脳腫瘍とは?良性と悪性、原発性と転移性の違いを解説

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脳腫瘍は他の臓器のがんなどと異なり、どのような病気なのか少しイメージしにくいかもしれません。脳腫瘍の種類の多さもこの病気を分かりにくいものにしています。

ここでは脳腫瘍とはどのような病気なのかを解説します。

脳腫瘍はどんな病気?

脳腫瘍は、脳やその周囲など頭蓋骨の中にできる腫瘍(できもの)で、1万人に1人程度発生するといわれています。腫瘍の組織によって分類され、腫瘍の種類は100種類以上もあります。

そのため、一概に脳腫瘍といっても、どのような性質の腫瘍かによってそれが良いものなのか、悪いものなのかに分かれます。

原発性と転移性の違い

脳やその周囲の組織から発生するものを原発性、他の臓器で発生したがんが脳に転移するものを転移性と分類します。転移性脳腫瘍が発見され、全身の検査で原発のがんが見つかることも多々あります。

原発性脳腫瘍はさらに、良性と悪性に分類されます。

良性と悪性の違い

脳腫瘍には、他のがんのようにTNM分類やステージ分類といったものがありません。その代わり悪性度(WHO grade)で分類していますGrade IからIVまでで分類され、IVがもっとも悪性度が高くなります。

脳腫瘍の中で良性脳腫瘍とは、他の部位に転移することがなく、成長の速度が緩徐であり、周囲の脳との境界がはっきりしている腫瘍のことを指します。これはWHO grade Iに当たります。脳腫瘍の約40%程度を占めて、髄膜腫、神経鞘腫、下垂体腺腫などがあります。

一方、悪性脳腫瘍とは脳そのものから発生します。急速に増殖する上に、正常な組織との境界がはっきりしないため、染み込むように増殖していきます。WHO grade II~IVに当たり、神経膠腫(グリオーマ)や中枢神経系悪性リンパ腫などがあります。

代表的な良性腫瘍

代表的な良性腫瘍には髄膜腫、下垂体腺腫、神経鞘腫などがあります。

髄膜腫

良性脳腫瘍の代表的なものとして髄膜腫があげられます。髄膜腫とは脳を覆う硬膜から発生する腫瘍で、原発性脳腫瘍の20%を占めます。

脳ドックなどで無症状の小さなうちに診断されることもしばしばあります。腫瘍自体で症状が出ることはなく、たいていは腫瘍が大きくなり、脳が圧迫されることで、圧迫された脳の症状が出ることで発見されます。とてもゆっくりと発育し、そのまま成長が止まるケースもあります。

ほとんど(約90%)が良性のWHO grade Iの腫瘍ですが、悪性髄膜腫(WHO grade II,III)も存在します。良性の髄膜腫であれば、手術により摘出を行うと、その後は再発しません。

しかし、悪性髄膜腫になると、手術摘出を行なっても数年後に再発してくる可能性があり、再手術や放射線治療を繰り返さなければならない場合があります。

下垂体腺腫

下垂体腺腫とは、眉間の奥に存在する下垂体から発生する良性腫瘍です。原発性脳腫瘍の約18%を占めます。下垂体はさまざまなホルモンを分泌します(プロラクチン、成長ホルモン、副腎皮質ホルモン)。

下垂体腺腫によってこれらのホルモンが過剰に分泌され、異常をきたすものを機能性下垂体腺腫といい、ホルモンの異常をきたさないものを非機能性下垂体腺腫といいます。下垂体腺腫の中では、非機能性下垂体腺腫が約44%を占め、次いでプロラクチン産生腺腫、成長ホルモン産生腺腫の順となります。

下垂体腺腫が見つかった場合は、腫瘍のタイプ、年齢、腫瘍の大きさ、症状を考慮して治療方針を決める必要があります。プロラクチン産生腫瘍であれば、最初は薬物治療を開始します。

手術は、頭蓋骨を削って頭を開けることはなく、鼻の穴から内視鏡を入れて行う内視鏡下経鼻蝶形骨洞手術が基本となります。

神経鞘腫

脳神経というものは神経鞘細胞で覆われています。名前の通り鞘の部分です。神経鞘腫は、その鞘の部分が腫瘍になったものです。原発性脳腫瘍の10%程度を占め、聴神経、三叉神経などに主にできます。症状は腫瘍ができている神経の障害で、聴神経であれば聴力障害やふらつき、三叉神経であれば顔面の知覚障害や複視などがあります。

腫瘍が大きくなって症状をきたしているのであれば、基本的には手術による摘出になります。腫瘍化した神経は、腫瘍の塊によって紙切れのように薄く押しつぶされてしまった状態で腫瘍の表面にはりついています。この薄くなった神経は非常に弱くて手術操作によるダメージを受けやすくなっています。

この薄くなった神経だけを残し、その他の腫瘍を取り除くという手術は高度な摘出技術が必要となってきます。癒着が強くて全摘出できなかった場合や、再発が予測される場合などは、術後にガンマナイフやサイバーナイフといった放射線治療を追加することがあります。

代表的な悪性脳腫瘍

代表的な悪性腫瘍には神経膠腫(グリオーマ)と中枢神経系悪性リンパ腫などがあります。

神経膠腫(グリオーマ)

神経膠腫(しんけいこうしゅ)と呼ばれる腫瘍は、脳の実質の中からできる腫瘍という意味です。この神経膠腫にはさまざまな悪性度のものが含まれています。脳自体が腫瘍となっており、また、境界がはっきりしません。

悪性度が一番高いものを膠芽腫(こうがしゅ)といい、成人神経膠腫の約40%を占めます。治療をしても5年生きられる可能性は約10%であり、平均余命は2年ほどです。増殖速度が非常に速く、MRIで見つかってから2週間ほどで倍くらいのサイズになることもあります。

手術で全て取り去るのが一番なのですが、なにしろ腫瘍の境目がわかりません。脳は、他の臓器と違い、余分にとってしまうと摘出した部分の脳に障害が出てしまいます。

そのため、手術で腫瘍を完全に取り除くことは困難です。まずは、手術で可能な限り腫瘍を摘出して、その後に放射線治療や化学療法を行っていきます。摘出後も再発したり、残っている腫瘍が増大してくることがあり、再手術や追加治療(放射線治療、化学療法)が必要となることがあります。

中枢神経系悪性リンパ腫

中枢神経系悪性リンパ腫は60~80代の高齢者に多く発生し、増殖速度が非常に速い腫瘍です。そのため、症状が出てからどんどんひどくなっていく場合があります。

悪性リンパ腫は、手術によって摘出するのではなく、少し摘出して病理検査で悪性リンパ腫と診断がつけば(生検術)、あとは抗がん剤、放射線治療がメインとなります。

メソトレキセートという免疫製剤を投与し、その後に放射線治療を行います。増殖速度が速く、大きくなりますが、治療によって縮小がはやいのも特徴的です。しかし、再発率や死亡率は高く、できていた部位と違う部位にできることもあります。

いかがでしたでしょうか。脳腫瘍にはさまざまな種類があります。さらに近年腫瘍の分類が改訂され、原発性脳腫瘍に関しては遺伝子検査まで行わないと正確な腫瘍分類ができなくなりました。

そのため、大学病院や大きな病院でしか遺伝子検査を行えず、正確な腫瘍分類ができない場合もあります。脳腫瘍は10年、20年経ったら安心というものではなく、年月が経っても再発する可能性があります。

そのため、脳腫瘍とうまく付き合っていくことが必要となってきます。脳腫瘍が完全に摘出できても、定期的に受診して画像での評価を行っていきましょう。


<執筆・監修>

九州大学病院
脳神経外科 白水寛理 医師

高血圧、頭痛、脳卒中などの治療に取り組む。日本脳神経外科学会専門医。

白水寛理

九州大学病院 脳神経外科 医師   九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて脳神経学を研究、高血圧・頭痛・脳卒中など脳に関する疾患に精通。臨床の場でも高血圧、頭痛、脳卒中など脳に関する治療にあたる。 日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本小児神経学会、日本てんかん外科学会、日本脳神経血管内治療学会に所属。

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