病院に行かなくていいって本当?犬に噛まれたときの対処法と感染症の種類

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犬に噛まれたときは、傷口を適切に処置し、すぐに病院に行くことをおすすめします。「犬に噛まれたくらいで病院に行くなんて大袈裟だ」と考えるのは間違いです。

というのは、犬に噛まれた人には感染症のリスクがあるからです。有名なのは狂犬病ですが、日本で発症する可能性は非常に低く、実際に注意が必要なのはその他の感染症です。

ここでは犬に噛まれたときの対処法と、考えられる感染症の種類について解説します。

犬に噛まれたときの対処法

犬に噛まれたときは、水で洗い流すこと、止血することが大切です。それぞれのポイントを確認しましょう。

水で洗い流すときのポイント

犬にかまれたら、まず傷口を水できれいに洗い流すことが鉄則です。

犬に噛まれた患部の深さにもよりますが、できれば5分以上かけて傷口を流水で洗い流しましょう。

滅菌された水でなくても、水道水で構いませんので、十分に患部を洗って感染予防してください。

止血するときのポイント

犬に嚙まれた部位の出血がひどい場合は、傷口より上の個所をタオルやハンカチなどで縛り、止血してから洗浄しましょう。

犬にかまれた場合、動脈などの大切な血管を傷つけていない限り、通常の圧迫止血で止まることが多いです。

患部を心臓の位置よりも高くあげて、正確に出血している部分を確実に10分程度圧迫するようにしましょう。

犬に噛まれたときの感染症リスク

打撲によるあざ

犬に噛まれると、次に挙げるような感染症のリスクがあることを知っておきましょう。

パスツレラ症

パスツレラ症は犬や猫などのペットと人間に共通の病気である「人獣共通感染症」です。

パスツレラ菌(パスツレラ属菌)による感染症で、代表的なパスツレラ・ムルトシダが犬や猫から人に感染する起炎菌として90%以上を占めています。

パスツレラ・ムルトシダは、犬の口腔内には約75%常在していると報告されています。

それ以外にも、パスツレラ・カニス、パスツレラ・ストマティス、パスツレラ・ダグマティスが起炎菌(感染症の原因となる細菌)として知られています。

これらの細菌は犬・猫の口腔内に高い確率で常在しており、近年のペットブームにより人間に感染する機会が増加しています。

感染経路としては、犬や猫にかまれたり引っかかれたりすることによる傷口からの感染(創傷感染)が代表的です。

そのほか、細菌の吸入による気道からの感染、あるいは動物との接触が不明な感染が考えられます。

パスツレラ症の症状

パスツレラ症の症状としては、犬や猫にかまれたり引っかかれたりした後、早ければ数時間で傷口に発赤や腫脹が現れます。

そこからさらに、皮下組織に炎症が広がり、膿が貯留するほかにも、関節や骨まで達する傷であれば関節炎や骨髄炎を発症することもあります。

免疫不全を起こす基礎疾患がある場合、高齢者の場合、治療が遅れた場合には重症化し、菌血症や敗血症に至ることがあります。

また、パスツレラ症に感染しても誰もが発症するわけではありませんが、高齢者で呼吸器系の基礎疾患がある患者さんにおいて、副鼻腔炎や気管支炎、肺炎、肺化膿症、膿胸などが生じることもあります。

稀に髄膜炎や敗血症、菌血症、腹膜炎などを発症します。中でも糖尿病、肝硬変、HIV感染症、悪性腫瘍などの免疫不全を起こす基礎疾患があるケースでは、症状が重症化する傾向があります。

狂犬病

犬に噛まれた時に真っ先に頭に浮かぶのが「狂犬病」です。

特に、海外(特に東南アジア)で哺乳動物(犬・猫・サル・コウモリ・フェレットなど)に噛まれた場合には、狂犬病ワクチンを接種する必要があるといえます。

日本国内では昭和31年(1956年)を最後に発生していません。

狂犬病の症状や特徴としては、非常に長い潜伏期間で発症(通常1~3か月、最長8年後)し、一度発症すると強い錯乱状態におちって、水を見ると首(頚部)の筋肉がけいれんし(恐水症)、高熱や全身けいれんなどが起こり、呼吸器障害と共に死亡するといわれています。

有効な治療法がなく、発症するとほぼ100%の方が亡くなり、感染疑いがある場合には、連続したワクチン接種をすることで発症を抑えることができることから、狂犬病ウイルスをもつ動物に接触した疑いがある場合には、迅速な対応が必要となります。

世界保健機関によると免疫グロブリンの投与ができない場合であっても、暴露後すぐに傷口を徹底して洗浄し、ワクチン接種を完了させることで95%以上の防御効果が得られるといわれています。

破傷風

国内で犬に噛まれた場合でも狂犬病を発症することはほとんどなく、実際に接種されることの多いのが「破傷風ワクチン」です。

破傷風菌とは土壌に広く分布する菌のひとつです。

おもに、酸素が触れない傷口で細菌が増殖して毒素を産生し、それに伴ってけいれんやひきつけなどの神経症状が起こり、病状が悪化すると成人でも10~20%という高い致死率になります。

こういった経緯から、破傷風は注意しなければならない感染症のひとつであり、汚染されている傷の場合は破傷風ワクチンの接種を推奨しています。

犬に噛まれた場合は、保険適応内で数百円から接種することができ、原則的に長期間免疫能を持たせる場合は3回接種、そうでなければ2回接種になります。

カプノサイトファーガ感染症

カプノサイトファーガ感染症とは、犬の口腔内に常在している3種の細菌である、カプノサイトファーガ・カニモルサス(C.canimorsus)、カプノサイトファーガ・カニス(C. canis)及びカプノサイトファーガ・サイノデグミ(C.cynodegmi)を原因とする感染症です。

この病気は、犬や猫に咬まれたり、ひっ掻かれたりすることで感染しますし、傷口をなめられて感染した例もこれまでに報告されています。

細菌の潜伏期間は、1~14日とされていて(多くは1~5日)、発熱、倦怠感、腹痛、吐き気、頭痛などを前駆症状となっています。

重症例では、敗血症や播種性血管内凝固症候群(DIC)、敗血症性ショックや多臓器不全に進行して死に至ることがあります。

日本国内の犬の74~82%、ネコの57~64%がC.canimorsusを保菌しているというデータがありますし、C.cynodegmiの保菌率は犬で86~98%、猫で84~86%、C.canisは近年報告された新しい菌種のため、現在調査中とのことです。

ほとんどの犬や猫が口腔内に保菌していることから、ペットとして飼育している犬・猫からの感染も数多く報告されています。

また、健康な方でも、糖尿病、高血圧、免疫抑制剤の使用など基礎疾患を持っている方と同程度の患者数が報告されていますので、日常的に犬などの動物とは節度を持ってふれあうことが大切です。

病院に行かなくていいって本当?

犬に嚙まれた際には、犬の唾液中に存在している菌が、噛まれた傷口から侵入して炎症を起こして傷口から細菌やウイルスが侵入し、感染症を起こす可能性があります。また、傷口周囲の組織まで破壊されている可能性があります。

基本的には、傷の大きさや深さに関わらず、病院を受診することを心掛けて、落ち着いたタイミングで構いませんのでなるべく早く病院に受診するようにしましょう。

犬にかまれた時の傷は「汚染された傷」になって、抗生剤加療やワクチン接種などが必要になる場合が多いので、病院を受診することをおすすめします。

まとめ

これまで、犬に噛まれたときの対処法や感染症の種類などを中心に解説してきました。

飼っている犬などは家族と同様に大切な存在ですが、突然の感情の起伏や、持って生まれた性格などによって、突然に犬に噛まれたり、引っかかれたりしてしまうことがあります。

そのとき、気をつけたいのが破傷風や狂犬病など感染症の症状です。

感染症を予防するため、また傷口の処置を確実に実施するために、犬に噛まれたら外科や皮膚科など専門医療機関を受診してください。

また、骨にまで達しているほどの深い場合は、大きな総合病院でないと対処できない場合がありますので、出来るだけ早く救急外来を受診するようにしましょう。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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