肉腫と癌の違いは? 骨にできる肉腫と軟部組織にできる肉腫

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骨や軟部組織から発生する腫瘍のうち、悪性のものを肉腫(サルコーマ)といいます。同じく悪性腫瘍である癌とは発生する組織が異なります。ここでは肉腫を取り上げ、癌との違いや、骨にできる肉腫と軟部組織にできる肉腫の特徴について見てみましょう。

肉腫(サルコーマ)とは

遺伝 DNAイメージ

肉腫は、骨や軟部組織(脂肪、筋肉、神経など)といった結合組織にできる悪性腫瘍の総称です。

肉腫が発生する明瞭な原因は明らかになってはいませんが、遺伝子の異常が多数報告されているため、遺伝子の変異が原因となっていると考えられています。

肉腫の治療は、組織型により化学療法あるいは放射線療法の効果が期待できるか、悪性度はどの程度か等により決定されますし、手術方法を行ううえでは、患者さんの年齢も考慮されます。

特に、小児や思春期から若い成人の患者さんでは、将来の発育、長期的な影響も考慮して、総合的な観点から治療法が選択されます。

肉腫と癌の違いとは

肉腫と癌の違いについて確認しましょう。

発生する組織の違い

悪性腫瘍は、全ての臓器・組織から発生しますが、その由来により呼び方が違います。

皮膚や胃・腸の粘膜など上皮性の細胞から発生した悪性腫瘍を癌(cancer,carcinoma)という一方で、筋肉・線維・骨・脂肪・血管・神経など非上皮性の細胞から発生した悪性腫瘍を肉腫(sarcoma)と呼びます。

造血臓器から発生した白血球や悪性リンパ腫などもこれに入りますし、骨は非上皮性のみで上皮性成分がないので、骨の悪性腫瘍は骨肉腫です。

癌と肉腫の違いは、由来する、あるいは模倣する組織が上皮性組織であれば癌、非上皮性組織であれば肉腫ということになります。

肉腫は、主に結合組織や骨、筋肉などで発生するがんの一種であり、他のがん、特に上皮起源の癌(カルチノーマ)とは発生する組織が異なります。

頻度の違い

肉腫は比較的まれであり、がん全体の約1%を占めるに過ぎませんが、その治療方法や予後は、発生部位や細胞のタイプによって多彩に異なります。肉腫はしばしば若年者に見られるがんの一種であり、その診断と治療は特に困難なことが知られています。

転移のしやすさ

肉腫は他のがんと比べて転移しやすい特徴があり、しばしば肺や他の臓器へ拡散します。

肉腫の治療には、外科手術、化学療法、放射線療法などが含まれることが多く、肉腫の予後は、発見された段階や腫瘍の種類に大きく依存します。

肉腫の種類や悪性度により、治療方針や予後が異なりますし、特に滑膜肉腫では、病状が進行すると血行性に遠隔転移を生じることがあり、特に肺への転移が多いとされています。

骨にできる肉腫と軟部組織にできる肉腫

骨にできる肉腫と軟部組織にできる肉腫を見てみましょう。

骨にできる肉腫

骨肉腫は、主に若年層に発症する骨のがんであり、骨のどの部分にでも発生する可能性があり、長い骨の成長部分に多く見られます。

代表的な症状としては、痛みや腫れがあり、骨折を伴うこともあります。

治療方法としては手術、化学療法、放射線療法が主に用いられ、早期発見が治療成功の鍵となります。

骨肉腫の自覚症状として、主に痛みや患部の腫れが挙げられます。

特に、夜間や安静時の痛みが特徴的で、徐々にその痛みは持続的になり、日常生活に影響を及ぼすこともありますし、病気が進行すると、患部が腫れ上がり、外から見ても明らかな変形が生じることがあります。

骨肉腫の症状と骨折

肉腫に伴う骨折は、外力によって骨が耐えられずに生じる損傷で、全身のどの骨にも発生する可能性があり、激しい痛み、腫れ、患部の変形、動かせなくなるなどの症状が挙げられます。

骨折の治療方法は、損傷の程度や部位により異なり、簡単な固定から手術による治療まで幅広く、適切な診断と治療を受けることで、骨折した骨は正常に回復する可能性が高くなります。

骨肉腫に関連するそのほかの症状には、患部の熱感や皮膚の赤み、体重減少、疲労感などがあり、これらの症状は骨肉腫の進行に伴って出現することがあり、進行した段階で顕著になることがあります。

骨に発生する肉腫は、骨の中の限られたスペースで腫瘤が増大することにより、骨組織の内圧が増大して痛みを呈することがしばしばあります。

また、正常の骨が肉腫に置き換わってしまうと、力学的に強度が弱くなり、骨折所見を来すことがあります。

骨肉腫の診断

骨肉腫では、その診断方法の一つとして、単純X線像が重要です。

骨の表面の骨皮質の破壊像や、骨が溶けているのか作られているのかの違い、辺縁が明瞭なのか不明瞭なのかの所見、腫瘍の浸潤に対応して骨の表面に新たに骨が作られている像(骨膜反応)等の所見が重要です。

これらを評価することによりしばしば組織型まで推測することができます。

レントゲン検査だけではなく、CT画像検査も重要で、単純X線写真で評価できない微小な変化を見つけられることがあります。

さらに、MRI画像検査は、手術時における切除範囲を決めるために多く用いられますし、病変の性状も詳細に評価できます。例えば、化学療法後、組織が硬い肉腫では、細胞が壊死に陥っていても病変部が縮小しないことがありますが、MRI画像所見で輝度が変化して、治療効果が分かりやすく判定できることがあります。

また、骨シンチ、PET検査は転移の検出に用いられます。

軟部組織にできる肉腫

軟部肉腫は軟部組織(筋肉、脂肪、神経など)から発生する悪性腫瘍であり、全身のあらゆる部位に発生し、約60%は四肢(うち3分の2が大腿部などの下肢)に発生します。

2018年度の全国軟部腫瘍登録の統計では、日本全国でこの1年間に1980名の軟部肉腫患者(人口10万人あたり約3人)が診断・治療を受けています。

肺がん・胃がんなどのがんと比べると発症頻度は非常に少ないことがわかっています。

2018年度までの統計では頻度として脂肪肉腫が最多です。

発症頻度が比較的高い軟部肉腫

その次に、悪性線維性組織球腫(未分化多形肉腫など)、平滑筋肉腫、粘液線維肉腫の順に多いといわれています。

腫瘍の種類によって、発生部位や好発する年齢に特徴がみられ、脂肪肉腫や粘液線維肉腫は大腿部に、類上皮肉腫は前腕から手の浅層に多く発生します。

年齢の違いによる傾向

横紋筋肉腫、軟部発生ユーイング肉腫や滑膜肉腫は10歳代から20歳代の若年者に、その他の軟部肉腫は中高年以降に好発する傾向があります。

成人型軟部肉腫で多いのは脂肪肉腫、粘液線維肉腫や未分化多形肉腫などがあります。

軟部肉腫の主な症状は腫瘤(しこり)や腫れであり、痛みは伴わないことが多いです。

深部に発生した場合、かなり大きくなってからはじめて気が付くこともまれではありません。

神経の近くに発生したものや神経そのものに発生したもの(悪性末梢神経腫瘍など)は、しびれや麻痺などの神経症状を伴うことがあります。

まとめ

これまで、肉腫と癌の違い、骨にできる肉腫と軟部組織にできる肉腫などを中心に解説してきました。

腫瘍(新生物)には上皮性腫瘍と非上皮性腫瘍があり、上皮性腫瘍は表皮や消化管、腺組織の性質を具えた腫瘍で、悪性である場合「癌」と呼びます。

それに対して、非上皮性腫瘍は、非上皮性間葉組織(中胚葉由来の脂肪組織、線維組織、血管、リンパ管、筋、腱、滑膜、骨、軟骨)および外胚葉由来の末梢神経組織の性質を具えた腫瘍で、悪性である場合「肉腫」といいます。

肉腫の診断には、生検や画像診断が重要であり、特にMRIやCTスキャンは、肉腫の正確な位置や拡散範囲を把握するのに役立ちます。

肉腫に対する治療には、外科手術での腫瘍摘出、化学療法、放射線療法が主に用いられていて、これらの治療方法は、腫瘍の種類、大きさ、位置、患者の健康状態に応じて異なります。

肉腫は、他の癌と比べて、肺に転移するなど生命予後が悪い傾向にあり、早期発見と適切な治療が重要ですので、心配であれば、専門医療機関を受診しましょう。

今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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