柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)

漢方事典

「柴胡加竜骨牡蛎湯は気持ちを落ち着かせます」

処方のポイント

小柴胡湯に、気持ちを安定化させる作用がある茯苓・竜骨・牡蛎を加えたものです。神経症状を中心に対応し、動悸や不眠、不安、いらいら感等に適応します。淡白な甘辛味です。

柴胡加竜骨牡蛎湯が適応となる病名・病態

保険適応病名·病態

効能または効果

比較的体力があり、心悸亢進、不眠、いらだち等の精神症状のあるものの次の諸症:高血圧症、動脈硬化症、慢性腎臓病、てんかん、ヒステリー、小児夜啼症、陰萎。

より深い理解のために:本方は、生活習慣病の時代に再び脚光を浴びるようになりました。高血圧症や動脈硬化症に対して適応を有する漢方製剤は珍しい存在です。一方、それを支持する基礎および臨床の研究結果が出ています。

漢方的適応病態

1)心肝火旺・脾気虚、痰湿。すなわち、いらいら、不眠、多夢、驚きやすい、動悸、のぼせ、落ち着かない、胸脇部が脹って苦しい、筋肉がびくびく引きつるなどの心肝火旺の症候に、疲れやすい、食欲不振、悪心、腹部膨満感などの脾気虚、痰湿の症候を伴うものです。腹部で動悸を触れることが多いです。

2)少陽病(半表半裏証)に、動悸、驚きやすい、不眠、胸苦しいなどの心肝火旺の症候を伴うものです。

柴胡加竜骨牡蛎湯の組成や効能について

組成

柴胡12竜骨4.5黄芩4.5生姜4.5人参4.5桂枝4.5茯苓4.5半夏6牡蛎4.5大棗4.5

効能

疏肝和脾・重鎮安神

主治

肝氣不疏・心神不安

  • 重鎮安神:薬質の重さを利用して、心神不安などの病症を鎮める治法です。

解説

柴胡加竜骨牡蛎湯は邪気が背部と腹部の中間にあたる体脇部に停滞したため、表・裏の双方に影響が現れ虚実、寒熱症状が同時にみられる複雑な病症に用いる処方です。原文では鉛丹と大黄が配合されていますが、実際には安全性を考慮して使用しないことが多いです。

適応症状

◇胸脇満悶

気の流通に障害がおき、邪気が表裏の中間部位(少陽経)に停滞すると、胸脇部に膨満感や重苦しさを生じます。

◇煩躁不安

少陽胆経の熱と陽明胃経の熱が上昇して心神を撹乱すると、イライラ、不安感がおこります。

◇舌紅

苔黄:邪気の性質が熱性であることを示す舌象です。

◇脈弦数

弦脈は病位が少陽経(胆、三焦)にあることを示し、数脈は邪気の性質が熱であることを示す本方の主な組成部分は「小柴胡湯」で、肝・胆経に停滞した邪気を和解する作用があります。原方にある炙甘草は甘味が強く熱邪を塞ぎやすいので、本方からは除かれています。桂枝と柴胡は発散作用によって体表の気を行らせ、邪気を除去します。

茯苓は利水作用によって、手の少陽三焦経の気機不利による小便不利の症状を治療します。また茯苓には安神作用もあるので心神不安などの精神症状にも効奏します。竜骨・牡蛎はその質重によって肝胆の熱を鎮め、怯えの症状を改善します(重可去怯)。また、煩躁不安などの心の症状に対しても効果があります。

臨床応用

◇癲癇

癲癇の治療には肝胆およびなから着手することが多いです。「小柴胡湯」は肝胆に停滞した邪気を和解し、茯苓、竜骨、牡蛎は心神を安定させることができます。竜骨と牡蛎は特に安神作用に優れ、癲癇の主薬として用いられます。

慢性化した癲癇のとき +「六味地黄丸」(滋陰補腎)

または +「杷菊地黄丸」(補腎養血・清肝)

または+「桂枝茯苓丸」(活血化瘀)

熱証が強い急性発作のとき+「黄連解毒湯」(清熱解毒)

または+「竜胆瀉肝湯」(清肝瀉火・利湿)

または+珍珠母、石決明、菖蒲(安神鎮驚)

◇精神症状

柴胡加竜骨牡蛎湯には疏肝・清肝・安神の作用があるので、各種の精神症状(鬱症、精神分裂症、夢遊症、神経性夜尿病など)を安定させることができます。

特にイライラ、胸脇満悶(肝鬱、肝熱症状)や不眠不安(心神不安の症状)がみられる場合に用いられます。

◇動悸

本方には動悸を鎮める(安神止悸)作用があるので、不整脈、甲状腺機能亢進症、自律神経失調症などにともなう動悸の緩和に用いられます。

「柴胡加竜骨牡蛎湯」は涼性と温性を合わせ持っていますが、どちらかといえば熱症状に適しています。特に肝胆経の症状がみられる場合に本方を選ぶことが多いです。

「桂枝加竜骨牡蛎湯」にも重鎮安神の作用がありますが、本方は温性がやや強く、寒の症状が顕著なときに適しています。特に陰陽両虚(軽症)の傾向があるときに優先されます。

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