鼻血が止まる仕組みと、鼻血が止まらない病気

鼻血が出た女性
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鼻出血(鼻血)は誰にでも起こりうる身近な症状です。医学的に鼻出血(びしゅっけつ)と呼ばれています。

ここでは鼻血を取り上げ、鼻血が止まる仕組みと、なかなか止まらない場合に考えられる病気について解説します。

鼻血が止まる仕組み

鼻血のイラスト解説

鼻血が出てもしばらくすると出血が止まります。それは一次止血、二次止血と呼ばれる止血の仕組みが正常に作用しているためです。

一次止血

鼻の粘膜には血管が豊富にあります。どの血管が傷ついて出血しても不思議ではありませんが、なかでも血管が集中しているキーゼルバッハ部位は出血しやすい部位です。キーゼルバッハ部位は、鼻の穴を左右に分けている壁である鼻中隔(びちゅうかく)の入り口付近にあります。

外部からの刺激を受けやすい部分でもあり、キーゼルバッハ部位からの出血が鼻血の7~8割を占めています。

一般的に、血管が破れると血管の収縮が起こったあとに、血液中にある血小板が傷口に集まってきて、血小板による血栓(けっせん)を作り、傷口をふさぎます。

この働きを、一次止血(血小板血栓)と呼んでいます。

また、血管壁が損傷すると、血小板が膠原線維(コラーゲン)に触れて活性化した状態に変化し、傷ついた血管壁の部分に血小板が集まる現象を血小板粘着と呼び、血小板が互いに接着して血栓の塊になることを血小板凝集といいます。

実際に出血した部位の傷口の上には血小板が次々と積み重なっていき、凝集した血小板からはセロトニンが放出され、出血を最小限にとどめるために血管を収縮させます。

この段階で、ひとまず血管壁の傷口はふさがり、この生理的な応急処置のことを一次止血と呼称しています。

二次止血

血小板だけの血栓では、血を止めるには脆くて不安定であり、一次止血に続いて、血液中の凝固因子と呼ばれる一群のタンパク質が働き、フィブリンの網の膜が血小板血栓の全体を固めてはじめて、止血が完了します。

この働きを、二次止血(フィブリン血栓)と呼んでいます。

この止血の過程には、12種類の凝固因子(第IV因子以外はタンパク質)が関係していて、これらの凝固因子は、次々に反応を引き起こして、最後にフィブリン(第I因子、フィブリノゲンが変化したもの)の膜を作って血小板血栓を固めて、二次止血が終了します。

凝固カスケードの分類として、内因系は血管内の凝固因子で起こる凝固を指していて、外因系は破壊された組織からの成分(第III因子)から始まる凝固の過程を意味しています。

応急処置のままでは、血流の圧力によって傷口は再び開いてしまう危険がありますので、止血の第2段階である二次止血が必要となります。

一般的に、血小板や破壊された組織からは組織因子が放出され、トロンボプラスチンは血液凝固因子であるプロトロンビンを活性化し、トロンビンに変えます。

そのトロンビンは血漿の中に存在している可溶性のフィブリノゲンを、不溶性のフィブリンに変化させます。

フィブリンは細長い線維状の分子であり、たくさん集まることで網目構造を作り、この網目に赤血球が引っかかって凝血塊ができて、それが傷口を覆うと二次止血が完了します。

鼻血が止まらなくなるその他の病気

鼻血が止まらなくなる場合は、次に挙げるような病気が関係している可能性があります。

血友病

血友病とは、出血を止める凝固因子が正常に働かない病気で、先天性(遺伝が関係する生まれつき)のものと後天性(遺伝は関係せず発症する)のものに分類されます。

出血しやすい部位は先天性と後天性で異なり、先天性の場合は主に関節内や筋肉内に出血が見られる一方で、後天性で関節内出血が見られるケースは稀といわれています。

主な症状は、関節内の出血症状や鼻血が止まりにくい、全身にあざができやすいなどが挙げられます。

高血圧

血圧が高い高血圧の状態は鼻血に限らず、脳出血など全身に出血しやすい要因のひとつとして考えられています。

特に、鼻から出血した場合には、出血の勢いが強いため、止まりにくくなることがあります。

肝臓の病気

肝臓では血液を固める作用のある凝固因子が作られますが、肝硬変などの場合はそれがうまく作れなくなるため、鼻血が止まりにくくなります。

肝硬変の初期の段階では、ほとんど症状はありません。肝臓には代償能という能力があり、肝臓の一部に障害が起こっても、残りの正常部分がそれらの機能をカバーして働くためです。

肝臓はある程度機能が低下するまで症状を自覚することはありませんので、初期の肝硬変は自覚症状がほとんどなく、代償性肝硬変と呼ばれます。

白血病

白血病は血液のがんとも呼ばれ、発症してから治療せずに放置すると数か月程度で命を落とすことがあります。

血液細胞の根源となる造血幹細胞が分化増殖して、血液成分が合成される過程で骨髄芽球という未熟な血液細胞が産生されます。白血病ではこの骨髄芽球の遺伝子に変異が起こることで悪性化した白血病細胞が増殖すると言われています。

特に、急性骨髄性白血病では、白血病細胞が増えることで正常な血液細胞が適切に作られず、赤血球・血小板・白血球の数が減少する結果、貧血による息切れ・動悸・血小板減少による鼻血・感染による発熱・歯茎からの出血などの症状が出現します。

鼻腔がん・副鼻腔がん

鼻腔がんと副鼻腔がんは、がんの中ではまれな疾患といえますが、どちらの病気も、喫煙者に多い傾向があります。

その中でも、最も頻度が多く、副鼻腔がんの大部分を占めるのが、頬の裏側にできる上顎洞がんです。

鼻腔がん・副鼻腔がんに共通する症状として、鼻づまり(鼻閉感)、鼻血、頬のしびれ、片側だけ涙が出るなどが挙げられます。

これらの症状が、数週間にわたって片側だけに続くケースは、特に要注意ですので、早急に最寄りの耳鼻咽喉科か頭頸部外科を受診しましょう。

病状が進行すると、眼球が飛び出す、歯がぐらついて不安定になる、口蓋が腫れる、頬が腫れる、口が開けづらい(開口障害)という症状が出現します。

特に上顎洞がんは、初期の段階では症状が出にくいため、進行した状態で見つかることが多いのが特徴です。

まとめ

これまで、鼻血が止まる仕組み、鼻血が止まらない病気などを中心に解説してきました。

ほとんどの鼻血は、鼻の入り口に程近い、中央にある仕切りの部分からの出血なので、基本的に心配なく、多くの場合には、適切に対処すれば短時間で治まります。

ところが、なかなか鼻血が止まらなかったり、繰り返して鼻から出血したりする場合は、病気が隠れている可能性もあります。

鼻血を引き起こす原因は、高血圧、肝臓病、血液疾患、鼻腔や副鼻腔にできた腫瘍など、さまざま考えられますので、心配であれば、耳鼻咽喉科など専門医療機関を受診しましょう。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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