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狭心症の治療を解説…薬物療法・カテーテル治療・バイパス手術の違い

お悩み

自分や家族が狭心症と診断されて、どのような治療の選択肢があるのか疑問に感じている方もいらっしゃるでしょう。

狭心症という病気は、動脈硬化や攣縮などの影響で、心臓に栄養を送る冠動脈という血管の内側が狭くなり、心筋への血流が乏しくなる状態を指します。

ここでは、薬物療法、カテーテル・インターベンション(略してPCI)、冠動脈バイパス手術といった狭心症の治療について詳しく解説していきます。

循環器内科と心臓血管外科の治療の違い

狭心症の治療を行う診療科には循環器内科と心臓血管外科があります。それぞれどのような治療を行うのかを見てみましょう。

循環器内科における狭心症治療

例えば、胸が苦しい、息苦しく感じる、あるいは急に道で倒れたなどの理由で病院を受診したとします。

このとき狭心症の疑いがあれば迅速に検査を進めて確実に治療する必要があります。

循環器内科はこうした一刻を争うような対応を行います。患者さんに実施した心電図を読み取り、血液検査と同時に胸部レントゲン検査や心臓超音波検査を行って心臓に異常所見はないかどうかを判定します。

そして、狭心症を疑った際には冠動脈造影検査を実行して後述するカテーテル・インターベンション(PCI)治療を併せて施行します。

心臓血管外科における狭心症治療

心臓血管外科で行われる狭心症に対する治療には冠動脈バイパス手術があります。

後ほど詳しく解説しますが、冠動脈バイパス手術は自らの血管を採取して病変部の冠動脈を越えてバイパスすることで血流の少ない部位の血液循環を改善させる治療方法です。

外科治療としての冠動脈バイパス手術は内科的なカテーテル治療よりも歴史が古く、約30年前から実施されている治療方法です。

最近では患者さんの負担ができるだけ少なくなるようにオフポンプ(人工心肺装置を使用しない)バイパス術が主流になりつつあります。

薬を用いた狭心症の治療

狭心症の治療では、薬を用いた薬物療法が行われます。

予防的な薬と、緊急避難的な薬

狭心症では必ずしも重症例ばかりではなく、冠動脈の病変が軽度である場合、あるいは病変部位があまり心臓機能や心筋収縮力に重大な影響を与えない例なども散見されます。このような場合に、薬を用いた薬物療法が行われます。

狭心症に対する薬物療法として使用される薬剤としては、冠動脈そのものを広げて拡張させる薬剤、冠動脈に血液が固まって閉塞するのを事前に予防する薬剤、心臓の慢性的な負担を軽減させる薬剤などがあります。

これらのいずれもが狭心症発作を予防するための薬です。一方で、万が一発作が起こった際に服用するニトロペンと呼ばれる薬物も良く知られています。

ただし、ニトロペンは緊急避難的に用いられる薬剤であり、ニトロペンを服用すれば症状が改善するからといって、そのまま放置することは危険であることを認識しておきましょう。

血栓溶解療法とは

血栓溶解療法(t-PA療法とも言う)という治療法があります。

血栓溶解療法とは、狭心症や急性心筋梗塞に対して実施される治療策のひとつで、狭窄あるいは閉塞した冠動脈の病変部にある血栓を特殊な薬剤で溶解する治療方法のことです。

この治療は一般的に、発症してから治療にかかるまでの時間が「概ね6時間以内」と判断された際に施行されます。

血栓溶解薬を静脈注射するか、またはカテーテルチューブを使って患部に直接薬剤を流し込むことで、血栓を溶解して血流を再開させることを期待します。

血栓が完全に溶けずに血管内に残存すると再び血管が閉塞する危険性があり、そうした場合には別の治療法を併施することも検討されます。また胃潰瘍などの出血性合併症を認めるときには、血栓溶解薬自体の副作用で出血が助長する懸念があるため、原則として実施されません。

カテーテル・インターベンション治療(略称:PCI)

カテーテル・インターベンション治療は、今から約20年前から循環器内科医などによって施行されるようになった比較的低侵襲(身体に与える負担が小さいこと)な治療法です。

細い管(カテーテル)のみで治療が完遂できるために患者さん自身の負担も外科的治療に比べて少なくて済み、現在では広く普及しています。

実際の治療場面では、前腕部の橈骨動脈や足の付け根の大腿動脈からシースと呼ばれる管を挿入して、同部位よりワイヤーやカテーテルを心臓入口部に位置する冠動脈まで到達させるところから始まります。

そして、冠動脈の内腔が狭くなっている病変部でカテーテルを風船のように膨らませることで冠動脈を拡張させたのちに、金属製の網構造を呈している「ステント」と呼ばれるデバイスを血管内に挿入して定着させます。

冠動脈バイパス手術(略称:CABG)

心臓外科医が実施する代表的な狭心症治療としては、冠動脈の閉塞部位を迂回して、新たな血管を植え付けて繋ぐ冠動脈バイパス手術が挙げられます。

この手術治療では、身体の別の部位から切り取って確保した血管の片方を狭窄あるいは閉塞している病変部の冠動脈の先に縫い付けます。

迂回路として使用される血管の種類は、従来は胃大網動脈や下肢にある大伏在静脈が頻度としては多かったですが、この方法では手術後およそ10年前後でバイパス血管が再度狭窄することがあります。現在では胸の内胸動脈や前腕の橈骨動脈を活用する傾向があります。

冠動脈バイパス手術の利点と難しさ

循環器内科医によって実施されるカテーテル・インターベンション治療に関しては、ステント再狭窄などにより狭心症などの冠動脈疾患を再発するケースが報告されています。

これと比較すると、冠動脈バイパス手術では新しいバイパス血管を縫着するので、心筋に送られる血流がほぼ完全に改善されるメリットがあります。

一方で、手術の準備に取り組むマンパワーを必要とし、手術に要する時間が長いなどの懸念もあります。また直径約2mmの細い血管どうしを縫い合わせる手技を要求されるので、執刀医のテクニカルスキル技能やスピード力などが問われます。

狭心症の治療方法を決めるときの考え方

これまで狭心症の治療法について解説してきました。こうした治療方法がどのように選択されるのかが気になるところでしょう。

薬物療法と手術のどちらを選択するか

狭心症が軽度の例では、内科的な薬物治療で症状を抑えて経過を観察するだけで制御できる場合もあります。

ただし、一般的には狭心症症状を薬物療法だけで改善させることは難しく、カテーテル・インターベンション治療や冠動脈バイパス手術などを検討する必要があることが多いでしょう。

近年では、カテーテル・インターベンション治療は非常に簡便に実施できて、なおかつ患者さん自身への侵襲的負担が少ないと考えられるため、カテーテル・インターベンション治療を第一選択に考慮します。

一方で、昨今においてはステント再狭窄などカテーテル・インターベンション治療にも限界があることが判明してきており、カテーテル治療で完全に治療が完遂できないケースや、何度も再発を繰り返すケースでは冠動脈バイパス手術が勧められます。

カテーテル・インターベンション治療と冠動脈バイパス手術のどちらを選択するか

内科治療か外科治療どちらを選ぶかを判断する具体的な条件としては、冠動脈の病変部位、あるいはその狭窄度や閉塞度合いの重症度から判断することになります。

両者どちらの治療方法を選択するかは患者さんを診ている主治医の先生の病変評価、そして直接的に病状の説明を受けた患者自身やその家族によって決断されます。

ただし、胸痛症状が突如として自覚されて悪化傾向を認める場合、あるいは心機能が顕著に悪化して命の危険が迫る場合、そして不安定狭心症と診断された場合などでは迅速に手術加療が必要となることもあります。

まとめ

狭心症に対する実際の治療方法に関して紹介してきました。

通常、狭心症による症状が軽度の場合には、内科的な薬物治療で発作を予防するように努めて経過観察できることもあります。

そして、狭心症によって胸部症状が悪化する、あるいは心筋虚血などが引き起こされた場合には、血栓溶解療法とカテーテル・インターベンション治療を駆使して一刻も早く病変部の血管状態を改善させる、冠動脈バイパス手術を施行して冠動脈の血流を再開通させる、といった治療が行われます。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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