ランニングで膝が痛くなるランナー膝(腸脛靱帯炎)とは

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ランニングなどのスポーツをしていて膝が痛くなった経験はありませんか。それはもしかしたらランナー膝かもしれません。こここではランナー膝をはじめとする、スポーツに関連した膝の痛みについて解説します。

ランナー膝(腸脛靱帯炎)とは

ランナー膝は正式な病名は腸脛靱帯炎と言います。腸脛靱帯とはどのようなもので、どのようなメカニズムで痛みが起こってくるのでしょうか。

腸脛靭帯と大腿骨外側上顆の構造

まずは膝関節の構造について解説しましょう。

膝関節は、大腿骨、脛骨、腓骨、膝蓋骨という4つの骨からなります。大腿部分には大腿骨が存在し、硬い部分は脛骨が存在します。腓骨は脛骨の横にひっつくように存在しています。

これらの骨によってできる関節を関節包が包み、中に関節液が貯留しています。関節液と軟骨が存在することによって骨と骨はそれぞれが接する事無くスムーズに動く事ができます。

関節を固定しているのは様々な靱帯です。膝の周りには様々な靱帯があり、強固にかつスムーズに動くように固定をしているのです。さらに膝関節の動きを支えるために様々な筋肉が付着しています。

その中でも腸脛靱帯は、腸骨という骨盤の一部と、脛骨の外側を繋ぐ靱帯です。膝の安定性を保つための靱帯です。

ランナー膝のメカニズム

ランナー膝は、この腸脛靱帯が炎症を起こすことによって起こってきます。実は腸脛靱帯は大腿骨の横を走行しているのですが、大腿骨遠位端の大腿骨外側上顆という膨らみの横を通過しているのです。

そのため、膝関節を動かすとこの大腿骨外側上顆に腸脛靱帯はこすられることになります。特に膝を30度屈曲する程度で丁度外側上顆に腸脛靱帯が重なる程度になりますから、30度を超えて屈曲したり伸ばしたりを繰り返している場合に何度も靱帯がこすれることになり、だんだんとダメージが蓄積していきます。

ダメージが蓄積した靱帯には次第に炎症が起こってきます。炎症が起こると腫れたり、痛みが出たり、熱感が出たりしてきます。

ランナー膝になりやすい条件

ランナー膝には、なりやすい条件というのがあります。まずは膝をあまり曲げない状態でのランニングをしている場合に起こりやすくなります。例えば下り坂や雨の日のランニングのときには起こりやすくなってきます。

これは、丁度30度ぐらい屈曲した状態で細かく曲げ伸ばしをするため、摩擦がより強くなり靱帯に炎症が起こりやすくなってくるためです。

また、元々の骨格も影響してきます。膝が屈曲している場合、大腿骨外側上顆の突出が大きい場合、O脚がある場合などに発症しやすくなってきます。

初期の段階ではランニング中のみに痛みを感じる程度で、休むと痛みが治まってきます。しかし、重症化するにつれてランニングをしていないときにも痛みを感じるようになってきます。

他にもあるスポーツによる膝の痛み

スポーツによって起こってくる膝の痛みとしては、ランナー膝以外にも次のものが挙げられます。

ジャンパー膝

ジャンパー膝は、膝蓋腱炎の事を指します。膝関節には膝蓋骨がありますが、この膝蓋骨は大腿の前側にある筋肉と靱帯によって繋がっています。またその靱帯は膝蓋骨の前面に付着しつつ、更に下の方へとのびて脛骨にも付着しています。

ジャンプを行うと、膝を曲げ伸ばししているだけではなく着地の時に膝が曲がらないように強い力で大腿の前側の筋肉が収縮し、膝蓋骨、そして脛骨が動かないように支えます。これが繰り返し行われると、どんどんと靱帯の付着部分に力が負担としてかかり、だんだんと炎症が起こってくるのです。

この病気はジャンプを繰り返すバレーボールやバスケットボール、陸上競技の跳躍競技を行う選手などによく起こってくる病気です。

炎症が起こってくると熱感や腫れ、痛みを感じるようになってきます。

基本的には安静にするようにして、アイシングをすることで痛みを和らげることができるほか、治療を促進する事もできます。

オスグッド・シュラッター病

オスグッド・シュラッター病も、ジャンパー膝と同じような機序で起こってきます。

ジャンパー膝が、靱帯が膝蓋骨に付着している部分で起こってくるのに対し、オスグッド・シュラッター病はその先の、靱帯が脛骨に付着している部分に負担がかかってくることで起こってくる病気になります。

この病気は特に成長期によく起こってきます。靱帯によって引っ張られる事で脛骨に付着している部分の靱帯が剥がれてしまい、痛みを生じます。

症状としては膝の前下部の運動時痛、圧痛、腫脹で、進行してしまうと同部位が腫脹して見える事もあります。

レントゲンを撮影すると、脛骨の付着部分が突出したり骨が剥がれたりしている像が見られることが多いです。

これは骨の成長に関わってくる病気ですから、骨の成長が終了し骨端線が閉鎖する18歳頃には軽快してきます。それまで運動制限をしておけば治癒を期待できます。

鵞足炎(がそくえん)

鵞足炎とは、膝の鵞足と呼ばれる部位に炎症が起こっている状態を言います。鵞足というのは、膝から5cmほど下にある部分で、すねの内側を言います。ここに縫工筋、薄筋、半腱様筋という3種類の筋肉が膜のように付着し、ガチョウの足のような形をしているという事で鵞足と呼ばれています。

これだけ筋肉が集中している場所ですから、運動したときに力がかかりやすい場所と言えます。特に膝を曲げ伸ばししたり、膝から下を外にひねったりする動作によってこれらの筋肉が動きますから、こうした動きを伴うスポーツをする場合によく起こってきます。

具体的にはランニング、バスケットボール、サッカー、水泳の平泳ぎといったスポーツは、膝に負担がかかり、鵞足炎になりやすい運動と言われています。

鵞足炎も基本的には筋肉の付着部の炎症ですから、安静にしてアイシングし、痛みが治まった頃にストレッチをゆっくり行う事で改善していきます。特にストレッチは筋肉の柔軟性を高め、再発を予防するために有効です。

使い過ぎ症候群に注意

下半身・股関節のストレッチをする女性

このように、膝周りは負担がかかりやすい部位でありますから、様々な外傷が起こりやすい部分となっています。いずれも少し膝を使っただけでは生じないもので、繰り返し膝に負担がかかることで起こってくる病気です。ですので、これらの病気をまとめて使いすぎ症候群と呼ぶ事もあります。

使いすぎ症候群はいずれも靱帯や骨が繰り返し牽引されたり摩擦がかかったりすることで炎症が起こってくる病気です。ですので、安静にしていれば自然と軽快してきます。一方で痛みがあるのに無理をして更に負担をかけてしまうと病状が悪化してしまうという特徴もあります。

何か症状がある場合には無理をせずに、安静にして改善を待つ必要があります。

郷正憲

徳島赤十字病院 麻酔科 郷正憲 医師 麻酔の中でも特に術後鎮痛を専門とし臨床研究を行う。医学教育に取り組み、一環として心肺蘇生の講習会のインストラクターからディレクターまで経験を積む。 麻酔科標榜医、日本麻酔科学会麻酔科専門医、日本周術期経食道心エコー認定委員会認定試験合格、日本救急医学会ICLSコースディレクター。 本名および「あねふろ」の名前でAmazon Kindleにて電子書籍を出版。COVID-19感染症に関する情報発信などを行う。 「医療に関する情報を多くの方に知っていただきたいと思い、執筆活動を始めました」

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