笑うことの健康効果とは?免疫力アップや認知症予防に

笑顔の練習をする女性の口元
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笑うことは健康によいと聞いたことがある人も多いと思います。笑うと免疫によいとか、認知症になりにくいとか様々な事が言われていますが、実際はどうなのでしょうか。笑うことと健康の関係について、現在分かっている内容を紹介します。

笑うこととナチュラルキラー細胞の関係

ナチュラルキラー細胞は、免疫に関係する細胞で、リンパ球の一種です。人の体内には常時50億個のナチュラルキラー細胞が存在すると言われています。

免疫というと、体内に入ってきた細菌やウイルスを特異的に検知し、排除するのが仕事と思われると思います。このような免疫の場合、一度体内に異物が侵入した後、体がその異物を記憶しておいて、再度異物が侵入したときに攻撃できるように準備をしておくのが一般的です。麻疹などには2度目の感染がないというのもこの機構によります。このような機構のことを獲得免疫と言います。

しかし、初めて感染したときに何の情報も無い状態で感染し、それに対抗する手段が何もないのであれば体は感染に負けてしまいます。そのような状態の時にも働ける免疫が、自然免疫と呼ばれる免疫です。

例えばウイルスに感染したとしましょう。ウイルスは体に感染するとき、ウイルス単体で存在する事はできません。体の中の細胞に感染します。そしてナチュラルキラー細胞は、感染した細胞を検知し、自ら破壊をするのです。

細かい話しをすると、ウイルス感染防御の中心となるのは細胞障害性T細胞というリンパ球です。このリンパ球もナチュラルキラー細胞と同じようにウイルスに感染した細胞を処分することで体を守るのですが、作用が発現するまでに数日かかります。ナチュラルキラー細胞は感染してすぐの時のいわば初期消火の役割を担っているのです。

さらにナチュラルキラー細胞が傷害するのは、ウイルスに感染した細胞だけではありません。がん細胞も、異物として認識して排除します。

このようなナチュラルキラー細胞は、笑うことによって活性化されます。免疫システムは、脳の一部である間脳がコントロールしていますが、笑うことによって間脳に刺激が伝わり、情報伝達物質が活発に生成されます。

この情報伝達物質を神経ペプチドと呼びます。神経ペプチドは神経細胞の興奮や抑制をほかの細胞に伝える物質の総称で、生成されると血液中に放出されます。神経ペプチドがナチュラルキラー細胞の表面にくっつくと、活性化されます。

つまり、笑うことによってナチュラルキラー細胞が活性化され、ウイルスの侵入に対して強くなるだけではなく、癌を予防する働きも期待できるのです。

笑うことの健康効果

笑顔の練習をする女性の口元

笑うことによる健康効果にはさまざまなものがあります。

自律神経を整える

自律神経系は交感神経と副交感神経からなり、互いに制御し合うことによってバランスを取ります。交感神経が活性化すると興奮し、副交感神経が活性化すると安静になります。

笑うと、リラックスしているときに働く副交感神経が優位になって、自律神経系のバランスが整いやすくなります。

この自律神経系のバランスが整っていることも、免疫系に良い影響を与えます。というのも、副交感神経系が活発に活動している時には体の機能の向上や回復、免疫機能を正常にする作用が期待できるからです。

過剰なストレスを受けたり生活習慣が乱れたりすると、自律神経系のバランスが崩れます。このような場合、交感神経系が優位になって体が休まることがなく、免疫系が正常に働かなくなってしまいます。

免疫系だけではなく、交感神経系が優位なままだと血圧や脈拍が上昇し、心臓や血管に悪影響を来します。脳も交感神経が優位なままだと休むことができなくなってしまいます。結果として体全体のバランスが崩れてしまうのです。

笑うことによって副交感神経系を優位にすることは、これらの悪影響を改善し、体全体のバランスを整えることにつながります。

脳を活性化する

脳は、ストレスを受けると緊張状態になり、酸欠状態となってしまいます。すると、脳の働きが鈍くなります。反対に、笑うと脳もリラックスして血流が増加し、たくさんの酸素を取り込むことが出来、脳細胞が活性化して働きが活発になります。特に人の記憶を司ると言われている海馬が活性化されることにより、記憶力や思考力のアップにつながります。

酸素の取り込みだけではなく、脳波の変化も出てきます。笑うと脳の中ではアルファ波と呼ばれる波が増加します。これはリラックスを示す脳波です。笑うことがリラックスをもたらすということは、脳波からも示されています。

血行促進

思いっきり笑ったときには、大きな呼吸をします。この大きな呼吸は深呼吸や腹式呼吸と同じような深い呼吸を促します。深い呼吸をすることは体内に酸素がたくさん取り込まれることにつながるため、血の巡りが良くなって新陳代謝も活発になります。全身の血流が良くなりますから、内臓の働きも活発となり、消化もスムーズになります。

筋力アップ

笑うことは脳の認知機能を刺激したり免疫系を改善したりするだけではなく、それ自体が運動効果を持っています。大きく笑うことによって腹部や胸部、顔、四肢の筋肉の運動になります。細かく筋肉を見ていくと、腹直筋、横隔膜、肋間筋、顔の表情筋等です。これによって筋力トレーニングの効果を持ちます。

消費カロリーとしては、15分間笑うことによって約40kcal消費するといわれています。これは軽く公園を散歩する程度の運動量になります。

笑いは高齢者の認知症予防に

近年笑いに期待されているのが、高齢者の認知症予防です。

笑いは人間特有の行動と言われています。人間が持つ高次脳機能によって笑いが生まれてきます。普段からよく笑うことで、高次脳機能を刺激することになりますから、高次脳機能障害の一つである認知症の予防につながるのではないかと期待されているのです。

笑いの認知症予防への影響については、2007年に大阪大学大学院准教授の大平哲也先生が研究しています。それによると、65歳以上を対象に調査を行うと、笑う頻度の少ない人に認知機能低下症状がより多くみられるということが分かりました。さらに2007年時点で認知機能低下が見られなかった人を対象として1年後に同じ調査を行いました。すると笑わない人ほど認知機能が低下していることが分かったのです。

このように、笑うことは認知症の予防に効果がある可能性があると考えられています。

無理やり笑っても効果あり!?

自然に笑えるような楽しいことや面白いことがない場合はどうしたらよいのでしょうか。そのようなときでも、作り笑いをするというのは効果的と言われています。

作り笑いであってもナチュラルキラー細胞が活性化されたり、副交感神経系が優位になったりすると言われています。特に大きく笑うことで腹式呼吸になり、本当に笑ったときと同じ効果が期待できます。作り笑いでもいいので笑う機会を作るようにしましょう。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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