柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)

漢方事典

「柴胡桂枝乾姜湯は悪寒がひどい、長引いたかぜによく使われます」

処方のポイント

繰り返しの悪寒と発熱に対応する柴胡・黄芩、からだを強力に温める乾姜・桂皮、痰を除く栝楼根・牡蛎、消化器を保護する甘草で構成されています。

感冒がこじれ、悪寒は強いが発熱の度合いはさほどでもない場合に適応します。

特徴的な症状は、頭部の発汗、脇の張り等、気持ちがソワソワする等の精神症状にも応用できます。甘辛味で、温服が効果的です。

柴胡桂枝乾姜湯が適用となる病名・病態

保険適応病名・病態

効能または効果

体力が弱く、冷え症、貧血気味で、動悸、息切れがあり、神経過敏のものの次の諸症:更年期障害、血の道症、神経症、不眠症。

漢方的適応病態

1 )津液不足、裏寒の症候を伴う半表半裏証、舌質は乾燥、舌苔は少。脈は弦細。

2)肝鬱化火・胃寒。津虚。舌質は乾燥、舌苔は少。脈は沈弦細。

柴胡桂枝乾姜湯の組成や効能について

組成

柴胡12桂枝9乾姜6栝蔞根12黄芩9牡蛎6炙甘草6

効能

和解少陽・通陽化飲

主治

少陽病・水飲停滞

通陽化飲:陽気を温通することによって、水飲の停滞を除去する治法です。

水飲停滞:肝気鬱滞の影響によって津液の流れが悪くなり、留まって水飲となります。

解説

柴胡桂枝乾姜湯は津液の停滞(水飲)をともなっている肝胆病に用いる処方です。和解少陽の作用によって肝胆病を改善し、温陽化飲の作用によって停滞している水液を運化させます。

適応症状

◇寒熱往来

胸脇微満・心煩:邪気が少陽経(身体両脇部)に侵入したために生じる少陽証の代表的な症状です。

◇小便不利

水飲の内停によって生じる症状です。三焦は胆と同じく少陽経に属し、水液を運化する通路とされており、三焦の経気が滞ると水液の流れが阻害され停滞します。

◇苔薄膩

水飲の停滞を示す舌苔です。

◇脈弦やや滑

弦脈は少陽証を示します。滑脈は水飲が多いことを示します。

柴胡桂枝乾姜湯は水飲の停滞をともなう少陽証に用いる処方です。しかし、少陽証の代表方剤である「柴胡湯」から、次の3薬を除去しています。人参、大棗の補気作用は滞る性質があり、水飲の停滞を助長するおそれがあるため除去します。悪心など胃気上逆の症状はないので半夏を除去します。桂枝と乾姜は温性薬で、陰邪に属する水飲を温めながら運化します。栝蔞根は別名天花粉ともいい、体内にとって有益な津液を生み、黄芩などの清熱作用を増強させる作用があります。牡蛎は軟堅散結(堅いものを軟らかくする)作用に優れ頑固な水飲停滞を除去します。

臨床応用

◇感冒

小便不利、舌苔腻、脈濡滑など水湿停滞の症状をともなう感冒に適しています。天花粉、黄芩は肺の熱邪を清し、咳を止める作用もあるので、痰、咳などの症状にも用いられます。

表寒の症状(悪寒、発熱、頭痛)が強いとき+「葛根湯」(辛温解表)

表湿の症状(頭重、悪心、苔膩)が強いとき+「藿香正気散」(芳香解表、化湿)

◇肝炎

肝炎にみられる脇痛、口苦、腹脹、腹瀉など肝鬱脾虚(肝脾不和)の症状に用います。柴胡、黄芩で肝熱を除去し、桂枝・甘草・乾姜で脾虚を温補する、そして、牡蛎で肝の肥大を軟堅散結します。慢性肝炎に適しています。

顔色が暗い、舌暗など肝鬱血瘀の症状があるとき+「加味逍遥散」(舒肝、養血活血)

または+「桂枝茯苓丸」(活血化瘀)

◇胃炎

慢性胃炎に肝鬱、胃虚、脾水の症状がみられるときは、疏肝化飲作用のある本方剤を配合することがあります。ストレスなどにより腹脹、腹瀉の肝鬱症状が生じた場合に適します。

◇神経症

柴胡の疏肝作用、桂枝の温通心陽作用、牡蛎の鎮驚安神〔薬性の重で驚きや不安感を鎮める〕作用があるので、動悸、不眠、イライラ、ビクビクなどの神経症状にも効果があります。

心煩をともなうとき+「酸棗仁湯」(養血安神)

イライラが強いとき+「加味逍遥散」(舒肝解鬱)

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