注意欠如多動症(ADHD)の特徴とレビー小体型認知症との関係【Doctors’ Columns #03-1│河野和彦】
医療業界で活躍する専門家をお招きし、現場で感じたことを自由に執筆いただく、Doctors’ Columns。第3回は名古屋フォレストクリニック院長 河野 和彦さんに「発達障害の中でも特に注意欠如多動症(ADHD)」をテーマに執筆いただきました。
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こんにちは、私は65歳の開業医です。
最近、発達障害の話題がマスメデイアに多く流れるようになりました。あなたの周辺でも、そういう話題になることはありませんか。間違った知識で偏見が生まれてもいけないし、思い切って医者を訪ねることでバラ色の気分になれることもあります。ぜひ、ご一読ください。
今回は、発達障害の中でも特に注意欠如多動症(ADHD)を取り上げます。後半はレビー小体型認知症との関連にもふれています。
発達障害とは
注意欠如多動症(ADHD)、自閉症スペクトラム、限局性学習障害(LD)の3種類を総称して発達障害と言います。
LDは、読み書き、算数など特定の科目だけ極端にできない状態で、小学校の時点でわかるため大きな問題にはなりにくいです。そこで、社会との軋轢をおこしてしまう大人の発達障害としては、ADHDと自閉症スペクトラムだけ知っておけばよいでしょう。
自閉症スペクトラムは、IQが低い場合(知的障害でもある)をカナー症候群と呼んでいましたが、最近はIQが低くはないアスペルガー症候群(ASD)だけが有名になりました。
発達障害の75%は知能が低いわけではなく、逆に才能を開花させうる特異な性格の持ち主を含みます。発達障害イコール知的障害ではありません。大学を出て会社の重役になったりするのです。しかし、空気を読むのが苦手なので「言ってはいけないことを言う」パワハラ上司になりうるのですね。
ADHDとは
ADHDと診断されるのは、子どもの5%、大人の2.5%です。1時間座っていられない子どもはADHDの目安でしょう。行列ができる店には行きません(私もです)。注意力散漫で、整理整頓できないためごみ屋敷になることもあります。
大人の場合は、動き回るタイプ、としゃべりすぎるタイプがあります。持続的、継続的に課題に取り組むことができないため、怠け者、無責任、非協力的と思われてしまい、社会人として問題になることもあります。
上司や産業医が大人の発達障害について知識を持つことが非常に大事です。
ADHDは医師にかかって特効薬を処方してもらうと効く場合が多いです。4種類のADHD治療薬のなかでもコンサータR(メチルフェニデート)というのは、とても覚醒度がよくなり眠気や仕事のミスが減ります。
コンサータは処方管理が厳しい薬で、他人に渡したり、余計に飲むことを防いだりするために登録医制度となっています。なかなか習得しにくい免許なので、コンサータ登録医であれば発達障害をちゃんと診療できるでしょう。
ADHDとレビー小体型認知症
私は認知症を41年間診てきました。本当はADHDなのに、いろいろなものをなくしたり、上司の言った口頭指示が頭に入らなかったりするため、「認知症が始まったのではないか」と心配になってやってきくる患者さんがいます。
10年前は、私は大人の発達障害を知らなかったため、認知症の初期などと誤診したケースがあったと思います。以来、すごく勉強したので発達障害を見落とすことはなくなりました。またレビー小体認知症(DLB)だけれどADHDでもある老人、というパターンは間違いなく多いです。
「DLB患者はADHDとして生まれた人が多い」。最初に言い出したのが、ゴリムストックというアルゼンチンの医師でした。その論文は衝撃的で私の視野を大きく広げました。まさか生まれた時の脳構造のために75年後の認知症発病に影響するなんて、と思いました。
その後、その理由を考えてきましたが、ADHDとDLBはドパミンという神経伝達物質が脆弱であるという共通点があるのだな、と納得するようになりました。
ADHDは、興味のないことは覚えようとしないので、中学2年生あたりで相性が合わない先生に当たってしまうと、どんどん成績が落ち始めます。ドパミンは快楽をおこす物質なので、それが少ないと「つまらない授業」となってしまうのです。
一方のDLBは、運動系のドパミンが枯渇すると手の震えが起こったり、ドパミンが過剰になると幻視になる認知症で、認知症の15%を占めます。DLBとパーキンソン病は親戚関係で、レビー小体病と総称されます。
若いころから寝言が大きい人は、将来レビー小体病になる可能性が高いと考えて、グルタチオンという防御因子をサプリメントとして内服しておくといいと思います。
効果を期待できるサプリメントは、その前駆体であるN-アセチルシステイン(NAC)です。こちらは女性の肌のケアにも使われています。
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名古屋フォレストクリニック院長 河野和彦さんのコラムは3回に分けて掲載をいたします。