肘の痛みが治らない…テニス肘・ゴルフ肘について解説
テニスやゴルフなど肘をよく動かすスポーツをしたり、仕事で肘をよく動かしたりした後に痛みが出てくることがあります。直後の痛みだけでおさまる場合は良いのですが、数日から数週間にわたって痛みが続くこともあります。ここでは、肘の痛みの原因になるテニス肘やゴルフ肘について解説します。
肘関節の解剖
肘関節は関節のなかでも非常に多岐にわたる運動を行う関節です。曲げたり伸ばしたりはもちろん、手首を内側にひねる(回内運動)、外側にひねる(回外運動)運動ができることによって、手を自由に動かしさまざまな運動ができるようになります。
この動きを支えているのが肘関節の複雑な構造です。具体的にどのような構造をしているのでしょうか。
肘関節に関わる骨は3つです。上腕部にある上腕骨と、前腕部にある橈骨、尺骨という骨です。
上腕骨は「骨の形」のイメージに合うような形と言えます。すなわち、真ん中当たりは細長いのですが、両端は膨らんでいる形です。特に肘関節の辺りは上腕骨遠位端と呼ばれ、外側、内側に膨らんだ形をしています。この膨らみの外側を上腕骨外側上顆、内側を上腕骨内側上顆と言います。
もう一つ、上腕骨の肘関節周囲で特徴的な構造が肘頭窩です。上腕骨遠位端の後面にある凹みのことです。この場所には後述する尺骨の肘頭がはまり込む形になっており、肘を伸ばしたときに尺骨と上腕骨が不安定にならないように支える構造となっています。
尺骨は、前腕の小指側にある骨です。前述の通り、尺骨の肘関節部分では肘頭といって、かぎ爪のような形の構造をしています。かぎ爪の上腕骨に接する部分はきれいなカーブを描いており、上腕骨側もおなじ角度でカーブしていることによって滑車が動くかのようにスムーズに曲げ伸ばしの運動ができるようになっています。
もう一つの前腕の骨である橈骨は、肘関節のところでは野球のバットの持ち手部分の様に、先端にわっかがついているような構造をしています。この部分を橈骨頭といい、尺骨の同じようにカーブした面に接しています。手を回内回外させるとこの橈骨頭と尺骨の間がスムーズに動くことでブレのない動きを実現しているのです。
このように、肘関節は安定をして曲げ伸ばしや回内回外ができるような骨の構造をしています。そして、その動きを邪魔しないように靱帯や関節包などのさまざまな組織が関節を支えているのです。
テニス肘(上腕骨外側上顆炎)とは
テニス肘という名前がついてはいますが、テニスだけで起こってくる病気ではありません。好発年齢は30歳から50歳ぐらいの女性です。テニスだけではなく、重いものを普段から運んだり、肘を曲げたまま力を使い続けたりという動きによって起こってきます。これらの運動をすることで、その名の通り上腕骨外側上顆に炎症が起こってくる病気になります。
上腕骨外側上顆の部分には、短橈側手根伸筋を代表としたさまざまな手の伸筋群が付着しています。伸筋というのは手関節を手の甲側に曲げる運動のことで、手首を曲げる筋肉や、指を伸ばすための筋肉などがあります。
日常生活動作や労働、テニスなどで繰り返し伸筋群を使用することで負担が上腕骨外側上顆に加わり、筋肉の腱に炎症が起こってくることで発症してきます。骨自体には異常が起こっていないことが多く、レントゲンでも異常は見られないこと、身体所見などによって診断されます。
症状の特徴
上腕骨外側上顆炎が起こると、肘の外側に痛みが生じます。重症化すると安静時にも常に痛みがあるようになりますが、初期には肘を一定の動きで動かすと症状が生じるといった自覚症状が現れます。
具体的には、ぞうきんを絞る、重い荷物をあげる、テニスをしたときにバックハンドで打ち返すなどの場面で肘の痛みを感じます。痛みから握力が低下する場合もあります。
このような痛みを生じる運動を再現する種々の検査もあります。
Thomsenテストは最も有名なテストです。まず患者さんに手を前に伸ばしてもらいます。その状態で手関節を背屈(手の甲側に傾ける)してもらい、準備完了です。この状態で、手関節が動かないようにしてもらいながら、検査を行う人が手関節を屈曲(手のひら側に動かそうと)するように力を加えます。上腕骨外側上顆炎があると、痛みが誘発されます。
チェアテストという検査は、椅子を持ち上げてもらう検査です。前腕を回内した状態で椅子などを持ち上げてもらいます。こちらも、上腕骨外側上顆炎があると、痛みが誘発されます。
他には中指伸展テストというテストもあります。中指を伸ばした状態で維持してもらいながら、検査を行う人が中指を曲げようとすると痛みが誘発されます。
これらはいずれも伸筋が引っ張られる運動になります。炎症を起こしている部分が引っ張られることで痛みを感じるというわけです。
ゴルフ肘 (上腕骨内側上顆炎)とは
ゴルフ肘は上腕骨内側上顆炎の通称です。上腕骨外側上顆には伸筋が多く付着していました。上腕骨内側上顆には反対に、屈筋が多く付着しています。そのため、手首を手のひら側に強く曲げる運動を繰り返す場合や、手でものをつかむ動作を繰り返したりすることによる過剰な負荷がかかってくると症状が起こってきます。
また、加齢に伴って腱の伸縮性が低下することも発症の原因となります。
こちらもテニス肘と同じように骨には特に異常を認めないため、身体所見で診断をしていくことになります。
症状の特徴
ゴルフ肘で痛みが誘発されるのは、肘の内側の痛みです。ゴルフ、野球、テニスのフォアハンド、重いものの運搬など、手首をしっかりと固定して肘を曲げる運動や、反対に肘を固定して手首を曲げる運動などによって痛みが誘発されます。
特にこのような動作は、うまく身体を使える人は身体の柔軟性を利用して肘に負担がかからないように運動します。しかし、身体を固定した上でこのような動作をすることでさまざまな痛みがより誘発されやすくなるのです。
ゴルフ肘を誘発する検査としては、手関節屈曲テストがあります。これは、手首を手のひら側に曲げて力を入れるテストです。これによって肘の内側に痛みが生じれば検査陽性となり、診断がなされます。
テニス肘やゴルフ肘などの肘の痛みに対する治療
骨など種々の組織に変形が起こっているわけではないので手術の適応になることはあまりありません。
動かしすぎることで炎症が起こっていることが病気の原因ですから、できるだけ手首や肘を使わないようにして安静にすることがまずは重要になります。その上で、痛みが落ち着いてきたらリハビリをすることで関節が固まってしまうのを防ぎます。
手を動かさないようにするのが難しい場合は、装具を利用する方法もあります。特にテニス肘については、エルボーバンドというバンドがあります。伸筋群の筋肉を圧迫して固定することで、手首を動かしてもその動きが腱に伝わることがなくなり、炎症部分が動くのを防ぐことができます。
ただし、これらの保存療法を行ってもなかなか治らない場合は、長年にわたる炎症によって骨が変形している可能性があり、体外式衝撃波や手術の適応となることもあります。症状が続く場合は病院で相談するようにしましょう。