重大な病気の可能性も?腰痛の原因になる内臓の病気

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腰痛は背骨に問題がある場合以外にも、内臓の疾患や心理的な要因によって症状が出ていることがあります。

ここでは特に内臓の病気を原因とする腰痛を取り上げ、どのような疾患が関わっているのかを見ていきましょう。

骨だけじゃない!腰痛の原因

腰痛を引き起こす原因としては、脊椎の病気や内臓の病気、さらには心理的な要因によるものなどが挙げられます。

脊椎の病気が原因の腰痛

黄色靭帯が加齢にしたがって肥厚性変化を生じることによって脊柱管が相対的に狭くなる結果として脊髄馬尾神経が物理的に圧迫され、足のしびれなど下肢症状や腰痛などを自覚すると腰部脊柱管狭窄症が疑われます。

腰部脊柱管狭窄症という病気では、主に椎間板の変性や黄色靱帯の肥厚などが原因で脊柱管のスペースが狭くなることで馬尾や神経根が圧迫を受けてお尻周辺の殿部から足を中心に下肢全体のしびれ症状が生じ、時には膀胱直腸障害などが現われることもあります。

腰部脊柱管狭窄症においては、腰椎椎間板ヘルニアにおける下肢痛ほど強くは自覚されない傾向にありますが、下肢痛やしびれを代表とする感覚異常が主な症状となります。

腰部脊柱管狭窄症における数々の症状に関しては、安静時には軽度であるものの歩行運動などを継続していると悪化してしまう間欠性跛行などが典型的です。

疫学的には腰部脊柱管狭窄症は、60歳以降あるいは70歳前後の高齢者に多くみられ、間欠性跛行の症状が進行すると、連続して動くことが出来る歩行距離が短縮されて、次第に安静時においてもしびれも強く感じて日常生活に支障をきたします。

腰部脊柱管狭窄症における一般的な治療としては、薬物療法やブロック注射などの保存的治療が行われることが多く、効果が著明でないケースでは手術的治療の適応となります。

内臓の病気が原因の腰痛

腰痛には様々な原因がありますが、そのうちの一つとして内臓の重篤な病気が原因となっている場合があります。

内臓疾患であれば、消化器系(胃・十二指腸潰瘍、胆石、胆嚢炎、膵臓炎)、泌尿器系(尿路結石、腎結石、腎盂腎炎、前立腺癌)、婦人科系(子宮内膜症、子宮癌)、循環器系(心筋梗塞、解離性腹部大動脈瘤)などの可能性があります。

これらの疾患には腰痛以外の症状もあり、例えば消化器官系の疾患による腰痛の場合には、腹痛、血便、嘔吐などが合併する可能性があります。

また、泌尿器系であれば、排尿障害や血尿を併存する可能性がありますし、婦人科系であれば、帯下量の増加や不正出血などが伴い、循環器系の心筋梗塞であれば、締め付けられるような背中や腰の痛み、解離性腹部大動脈瘤であれば、腰や下腹部の激痛などが特徴です。

腰痛だけでこれらの疾患を疑うことは難しいですが、このような腰痛以外の他の症状も顕著にみられた場合は早めにそれぞれの専門病院にかかりましょう。

心因性腰痛(痛覚変調性疼痛)

心因性腰痛は、ストレスなどの心理的な負担が原因となって発症する腰痛のことを指します。国際的な流れから現在では「痛覚変調性疼痛」と呼ばれるようになっています。

物にぶつけて、骨が折れたりなどで起こる痛みを「侵害受容性疼痛」、神経が障害されて起こるジンジン・ビリビリとした痛みを「神経障害性疼痛」、そしてそれらのような異常がないにもかかわらず、脳の変化によって痛みが起こっている「痛覚変調性疼痛」です。

この痛覚変調性疼痛は、元々「心因性疼痛」と呼ばれていたもので、過度のストレスによって起こる痛みもこの中に含まれます。

脳の機能が変化して起こる痛みであることから、レントゲンやMRIなどの画像検査で原因が特定されず、原因不明の腰痛として精神的な問題と片付けられてしまうことが多々あり、適切な治療が受けられないことなどがあります。

適切な治療を受けるためにはペインクリニックや痛みの治療経験が豊富な整形外科などを受診することをおすすめします。

腰痛を伴う内臓の病気

腰痛を伴う内臓の病気について、消化器系、循環器系、泌尿器系、婦人科系に分けて詳しく見ていきましょう。

消化器系の病気

腰痛を伴う消化器系の代表的な病気として、「急性膵炎」が挙げられます。

急性膵炎は、何らかの原因によって膵臓に炎症が起こってしまう病気です。

膵臓は胃の裏側に位置し、血糖調節ホルモン(インスリン・グルカゴン)・膵液の消化酵素を分泌する働きを持っています。

消化酵素には、アミラーゼ(デンプン分解)・リパーゼ(脂肪分解)・トリプシン(タンパク質分解)があり、本来はその消化酵素が膵臓自体を消化しないように安全に機能しています。

しかし、何らかの原因によって正常に機能しなくなると、膵臓の消化酵素は異常に活性化して膵臓そのものを消化(自己消化)してしまう結果、膵臓に炎症が起き、腹痛・吐き気などのさまざまな症状が出現します。

急性膵炎が起こった場合は、絶食して肝臓を休ませ、薬物療法で水分補充・炎症改善・消化酵素分泌抑制などを行います。

重症化すると、炎症は膵臓だけにとどまらずに肺・腎臓・肝臓などへも影響を及ぼす場合があるため、早めに適切な治療を行うことが大切です。

急性膵炎で最も多い症状は、上腹部の痛みですが、膵臓は胃の裏側に位置しているため、背中の痛みや腰痛を訴える方もいます。

非常に強い痛みが突然現れるのが特徴であり、食後に痛みが現れる場合もあり、胃痛と間違われることもあります。

循環器系の病気

腰痛を伴う循環器系の代表的な病気として、「腹部大動脈瘤」が挙げられます。

腹部大動脈瘤は、主に腹部の大動脈が拡張している状態を指していて、腹部大動脈瘤はしばしば無症状で進行することがあります。

大きなサイズの腹部大動脈瘤では、腹部が膨らんでいるように見えることがあり、瘤が成長すると、腹痛や腰痛が起こることがあります。

泌尿器系の病気

腰痛を伴う泌尿器系の代表的な病気として、「尿路結石」が挙げられます。

尿路結石が尿管にひっかかると、尿管の動きとともに激しい側腹部の痛みや腰痛症状が生じます。

さらに、尿が下流の膀胱へと流れないがために上流で尿が貯留して淀んでしまうため、腎盂腎炎などの尿路感染症を引き起こして腎臓の機能障害などが生じることになります。

尿路結石の治療には、多くの場合には経過観察、薬物治療、そして専用の超音波装置を用いて体外から体内の結石を砕く治療法、あるいは手術治療(多くは内視鏡手術)などがあります。

尿路結石症にならないために、罹患予防の観点から日ごろから十分な水分を摂ることが重要です。

婦人科系の病気

腰痛を伴う婦人科系の代表的な病気として、「子宮内膜症」が挙げられます。

子宮内膜症とは、本来なら子宮の内側の壁を覆っている子宮内膜が、子宮の内腔以外の部位(卵巣や腹膜、子宮の壁の中など)に発生し、発育を続ける病気であり、20~30歳代の若い世代の女性に発症することが多いとされています。

子宮内膜症を発症すると、早期の段階では月経痛が強くなります。病状が進行すると周囲の組織と癒着を引き起こし月経痛が悪化するだけでなく、慢性的な腰痛や下腹部痛、排便時や性交時の痛みなどが現れるようになります。

子宮内膜症は卵巣や卵管などに癒着を引き起こすため不妊症の原因となるケースも多く、子宮内膜症患者の約3割は不妊症であるという報告もあります。

まとめ

これまで、腰痛の原因になる内臓の病気などを中心に解説してきました。

腰痛の症状については、筋肉や神経など整形外科に関連する原因以外にも、消化器系、循環器系、泌尿器系、婦人科系など内臓疾患が原因となって腰痛を生じる場合があります。

腰痛の原因が内臓なのか、筋肉や神経なのか判別するのは難しい場合もありますので、心配であれば、それぞれ専門医療機関を受診して相談しましょう。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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