左肩だけが痛い原因とは?痛みの原因や心疾患との関係

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左肩の痛みは肩関節や肩の腱板に問題を抱えている場合のほかにも、心疾患が原因になっている場合があります。ここでは左肩が痛いときに考えられる原因について詳しく見ていきましょう。

左肩だけが痛む原因

左肩が痛む女性

左肩に痛みを感じるときに考えられる原因として次のものが挙げられます。

四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)

五十肩(四十肩)になると、肩甲骨と上腕骨で構成されている肩関節部に痛み症状が出現するため、腕を色々な方向に挙上するような動作が難しくなり、特に肩関節を外側に回旋させる際には強い疼痛を自覚することになります。

この状態になると、ただ肩に痛みがあるだけでなく、いつも行っている簡単な動作が難しくなり日常生活に重大な支障をきたして不便を感じる場合も少なからず存在します。

五十肩(四十肩)は、肩関節にある腱板組織が損傷して関節包領域まで炎症が広がることによって発症します。

加齢に伴って筋肉や腱などの筋骨格系組織における柔軟性や伸展性が失われて健常に動作できなくなることで発症すると考えられていますが、明確な原因は判明していません。

なお五十肩(四十肩)には肩関節周囲炎のほかにも、腱板組織に炎症が起こる腱板炎や上腕二頭筋の一部に炎症が認められる上腕二頭筋長頭腱炎、あるいは腱板疎部と呼ばれる肩前方部位に炎症が惹起される腱板疎部炎も含まれています。

肩腱板断裂

一般的に左肩の痛みを引き起こす疾患には色々なものが検討されますが、整形外科領域で広く知られている代表的な病気に「肩腱板断裂」が挙げられます。

腱板断裂では腱板の老化などが影響して中高年の方々が多く罹患することが知られており、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の4つの腱から構成される腱板が断裂することで肩の痛みを自覚します。

本疾患は腱板組織が年齢を重ねるごとに脆くなってくるために発症するケースが最も多く、それ以外にも外傷によるものが半数、あるいは肩の使いすぎが原因となっている症例も少なからず存在すると考えられています。

外傷では、転んで肩を強打したケースのみならず手を軽くついただけでも肩関節部に負担がかかって腱板部が損傷、あるいは断裂を引き起こすことが認められます。

心疾患

心電図と救急車

左肩だけが痛む際には心筋梗塞という病気を見逃してはいけません。

この病気は、高血圧などが誘因となって形成される冠動脈の硬化性変化に伴って冠状動脈の血行障害をきたすことによっても発症します。

心筋梗塞を引き起こすとされている主な要因としては、高血圧、肥満、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症、ストレス、喫煙、家族歴などが挙げられます。

心筋梗塞は、心臓を養う冠動脈という血管が突然ふさがり、冠動脈疾患を起こすことによって心筋の一部への血液供給が大きく減少し遮断されることで発症します。

生命に必須である心臓への血液供給が数分以上にわたって大きく減少するか中断されると、心臓の横紋筋の筋肉組織が壊死することに繋がります。

心臓のポンプ機能は、心筋が収縮と拡張を繰り返すことで維持されていますので、心筋梗塞を起こして心筋の一部が機能しなくなって死んでしまうと、ポンプ機能が正常に働かなくなって、心不全などを引き起こしてしまいます。

心筋梗塞の主要な症状には左肩が痛む、あるいは急激に胸に激痛が起こり、胸に締めつけられるような圧迫感を覚えるなどがあります。

心筋梗塞を引き起こす生活内容の特徴としては、日常の食生活において塩分の摂取を過剰に取り込んでいる場合が挙げられます。

血液中に塩分が増えてしまうと、血圧が必然的に上がり、血圧が高い状態が続くと血管壁はその圧力に耐えようとして生理的に厚く硬くなってしまい動脈硬化が進行します。

例えばラーメンやうどんなど麺類の汁を飲み干すような食生活を続けていると、自然と塩分過多になって高血圧を発症して心筋梗塞を発症しやすくなると考えられます。

肩の痛みの治し方

肩のリハビリテーションを受ける女性

これまで見てきた四十肩・五十肩、肩腱板断裂、心疾患の治療法や受診の目安について確認しておきましょう。

四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)

肩関節部の強い痛みによって夜も眠れない、あるいはほとんど肩を動かせない状態と判断された場合には、その強い炎症を鎮めるために消炎鎮痛剤などの薬物を服用することをお勧めします。

具体的には、炎症を抑える作用があるステロイドを主に肩関節内に投与する関節注射として使用する、あるいは副作用がそれほど強くない非ステロイド系の消炎鎮痛剤を飲み薬として投薬することが多いです。

肩関節部の強い炎症がある程度落ち着いて痛み症状が比較的改善された段階で、多くの症例では肩関節の可動域制限が認められますので、今度はこれらの肩が拘縮した状態を改善させるためにリハビリテーションを実践することが推奨されます。

これらのリハビリテーション加療を実施しても、どうしても可動域が改善せずに疼痛症状がしつこく付きまとってくる場合には、関節鏡下授動術と呼ばれる内視鏡を用いた比較的低侵襲な手術を検討することになります。

肩関節部の可動域が悪化している原因は炎症に伴って癒着して肥厚した関節包であると考えられていますから、関節包の状態を実際に観察しながら電気メスで患部を切開することで、術後には肩関節の可動域がほぼ正常範囲まで改善することが期待されます。

肩腱板断裂

腱板断裂では、診断が遅れてしまうと的確な治療によって症状を改善することが難しくなってしまうので肩を痛めた際には早期的に医療機関受診に踏み切ることが重要な観点になります。

一般的に、外傷によって腱板断裂を認めた際には、三角巾で数週間安静を保持することで断裂部そのものが完全に修復治癒することはないものの約7割は症状が軽快すると考えられています。

仮に腱板断裂に加えて肩関節周囲炎を合併し強い夜間痛を認めた場合には、炎症を抑制する副腎皮質ホルモンと鎮痛作用を有する麻酔剤を肩峰下滑液包に局所的に注射して症状推移を経過観察します。

腱板を構成する腱組織すべてが一気に断裂することはほとんど無いと言われていますので、断裂部以外の健常に残っている腱板機能を活性化させて強靭化することは重要であり、このような腱板機能をリハビリ訓練することが有効であると考えられています。

また、ストレッチ運動で腱板断裂が完全に治癒することは期待できませんが、関節の可動域を良好にする、あるいは腱板周囲の筋肉群の緊張を和らげて肩の痛みを軽減させる効果が期待されています。

これらの保存的な療法で肩関節部における痛み症状と運動機能の障害が改善しない場合には、関節鏡視下手術や直視下手術などの根治的治療策を考慮します。

前者の関節鏡視下手術の方がより低侵襲で術後の痛みが少ないと考えられていますが、大きな断裂になると縫合処置が困難であることも指摘されていますので、後者の直視下手術を選択する場合もあります。

腱板断裂に関しては治療後再断裂のリスクも懸念されており、いずれの手術加療を選択したとしても、術後は約1か月間にわたる患部固定、そして数か月に及ぶ肩関節部の機能訓練を行います。

心疾患

急性心筋梗塞では、同時に心室細動という危険な不整脈を合併しやすく、そうなった場合には特に専門医療機関で心臓カテーテル検査などを含めて迅速で適切な治療を行う必要があります。

心筋梗塞は、死に至りやすい危険な病気であり、その発症原因のほとんどは血管の動脈硬化にあると指摘されていて、動脈硬化は食事や運動などを中心に普段の生活スタイルに少し意識して気をつけることで防げます。

したがって、心筋梗塞を発症しないためにもまずは普段の自分の食生活や運動習慣を含む生活リズムに気を配りましょう。

まとめ

これまで、左肩だけが痛い原因や心疾患との関係、治療方法などを中心に解説してきました。

普段の生活で左肩を動かした際に痛みを覚える、以前のようにスムーズに腕を背中側に回せない、肩が挙上しにくいなどの症状を自覚している人は、四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)などが考えられます。

また、腱板断裂という病気は、肩のインナーマッスルである4種類の腱板筋群の腱組織が断裂して切れてしまう状態であり、肩を挙上する際に力が入りにくくなる、あるいは左肩だけが痛いという症状を有する方は自己診断せずに専門の医療機関などで相談してください。

心筋梗塞は、動脈硬化などが引き金となって、急に胸に激痛が起こり、左肩だけが痛む場合もある危険な心臓の病気であり、万が一発症した場合には、すぐに救急車で病院に搬送して早急に治療を施す必要があります。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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