動脈硬化の検査方法は?健康診断や病院で受ける検査の種類

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動脈硬化とは、動脈の血管壁が硬く厚く変化して、血流が悪くなってしまう状態です。動脈硬化が進行すると多種多様な臓器に障害が引き起こされます。

日本の3大死因として悪性腫瘍、脳血管疾患、心疾患が良く知られています。その中でも脳血管と心臓に関連する疾患は血管の壁の弾力性が失われて血管が劣化して狭くなる動脈硬化が主たる原因と考えられています。

動脈硬化を放置すると、脳出血や脳梗塞などの脳卒中、狭心症や心筋梗塞などの急性冠症候群、あるいは下肢動脈に異常をきたす閉塞性動脈硬化症などの病気を起こします。

ここでは動脈硬化の早期発見に役立つ検査方法について詳しく解説していきます。

一般的な健康診断で受けられる検査

一般的な健康診断で動脈硬化を早期発見できる検査としては、血液検査や血圧測定、Body Mass Index(略称:BMI)が挙げられます。

血液検査

血液検査では、動脈硬化を進行させるリスク因子があるかどうかを判定できます。具体的な項目にはLDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪、血糖、HbA1cなどがあります。

脂質に関しては、悪玉と呼ばれるLDLコレステロール、善玉と呼ばれるHDLコレステロール、中性脂肪の3種類を調べ、空腹時に測定した値が各140mg/dL以上、40mg/dL未満、150mg/dL以上であれば脂質異常症と診断されます。

動脈硬化進行に伴って糖尿病を罹患すると血糖値の変動が顕著になります。HbA1cは約1か月間の血糖平均値を示しており、この数値が大きければ大きいほど血糖コントロールが不良であることを示唆しています。

血圧測定

高血圧の状態が継続すると知らぬ間に血管壁が傷つけられて動脈硬化が悪化します。血圧測定はもっとも簡便に動脈硬化を評価できる検査です。

収縮期血圧(上の血圧)と拡張期血圧(下の血圧)をセットで測定し、至適血圧範囲と言われている120/80mmHgを超えて血圧が著明に高値になれば心臓病、脳卒中、慢性腎臓病などの発症リスクが高くなると考えられます。

BMI

BMIは世界共通の肥満度の指標です。この数値が高くなればなるほど脂質異常症や高血圧、糖尿病などの生活習慣病に罹患しやすくなるとされています。

BMIは体重(Kg)/(身長(m)×身長(m)の計算式で算出します。正常値は22で、26以上なら肥満傾向であると考えられています。

病院で受ける動脈硬化の検査の種類

病院で受けられる動脈硬化の検査について見てみましょう。

問診・触診

足の動脈硬化の検査においては、まず問診と触診が行われます。

触診では足のつけ根、膝の後ろ、くるぶしの内側、足の甲にある4か所の動脈を触って、脈が触れるかどうかを評価して、脈が微弱である際には足の動脈血管が閉塞していると考えられます。

また、この後見ていくように、腕と足首の血圧を測り、その差をみる検査でも血管が閉塞し始めているかどうかがある程度判明し、上腕部に比べて足首の血圧が低い場合には、下肢閉塞性動脈硬化症が疑われます。

ABI(Ankle Brachial Pressure Index)

Ankle Brachial Pressure Index(略称:ABI)は、左右両側の上腕部と足首の血圧を同時に測定することで、血管の硬さやつまり具合を計算して血管年齢を評価できます。

健常であれば足関節部の血圧は上腕部よりも高いのですが、下肢動脈が細くなり狭窄していると下半身における血流が悪くなりABI値が低くなることが知られています。

両腕と両足首の合計4箇所に血圧計を巻いて血圧を同時に測定するのみですので、5分~10分程度の短時間で検査が終わります。

CAVI(Cardio Ankle Vascular Index)

Cardio Ankle Vascular Index(略称:CAVI)とは、心臓から足首にかけての動脈壁の硬さを反映する指標であり、動脈硬化の状態が悪化するほど高値となる傾向があります。

実際の検査場面では、検査を受ける人が仰向けに寝た状態で、両腕および両足首の血圧と脈波を測定することでCAVI指標を算出することになります。

検査範囲には人体の大血管である大動脈も含まれています。これらの動脈壁における進展性や弾力性の低下指標は将来的な心疾患の発症や生命予後を規定する要素となることが広く知られています。

頚動脈エコー検査

頚動脈エコー検査は、首に走行している動脈に対して超音波装置を用いて観察することで頚動脈壁の厚みを測定し、血管に狭窄部位や閉塞病変がないかどうかを調べます。また、動脈硬化の進行と共に形成されるプラークの有無や浮遊性などを評価できます。

超音波検査では、頚部に検査用のゼリーを塗布して器具を首に密着させて頚動脈を観察し、動脈硬化が進行している場合にはコレステロールなどによって形成された塊が視認でき、動脈が実際に狭窄している様子が分かります。

頚動脈エコー検査は首の血管を評価できる検査として最も簡単です。血管壁の内膜と中膜を合わせた厚みが1.5mmを超えると動脈硬化と診断され、その厚みが増えれば増えるほど脳卒中発症のリスクも増大すると考えられています。

心電図検査

心電図検査は心臓の筋肉が電気活動する際に認められる電気信号を記録し、健常であれば一定の規則正しいリズムで同じ波形が続きます。

ところが動脈硬化が進行して心臓病を患っていると、時に脈拍リズムに変化が出て正常の形とは異なる電気波形が出現します。

通常、実施される心電図検査は標準12誘導心電図と呼ばれており、心負荷の程度、心肥大の有無、心筋梗塞を始めとする急性冠症候群の診断、電解質異常などを把握するのに役立ちます。検査時間も短く、苦痛の無い検査といえます。

ホルター心電図(24時間記録心電図)は夜間時を含む心電図変化を24時間かけて詳細に調査することができます。

SPP検査(皮膚灌流圧検査)

Skin Perfusion Pressure検査(以下、SPP)は、皮膚の表面の小さな血管の中の血液の流れを評価できる動脈硬化に関連する検査方法です。

動脈硬化が起きると血液の流れが悪化して、足先に傷ができていても栄養が行き届きにくくなるため、傷が治りにくくなり、難治性の潰瘍になることがあります。

SPPによる検査結果が異常の際には、足にできた傷でもなかなか治りにくいことがわかっていますので、薬処方、カテーテルで足の血管を拡張する、あるいは足の血管バイパスを作成するなど足の血流を良くするための治療を検討します。

このような、血流を良好にする治療の評価目的にも、SPPは実施されています。

SPP検査の対象となるのは、主に足に治りにくい傷を有している場合で、糖尿病、間歇性跛行、足にしびれがある、という項目の中でひとつでも当てはまる患者さんです。

SPPを実際に実施する際には、患者さんはベッドに横になり、足の血流を測る場所にセンサーを置いて、血圧を測るカフ(手首にするベルト)を上から巻いて少しずつ圧をかけ、皮膚表面の血流を止めた後、徐々に圧をゆるめていき、血流が再開したときの圧を測定します。

基準値は、最低血圧値プラス15~20mmHgです。

検査は、1か所の部位につき5分程度要し、数か所の測定が必要となるのが一般的ですので、全体で30分程度かかります。

トレッドミル検査

トレッドミル検査は、運動しながら行う心電図検査であり、心電図や血圧をリアルタイムに確認しながら、だんだん速くなったり坂道になったりするベルトコンベアの上を歩いて検査します。

主に、足の痛みがでる実際の距離、あるいは運動負荷後の足の血圧を測定して、足の血流をある程度評価できます。

トレッドミル検査は運動負荷検査のひとつであり、心臓に負荷をかけて、安静時には分からないような狭心症や不整脈などの診断を行うことも可能です。

実際の検査方法は、およそ医師1~2名、検査技師1名で行い、患者さんの上半身に心電図の電極シール、コードを付け、腕に血圧計を巻いたまま動くベルトコンベアの上を歩いていただきます。

最初に、問診や心電図、血圧をチェックして、軽く運動をしてもらいます。運動中は2~3分おきにベルトコンベアの速さや坂の角度が変わりますので、定期的に心電図、血圧を注意深くモニターします。

個々の目標心拍数に到達した場合、有意な自覚症状や心電図変化が現れた場合、息切れや足の疲れが限界になった場合には、運動を終了し、運動した後も患者さんの回復状態を数分程度観察して、検査が終了します。

眼底検査

眼球の後ろ側の壁面を覆っている網膜領域のことを眼底部といいます。

眼底検査では瞳孔の奥側にある眼底部をカメラで撮影し、眼底部の血管や網膜、視神経などを観察します。動脈硬化の程度を調べるのみならず糖尿病性網膜症や緑内障などの病気の早期発見が可能です。

動脈硬化状態が進行している網膜動脈では、血管中央部が白く輝いて観察される血柱反射が認められることが知られています。

動脈硬化そのものに自覚症状は少なく、動脈硬化に合併する疾患を発症することで気付かされることがほとんどです。動脈硬化を早期発見できる各種検査を上手く活用し、動脈硬化の危険因子を有しているか否かをチェックすることが大切です。

今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。

甲斐沼孟

産業医 甲斐沼孟医師。大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センター、大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センター、大阪大学医学部付属病院、国家公務員共済組合連合会大手前病院を経て、令和5年4月よりTOTO関西支社健康管理室室長。消化器外科や心臓血管外科領域、地域における救急診療に関する幅広い修練経験を持ち、学会発表や論文執筆など学術活動にも積極的に取り組む。 日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医・指導医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、大阪府知事認定難病指定医、大阪府医師会指定学校医、厚生労働省認定臨床研修指導医、日本職業・災害医学会認定労災補償指導医ほか。 「さまざまな病気や健康課題に関する悩みに対して、これまで培ってきた豊富な経験と専門知識を活かして貢献できれば幸いです」

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