卵巣がんはどこが痛い?症状の出方となりやすい人の特徴

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卵巣という臓器は、卵子の元となる細胞がある臓器で、骨盤の中にあります。卵巣自体は靱帯で子宮や腹壁につながっていますが、完全にがっちりと固定されているわけではなく、少し動くことができます。

卵巣は左右に一個ずつあり、2か月に1回、交代で卵巣の近くにある卵管の中に卵子を放出します。これを排卵と言います。卵子は卵管の中を通って子宮に至ります。

卵巣がんは、この卵巣に発生するがんです。ここでは卵巣がんの症状について解説します。

卵巣がんは複雑ながん

卵巣がんは他のがんと異なる特徴を持っています。卵巣には卵子の元となる細胞をはじめとしてさまざまな細胞がありますから、それぞれの細胞が無規律に増殖し、腫瘍として増大し、それぞれで特徴が異なってくることがあるのです。

他の臓器であれば腫瘍には悪性と良性があり、悪性であれば手術に加えて化学療法や放射線治療を加える、良性であれば様子見で大丈夫かあるいは切除だけで大丈夫か、というように分けることができます。しかし、卵巣腫瘍の場合は悪性と良性だけではなく、境界悪性というカテゴリーもあり、診断・治療を複雑にします。

良性腫瘍であっても卵巣腫瘍は大きくなることが多く、かといって、大きいから悪性というわけでもありません。悪性腫瘍とは、周囲の組織に浸潤したり、血管へ浸潤して血流に乗って転移したりするものを指します。

卵巣がんは自覚症状が現れにくい?

さらに、卵巣自体が腹壁に固定されているわけではないという特徴から、卵巣に腫瘍が発生して腫瘍が増大していってもなかなか周りの臓器や腹壁に浸潤することがなく、症状が出にくい傾向があります。

他の臓器の腫瘍であれば腫瘍による圧迫で正常な管腔を圧迫して通過障害が起こることで症状が出現したり、神経や周りの筋膜などに浸潤することで痛みを感じたりするのですが、卵巣腫瘍は大きくなってもお腹の中で膨らんでいくだけで他の臓器や筋肉になかなか浸潤することがなく、症状を感じないことが多いのです。

腹部が大きく膨隆し始めてはじめて気づくことも多くなります。その頃には血管浸潤も起こっており、別の臓器に転移していることも少なくありません。

卵巣以外のがんが転移していることも

卵巣腫瘍のなかには卵巣以外のがんが転移していることもあります。特に多いのは、胃や腸などのがんが腹腔内に浸潤し、腹腔内を流れ落ちて卵巣にたどり着き、そこで増殖することで卵巣のがんとなる場合です。どこのがんが原因で卵巣に腫瘍ができたかが分からないこともあり、卵巣にできたがんだから卵巣の治療をすれば良い、とはならないこともあるのです。

このように、卵巣がんは成り立ちも、増大の仕方も、さまざまなケースがある複雑ながんといえます。

卵巣がんになりやすい人の特徴

卵巣がんになりやすい人にはどのような特徴があるのでしょうか。

出産歴がない・出産回数が少ない

一般に、妊娠や出産歴がない場合や、あったとしても少ない方が卵巣癌になりやすいといわれています。

排卵のときは卵巣の表面が傷つき、そのたびに修復がなされます。毎月排卵の度に傷つき次の排卵までに修復されることが繰り返されるわけですから、その繰り返しによって遺伝子の情報伝達ミスが起こりやすくなります。この情報伝達のミスが癌化の原因になると考えられます。

妊娠していると、その間は排卵がストップします。妊娠中だけではなく出産後、授乳中も排卵はストップします。つまり、1人の赤ちゃんの妊娠出産で2年近くも排卵が停止するのです。そのぶんだけ卵巣が傷つく機会が減るわけですから、癌化のリスクが低下します。

反対に妊娠出産回数が少ないと、それだけ排卵が休止する期間がなくなりますから、癌化のリスクが上昇してしまうのです。

40歳以上の女性

卵巣癌は40代以上の女性に多くみられます。特に多いのが60代です。前述のように、排卵回数が癌化のリスク上昇と関係していますから、それだけ高齢になればなるほど癌化のリスクが上昇してきます。

なお、出産していない40代以上の女性でも、ピルを内服していた場合には卵巣癌の可能性が低くなります。ピルを内服している間は月経がとまり、排卵も止まるので卵巣のダメージが回避されるのです。

子宮内膜症がある

本来子宮の内側にある子宮内膜が、子宮の外にできる病気を子宮内膜症と言います。子宮内膜症は子宮の外の腹腔内にできる事もありますし、卵巣の中にできる事もあります。卵巣の中にできる子宮内膜症をとくにチョコレート嚢胞と言います。

子宮内膜は、ホルモンの刺激によって出血します。ですのでチョコレート嚢胞ができると、生理のたびに卵巣の中で出血が起こります。卵巣の中で血液がドロドロのチョコレートの様な状態でたまるので、チョコレート嚢胞という名前がついています。

チョコレート嚢胞になると、一部が卵巣癌になると言われています。詳しい機序は分かっていませんが、内部で圧力が上昇し、卵巣組織がダメージを受けることから卵巣癌になるのではないかと言われています。

卵巣がん・乳がんの家系

卵巣癌の約2割は遺伝的要因が関係していると言われています。

とくにBRCAという遺伝子に異常がある場合は、遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)といって、その名の通り乳癌や卵巣癌の可能性が高まります。HBOCであると分かっている人は、そうでない人と比べて卵巣癌になる確率が約60倍増加します。

また、このHBOCは遺伝します。約50%の確率で遺伝すると言われていますので、家族に卵巣癌や乳癌の人がいる家系の方は気をつける必要があります。

卵巣がんの主な症状

なかなか症状が現れない卵巣がんではありますが、腫瘍が増大してくると下腹部膨隆や下腹部の重い感じが症状としてみられてくることがあります。

腹水を産生する腫瘍もあり、一部の卵巣がんでは腹水を大量に産生するため、腹水貯留による症状が見られることがあります。腹部が膨隆し、周りの臓器を圧迫することで痛みを感じることがあります。

腫瘍が増大し、周囲の臓器を巻き込むとその臓器の機能障害が出現することがあります。例えば腸に浸潤したり圧迫したりすることで便通が悪くなり、腸閉塞の症状が出現することもありますし、尿管に浸潤して尿の流れが悪くなり、腎臓に感染症を起こしやすくすることもあります。

腫瘍が大きくなると、捻転が起こることもあります。卵巣は腹壁に固定されているのではなく、靱帯で腹壁や子宮とつながっているだけと説明しました。その靱帯を軸に、ぐるっとねじれてしまうことで卵巣への血流が阻害され、強い痛みを感じることがあります。ただしこの卵巣捻転は、卵巣癌というより良性の卵巣嚢腫などで起こることが多い症状になります。

腫瘍の破裂による痛みもあります。卵巣内で破裂し、卵巣内の圧力が上がることで痛みを感じることもありますし、卵巣外に破裂することで腹水や血液が腹腔内に貯留し、痛みを感じることがあります。ただしこちらも卵巣がんというよりは、チョコレート嚢胞という子宮内膜が卵巣内で増殖した病気で起こることが多い症状になります。

このように、卵巣がんの症状は、あまり典型的なものはなく、卵巣がんが増大し、周囲に影響を与えることで起こってくる症状がほとんどなのです。ですから、痛みをきっかけとして卵巣がんに気づくことはあまり無く、症状で卵巣がんに気づくとすればかなり進行してからになります。定期的な検診が重要になります。

卵巣がんで痛みの症状が出る場合とは

これまで見てきたように症状が現れにくい卵巣がんですが、次のようなケースでは痛みを伴います。

手術後の骨盤深部痛

卵巣がんはかなり大きくなって手術されることが多くなります。そのため、手術までに周囲の組織が圧迫され、痛みを感じることが多くなりますし、痛みを感じていなくても臓器が痛んでいることがあります。神経も圧迫されていることがあり、術後もなかなかそれらの組織が元に戻らず、痛みを感じていることが多いといわれています。

また、卵巣の手術では広範囲の組織を取ることになります。卵巣だけではなく子宮や、浸潤の度合いによっては結腸や膀胱などの合併切除もあります。

そのため、切除範囲が広く組織の損傷も大きいですから、術後の痛みは他の手術に比べてかなり広い範囲になります。術後の痛みは強いことが多く、麻酔科医としては術後の疼痛対策を色々と練る必要がある手術になります。

他の臓器への転移

卵巣がんは転移を起こすと、転移先の臓器で増大し、症状を引き起こすことがあります。

例えば骨に転移すれば、骨の周囲の関節が動いたり骨を触ったりすると痛みを感じます。肺へ転移した場合、肺の表面まで腫瘍が増大してくると胸壁と触れることによる痛みや、呼吸に伴う痛みを感じます。脳転移した場合はてんかん発作が起こったり、手足の麻痺や感覚障害が起こったりします。このように、転移をした場合は色々な症状が出現します。

腹膜播種

腹膜播種とは、腫瘍細胞が卵巣の中にとどまらず、卵巣表面から出てきて腹腔内のさまざまな場所に生着することをいいます。腹膜播種を起こすと、腹膜から筋膜や皮下組織に浸潤し、そこにある痛覚センサーを刺激して痛みを感じることになります。

痛みを和らげる治療について

このように、卵巣がんによる痛みは原因が多岐にわたっており、また痛みが出現している頃にはがんがかなり進行していることが多くなります。そのため、すぐに手術をして根治ができることは少なく、化学療法をしながら緩和治療へと移行していくことが多くなります。

もちろん化学療法中も痛みがありますから、痛みに対する治療は初期からしっかり行っていく必要があります。

具体的にはまずは鎮痛薬を使用します。一般的な軽い鎮痛薬だけではなく、医療用麻薬を必要量使用することで痛みを抑えていきます。

腫瘍の浸潤や転移による症状がある場合にはその場所に応じた治療を行うことで、痛みを軽くすることが期待できます。例えば腸の圧迫で腸閉塞となって痛みを感じているのであれば、治療によって便の通過が適切に行われるようにすることで痛みが緩和されることは多くあります。

卵巣がんは多種多様な症状を呈しますから、状況に応じてさまざまな治療を考える必要があります。気になる症状があれば、まずは医師に相談してみて下さい。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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