているかに応じて、みられる症状もさまざまです。具体的には、以下のような症状があります。
呼吸パターンの異常
進行すると自発呼吸困難から呼吸が異常に早くなったり不規則に遅くなったりします。さらに進行していくと呼吸困難から呼吸停止して脈が乱れ、血圧が低下すると救命の可能性が低くなります。
不随意な筋収縮
頭が後ろに傾いて両腕と両脚は伸びたままになることがあり、この状態は除脳硬直と呼ばれます。あるいは、両脚が伸びて両腕は曲がったままになることもあり、この状態は除皮質硬直と呼ばれます。全身がだらりと緩むこともあります。
眼の異常
片方または両方の瞳孔が散大し、光に反応して収縮しなくなることがあります。あるいは、瞳孔が小さくなることもあります。眼球が動かなくなったり、動きが異常になったりすることもあります。
その他の症状には、吐き気、嘔吐、項部硬直、頭痛、眠気の増加などがあります。
脳ヘルニアの検査
脳ヘルニアは、意識や瞳孔の状態、除脳硬直などの臨床症状から判断していきます。CTスキャンなどの画像診断装置を使った検査がメインの方法となります。画像診断装置では、左右の脳が通常左右対称であるはずですが、これがヘルニアの影響でゆがんで見えたり、頭蓋内圧の亢進のために脳の隙間がなくなり見えなくなるなどの状態が見られます。
脳ヘルニアの治療
脳ヘルニアの治療は、症状が発見されたその時点でただちに治療を行わなければなりません。脳圧上昇の原因となる病変の治療と、脳圧を下げるための治療、全身管理が並行して行われます。致命的な脳ヘルニアが生じている時には脳圧を下げる治療が優先されます。
脳圧を下げる治療
脳圧を下げる作用がある薬の投与や頭蓋骨の一部を取り去って圧を開放する開頭減圧術、脳へのダメージを軽減する低体温療法が行われることがあります。また、急性水頭症を併発し、さらなる脳圧上昇の原因となっている場合には、緊急で髄液のドレナージを行い、水頭症によるダメージ改善を目指します。
原疾患の治療
脳圧上昇の原因となる病変の切除を行います。頭部外傷などで脳組織に広い障害がある場合には、血腫だけでなくその部分ごと切除することがあります。
全身管理
呼吸障害がある場合には人工呼吸器管理を行い、呼吸状態の安定化をはかります。また、免疫力の低下によって感染症にかかりやすくなり、血糖をコントロールする力も低下するため、全身の管理が必要になります。
脳ヘルニアの種類
脳ヘルニアは発生部位と嵌入する部位によっていくつかの種類に分けられます。以下に挙げていきます。
帯状回ヘルニア
脳出血、脳梗塞、脳腫瘍など、片側の大脳半球を圧迫するような病変が出現した時に、病変がある側の大脳が圧迫を受けます。その結果、帯状回と呼ばれる脳が病変のある側から反対側へ飛び出るヘルニアを帯状回ヘルニアと言います。
麻痺やしびれなどの運動障害や感覚障害を生じますが、生命に大きく関わるような重篤な症状は基本的に起こりません。
テント切痕ヘルニア
脳出血、脳梗塞、脳腫瘍など、大脳半球を圧迫するような病変が出現した時に、大脳が小脳と脳幹と大脳との間を仕切っているテント切痕から押し出されます。これをテント切痕ヘルニアや鉤ヘルニアと呼びます。
ここの部位には脳幹や、この付近を通る動眼神経があり、圧迫を受けることで脳幹の機能障害や瞳孔不同が出現します。瞳孔の左右差はこのヘルニアの徴候であり、意識障害や呼吸障害が生じます。また、麻痺や視野障害、対光反射の消失がみられます。
小脳扁桃ヘルニア
小脳扁桃ヘルニアとは、小脳の一部が、大後頭孔を通じて頭蓋骨の外に飛び出した状態のことを言います。小脳扁桃というのは、小脳の一番下にある部分です。後頭蓋窩に3cmを超える大きな病変があるときや、大脳の病変によりテント切痕を超えて大脳が落ち込んできた時、二次的に圧迫を受けて生じることもあります。
その結果、呼吸、心拍数、血圧を制御している脳幹が圧迫されて機能不全を起こします。また、髄液の流れが途絶えることで閉塞の水頭症を引き起こすこともあります。
上行性テント切痕ヘルニア
小脳に病変があるとき、圧迫された小脳は大後頭孔から頭蓋外へ飛び出るのみならず、小脳テントを超えて上へも飛び出ます。これを上行性テント切痕ヘルニアと言います。中脳の血管に歪みを生じさせ、小脳の動脈を閉塞させ、小脳の梗塞を引き起こします。
いかがでしたでしょうか。ヘルニアと聞いて一般的に思い浮かべる腰椎椎間板ヘルニアや鼠径ヘルニアと比べ、脳ヘルニアは緊急での治療が必要となります。脳ヘルニアが生じた際には一分一秒で症状が悪くなっていくため、意識障害や瞳孔不同が現れたらすぐに救急車を呼んで医療機関を受診しましょう。